時速と年収のロジック
インターネットの情報商材などで「儲かる方法を伝授します」みたいな、みるからに怪しい情報を流布する人たちが語る「月収」や「年収」についての定義がしばしば物議をかもす(世間一般ではなく、あくまで僕の中では、ということだが)。
たとえば「これで僕は月収100万円になりました!」と語っているものがあったとして、「月収」とは何をさすのか。一年間で1200万円を稼いで、月で均したら100万円ということなのか。それとも、その月たまたま100万円が手に入った、ということなのか。はたまた、一日で3万円ちょっと稼いで、「これを一ヶ月続けたら100万円ぐらい」ということをさしているのか。
つまり、百歩譲って瞬間的に100万円を一ヶ月で稼げたとしても、その後も継続して稼げる、ということを言っているわけではない。
こんなことは誰が考えてもわかることではあるのだけれど、なんだかそういう人たちのあいだではわりとそのへんが曖昧というか、わざと定義をぼかして宣伝しているように見える。もちろん、それはそういう人たちの商売のやり方なので、(たとえその手法がどんなに汚いものであったとしても)僕には関係のない話なので、まあどうでもいいといえばどうでもいい話ではある。
ただ、何も考えずに「月収100万円?! すごい!!」と騙されてしまう人たちが気の毒である、というだけのことだ。
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そういったものが非常にうさんくさいのは周知の通りなのだが、よくよく考えてみると、これと同じ論理で展開されているものが世の中にわりと普通にあることに気づく。
一番身近なのは、自動車のスピードだろう。車を運転すると、ハンドルの前方あたりにメーターがあって、そのときの車の速度が表示されている。「100km」という目盛りのところまでアクセルを踏み込んだならば、その「瞬間」は、「その速度で走り続ければ、100km走行することができますよ」ということを示しているわけだ。
しかし、もちろん少しでもアクセルを緩めれば、100kmよりも少ない速度になってしまう。つまり、実際には一時間で100km走った証拠はないのに、その状態を「時速100km」と表現しているのである。よくよく考えてみると奇妙ではある。
もっと変な例がある。野球のピッチャーが投擲するボールの速度である。大リーガーの大谷翔平選手が「時速165km」でボールを放り投げたとしても、もちろん165km先までボールを放り投げて測ったわけではない。
野球のマウンドからホームベースまでの距離は約18メートルらしいので、その短い区間を、「そのままでいくと165km先まで到達するぐらいの速度」で投げた、ということを示している。しかしそれは変だろう。だって、実際には一時間も飛ばないのだから。
「あくまで瞬間的な速度の話だ」ということであっても、たとえばボールが指から離れた直後が一番速度が速いはずなので、その瞬間を狙って速度を測ったら結果が変わってくるんじゃないか、みたいな屁理屈はいくらでもこねることができる。
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冒頭の情報商材のロジックにこれを当てはめると、たとえ一日でたまたま3万円ちょっと稼いで、「年収1200万円だ」と言ったとしても、実はそんなにおかしくはない……、ということになる。自動車の速度だったり、野球のピッチング速度に関して、一時間も持続しもしないくせに「時速」と表現しているのが世間一般に受け入れられているのだから、別にいいでしょう……と。
僕個人としては、「年収1200万円です」と主張するのであれば、源泉徴収票かなんかを出してきて、給料が1200万円であることを証明してもらわない限りは、信じる気にならない。まあ、それと同じで、車やボールの速度である「時速」というのも、なんだか、まやかしのような気がしてくるのである。
実際、マウンドからホームベースまで160kmのボールが飛んでくる時間は0.4秒ぐらいらしいので、厳密に言い始めるとあまり実感がわかないのだけれど。
まあ、屁理屈というのは、こねようと思えばいくらでもこねられるものですね。いつか情報商材でも売るようなことがあったとしたら、これを逃げ道の理屈にしましょうかね……(冗談です)。
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