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睡眠、クロノス、カイノス

最近、寝つきがよく、寝るのが楽しい。

僕はだいたい夜の23時ごろに床につき、5時前後に起きることが多い。最近は、特に時間に追われてもいないし、気持ちよく眠れるので、22時ごろに寝てしまうことも多い。でも、朝までぐっすり眠ることができる。
 
2020年は、本当にめまぐるしい年だった。新年早々、新型コロナウィルスの災禍が世界を覆った。その後にやってきた、同僚の大量離職。

緊急事態宣言下の静寂を経て、業務繁忙による数ヶ月のお祭り騒ぎを経験した。夏あたりから、新規プロジェクトに対する会社からの圧力が強まってきて、非常に苦しい数ヶ月を過ごした。

望んだ苦労なら買ってでもするが、望んでもいない、明確なビジョンや展望もない、そういう苦労と精神的な負荷を押し付けられて、僕は懊悩し、疲弊していた。

なんとか物事を前向きに捉えようとして、いろんな「言葉」の力を使って、自分を奮い立たせてきたけれど、そういうのも限界を迎えていた。唐突に崖っぷちに追い詰められ、沈思黙考した結果、会社を辞めるのが最善の選択だという結論に至った。そして、それを実行した。
 
昔から寝付きはいいほうなのだが、夏ぐらいからは、朝がたに目覚めることが多かった。もちろん、大量に汗をかいている。夢はほとんど見ない。しかし、身体は緊張しているのだろう、起きてもうまく動かせないことが多かった。

起きても、とにかく、会社に行きたくない。出社して、同僚と話をするのは楽しい。しかし、自分に置かれた状況を思い返して、すぐに憂鬱になる。また、それ以外の時間、自宅で一人でいる時間が耐えられなかった。

そんなことはこれまでに経験のないことだったので、ちょっと戸惑った。

クロノス、カイノスという言葉がある。時間の流れ方を示す言葉だ。

「クロノス」=過去から未来へ一定速度・一定方向で流れる「物理的時間」のこと。
「カイノス」=速度が変わったり、繰り返したり、逆流したり止まったりする、人間の内面を流れる「意味的時間」のこと。

時間の流れ方というのは一定ではない。よく、過去を振り返るときに「早いような、長かったような」ということを言ったりするが、これは、物理的な時間であるクロノスと、意味的な時間であるカイノスの不一致を意味する。

日記をつけると、それが可視化される。僕は10年前、新卒で入った会社でトラックドライバーをしたことがあるのだが、最初の1、2週間というのは、それまでの人生とはあまりにも違いすぎたので、何もかもが新鮮で、刺激的で、とてもよく記憶に残っている。

しかし、仕事に慣れた以降は、記憶があいまいだ。結局、一年半ほどその仕事に従事したのだが、最初の2週間ほどの記憶が、当時の記憶の半分ほどを占めている。

ルーチンワークに慣れてくると、時間はさらに加速する。トラックドライバーの仕事は面白い仕事ではあったが、そのあまりのルーチンワークぶりに、時間の流れの加速が何よりも恐怖だった。

何しろ、昨日と今日でやっていることはほぼ同じで、数えるほどしか変化がないのだ。時間は飛ぶように流れていく。

このままでは、自分の人生なんてすぐに終わってしまうだろう。そう思った。10年ほど前の話だけれど。

翻って現在。転職を決断して、ストレスから解放され、よく眠れるようになった。コロナ禍で、きっと厳しい現実が待っているのだろうけれど、自分の人生のためなら、立ち向かえる気がする。
 
何よりも、充実したカイノスを噛み締めるために。それまでの生活から、新しい世界へ。

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