見出し画像

要求していることを端的に伝える

先日、柳井正の本を読んで予想以上に面白かったので、ついでに孫正義の伝記も読んでいる。

自伝や自著ではなく、一応伝記作家によるものだ。そういう本があること自体、僕は知らなかった。

ジョブズの伝記などはエピソードも含めてみんな結構知っていると思うのだけれど、孫正義の細かなエピソードはそこまでは知られていないような気がする。伝説の経営者というと、本田宗一郎や稲盛和夫がまず思い浮かぶけれど。孫正義はまだバリバリの現役なので、「語る」には早い、ということなのだろうか。

読んでみると、意外と知らないエピソードが多いなと思った。逸話として語り継がれているものはあんがい少ないな。たとえば、高校に入学してすぐに「学校を作ろう」と思い立ち、担当教員に「今から学校を作るので、いまの二倍の給料で働かないか?」とヘッドハントを持ちかけるなど、若い頃からめちゃくちゃやっている。

担任が驚いたら、驚くべきことにすでに校長にもヘッドハントを持ちかけていたという、笑い話のようなエピソードがある。

この本を読むと、孫正義といえども最初から無敵だったわけじゃないんだな、と思う。当たり前の話ではあるが。努力家で、若い時に渡米し、最初は英語力もないまま勉強を重ね、米国で起業するまでになる。

当然ながら、ソフトバンクを起業した当初も、特に最初のほうは徒手空拳としゅくうけんの気合いだけの交渉が続いた。まあ、それはAppleやMicrosoftもそうだったわけだが。若い頃は、大物相手だとさすがに孫正義でも緊張していたらしい。

稲盛和夫に気迫負けして、本意ではない契約書にサインさせられたり。まあ、そういう経験を経て、いまのように百戦錬磨に成長していったのだろう。そういった過程があることも、当たり前の話なのだが、なんだか新鮮に映った。

本書を読むと、孫正義の交渉術というか、ビジネスのあり方として、ひとつの法則があることがわかる。それは「相手に要求することを、最初に端的に伝える」ということだ。

それこそ初対面だろうと、実績がなかろうと、会うや否や、自分の要求を相手に突きつける。しかも、その内容が常識外れで、おおよそ正気とは思えないようなものも多い。いきなりなんの実績もないのに、業界大手の会社に「我が社と独占契約を結んでほしい」と切り出すなど。

「結局、何をしてほしいのか?」が不明瞭なまま交渉をするビジネスパーソンは多い。なんとなく和気藹々と商談が進み、クロージングしても、結局何をすればいいんだっけ? というのが見えない、ということだ。

しかし、それではダメなのだろう。要は、相手の出方を伺っている、悪く言えば受け身の姿勢、ということだ。

交渉術だなんだと小手先のテクニックはいろいろあれど、結局これに勝るものはないのだと思う。端的に、相手に自分が要求していることを伝える。そのうえで、それを説明する。相手は驚いたり、怒ったりするけれど、結局最初にそれを伝えているので、それを前提に話は進んでいく。

失敗を恐れずに、というのはよく言うけれど、たいていの交渉では、そもそも失敗にすら至らない、というのが多いのではないだろうか。そういうところはとても勉強になる。

あなたはどう思いますか?

サポート費用は、小説 エッセイの資料代に充てます。