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パワーハラスメントと教育

元々テレビ業界で番組制作をしていた人が、YouTuberになって業界の裏話などを話しているチャンネルがある。すべて実体験に基づいた話だし、自分が詳しくは知らない世界なので、見ているといろいろ発見があって面白い。

その中で、「テレビ業界でパワハラが減った結果、大変なことになった」という話が面白かった。ちょっとこれについて書いてみたい。
 
昔からテレビ業界はパワハラが横行していて、AD アシスタントディレクターなどが辞めやすい環境だったのだが、さすがにこれはどうかということで業界全体で是正した結果、仕事の内容がディレクターとADで完全に分離してしまった、ということらしい。

この動画の中では詳細には触れられていないが、別の動画で、例えばテレビ番組作成に必須の「動画編集」などの仕事も、本来はADは徹夜で作業を見学したり、見様見真似で怒られつつ手を動かして鍛えられていき、成長したところでディレクターになる、という流れが普通だったらしい。

パワハラ是正後はADは雑用だけ振られてしまうために動画編集の修行ができず、いざディレクターに昇格したときにはほぼ素人同然でいきなり本番、ということが問題になったらしい。もちろんパワハラは問題だが、それによって「教える・教わる」という教育が行われていた、ということのようだ。


 
この話を見たときに、これは新卒一括採用と少し似ているな、と思った。企業の新卒一括採用による就職活動は、高校や大学などを卒業する際に誰もが経験するとは思うが、振り返ってみるとけっこう気持ちの悪いイベントである。

新卒というのはもちろん職歴がないので、「自分は今までこういうことをしてきたのでこういう実績があります、なのでこういうことができます」ということが言えない。なので、採用側の質問も何かと抽象的で、「簡単に辞めそうにないか」などが確認事項の中心だったりする。なので、質問内容が宗教的で気持ち悪い感じになってしまう。

しかし、職歴がないのだから、そういう質問をするしかない。企業側も、「何もできないということがわかっていながら」採用をする。現状では何もできないが、時間をかけて教育していこう、と考えるわけだ。

「何もできない」のが初期の状態なので、それを「仕事をできる人間」に鍛えていく過程で、指導が荒っぽくなることも当然あるだろう。また、ある種の「師弟関係」みたいなものも生まれるので、パワハラが生まれやすい環境にある。新卒採用の多い会社ほど、パワハラの温床になりやすいはずだ。
 
中途採用というのはそれとは質的に異なり、最初から「自分はこういうことをやってきました。なので、こういうことができます」という形で企業に売り込みをかけていくことになる。職歴がなかったり、期待されている能力がない場合には、そもそも必要とされないので、面接さえも行われない、というわけだ。

「資格」などはキャリアとはみなされず、「ただそれをできる準備ができている状態にすぎない」ので、職歴がなければ通常は採用されない。面接の内容も具体的ではあるが、その分、採用側の目的も具体的で、基準はシビアだと言えるだろう。
 
いま自分の勤めている会社は、新卒採用はしておらず、全員が中途採用だ。みんななんらかのバックグラウンドやキャリアをもっていて、何らかの専門家である。

会社も、「そのキャリアを生かして、会社に貢献してくれること」を期待しているが、「教育してやろう」とは思っていない。もちろん会社が用意してくれる「成長の機会」はあるが、成長は、自分で考えて、自分でやるしかないのだ。

当然ながら、パワハラ的な気質も薄いわけだが、そのぶん、なんだかドライな感じはする。自分の能力が期待されている水準に達していない場合、シンプルに新しい人が採用されて、そこに充てがわれる、ということになるからだ。


 
どちらがいいかは、その人の資質と状況によるだろう。僕は、新卒で入った会社はパワハラ的なことをされながらも厳しく「教育」してもらったが、そのおかげで今があることは確かだ。その意味で、「教育してくれること」はありがたいことだなあと思う。

30歳を過ぎたあたりから、だんだん無条件で教育してもらえる機会は減っていき、自分の力でなんとかしなくてはならない。
 
「パワハラをしてくれる時期・立場」というのは、意外と限られているものだ、と思う。もちろん、度が過ぎるのは問題ではあるけれど、多少は厳しくしてもらわないと、結局歳をとってから痛い目を見る、というところだろうか。

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