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ほら貝欲しい

車を運転しながら、NHKのラジオを流していた。

「私のニュース」という、リスナーが自分の個人的なニュースを番組に送りつけて読み上げてもらうという趣旨の、どうでもいいコーナーをやっていた。大半が本当にどうでもいいことなので適当に聞き流していたら、なんだか衝撃的なことを報告している人がいた。
 
食事の用意ができて、「ご飯ですよ」と家族に呼びかける代わりに、ほら貝を吹く人がいるというのだ。

ほら貝……?

確かにご飯ですよと大声で呼びかけるよりは音が響くので合理的かもしれないが、それにしてもシュールすぎやしないだろうか。合戦でも始まりそうな勢いだ。重低音すごそう。
 
考えてみれば、ほら貝が何たるかというのは多くの日本人が知っている。僕もわかる。あの、ラッパみたいに持って、全力で吹いてるやつ。

音もなんとなくわかる。ボーとかブオーとかそんな音。しかし、家庭にほら貝がある人というのはあまり聞いたことがない。そもそもいくらするのかもわかんないし。

早速スマホで調べてみると、それなりに奥深いことがわかった。ただほら貝を買うだけであれば、和楽器店に行けば買うことができるようだ。

価格はピンキリだが、ちゃんとしたものだと8万円ぐらいするらしい。高いのだと15万円以上。もちろん安い、1万円台の小型のエントリーモデル(?)もある。すごい。
 
ただ、楽器としてのほら貝のみならず、調べていくと仏具としてのほら貝もあるようだ。チベット密教などでは、ほら貝を仏具として利用するらしい。

そういえば、僕の家の仏教宗派は曹洞宗なのだが、法事の際はいろんな楽器をかき鳴らして、かなり賑やかだ。ほら貝があったかはちょっと定かではないが。確かに宗教用具としての使い道もあるのだろう。
 
僕がほら貝を買う合理的な理由は何一つないが、家にほら貝があったら確実に面白いだろう。もし子どもがいたら、「お前んちほら貝あるのかよ!」と同級生の間で話題沸騰に違いない(いじめられないといいが)。

家に訪問販売してくる無頼の輩に対して、ほら貝を吹きながら応対してみるというのはどうか。そんな奴に英会話教材を売れる気がしないし、そもそも会話が成立するかどうか怪しい。痴漢撃退用グッズとしても期待できる。

高価な家電品であれば、実用性が高いが、ゆえに経年劣化するだろう。例えば高価なブルーレイディスクレコーダーを買ったとしても、毎日使っていたらだんだん壊れていくだろうし、次の規格がやってきたときに古くなってしまう。

しかしほら貝はなんといっても実用性皆無! 経年劣化もしないので、つまり不滅である。使い道がないからこそいつまでも残り続けると言う、逆説的な状況が発生する。ほら貝すごい。
 
今の一人暮らしのマンションにほら貝があったらシュールそのものだが、それなりに立派な一軒家の床の間にほら貝があるというのもインテリアとして悪くはないだろう。たまに吹いたりしたら戦意高揚も期待できる。
 
たとえば、自分の子どもが大学受験をしたりする日の朝にほら貝を吹くというのも悪くない。

そんな奴の家で育ちたいと思う子どもがいるかどうか知らないが。

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