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本はあなたのために書かれているわけではない

インターネットで「借金玉」と名乗る人の文章が好きで、よく読んでいる。本も何冊か出ているので、それも読んでいる。

自身が「ADHD傾向/発達障害」であることを武器にした文章が多く、自身の体験を元にしたライフハックなどをよく書かれている。

一番最初にこの人を知ったのは「ADHD傾向のある人が使うのに適したカバン」についての記事だったのだが、なかなか読み応えがあった。
 
ADHD傾向のある人向け、お仕事手荷物ガイド - 発達障害就労日誌 

文章がユニークで読みやすいのだが、「ADHD傾向/発達障害の人がいかにしてこの世を生きていくか」みたいな内容がとても多く、かつ、発達障害じゃない人が読んでも「なるほど」と思わせることがたくさん書いてある。

たとえばこの本で言うと、「食洗器は迷わず買え」ということがハックとして出てくる。皿洗いというのは、「スキルも時間もたいしてかからないが、やりはじめるまでに異様に決意を要するタスク」だと思っていて、僕も独身時代はシンクに使い終わった皿を放置してしまい、地獄の沼のようになってしまったことがある。

そういう状態を回避するために、「自分が変わる」のではなく、「環境を変える」「投資をする」方向にシフトして、解決してしまおう、というアプローチがなかなか痛快だ。食洗機を買うことは、後ろ向きでも無駄遣いでもなく、使用済みの皿を溜めてしまい、精神的にも衛生的にも地獄を味わうぐらいなら、確かに食洗器に投資したほうがいいケースもあるだろう。

このように、著書が「いかにしてこの世を生き抜くために工夫をしたか」ということが、仕事の進め方、休息の取り方など、いろんな分野にわたって書き留められている。


 
Amazonのレビューを見てみても、なかなか好評のようで、高評価を得ている。

しかし、面白かったのは、この本を読んでも低評価をつけている人が一定数いる、ということだ。読んでみると、「独身男性が自身のライフハックを元にして書いてあるので、女性には適用できない」や、「自分は症状が違うので共感できない」といったことが書かれている。

「表紙からすると誇大広告だと思うので、是正を必要とする」などとも書かれていた。
 
それを読んで、「そういう感想を持つ人もいるのか」と思ったものの、自分としては、本そのものの内容を変える必要はないだろう、と思った。実際、この本を読んで、「頑張っていこう」と考えた人は大勢いるはずだからだ。


 
本を読むとき、必要なのは「読み替える力」なのかもしれない、と思った。

確かに、借金玉氏は30代の男性なので、氏が実践したライフハックは、どうしても同年代の男性が実施しやすいものになるのは仕方がない。一方で僕の場合、発達障害でもないし、ADHDの傾向も(たぶん)ないので、この本のままに行動することはおそらくないだろう。

でも、「こういう考え方は参考になるな」と思うので、この本を読んでも面白い、と感じるのである。つまり、いったん読み取った内容を抽象化して、自分に適用する場合はどうなるか、と置き換えてみる、という作業が必要になる、ということ。
 
本はすべての人に万能なツールではない。だから、あなたに向けて書かれているわけではない。しかし、内容を抽象化して「読み替える力」があれば、どんな本でも「あなたのために書かれた」ものになりうる。

もし、そういった読み替えができない場合は、万人に向けた本を読むのではなくて、病院に行くなり、カウンセリングを受けるなりするべきだろう、と思う。

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