見出し画像

やりたいことと、できること

インターネットで、押井守のドキュメンタリー番組を見た。
 
映画監督などの、クリエイターのドキュメンタリーを見るのが好きだ。ひょっとしたら、映画を見ることそのものよりも好きかもしれない。

「ものをつくる」という姿勢、成功するかどうかわからないという不安や、意見の対立するスタッフたちと闘いながら、時間や資金の制約の中で、自分のやりたいことに向かっていく。そういうものが、自分の心を打つからかもしれない。
 
ドキュメンタリーの内容は、押井守が手掛けた実写映画の「ガルム・ウォーズ」というSF作品だ。「攻殻機動隊」や「スカイ・クロラ」などで有名な押井守監督だけれど、90年代に一度、凍結された企画が、15年越しに実現した。

その意味で、押井守にとっても存分に「温めた」作品となった。日本での公開は2016年で、絵コンテの完成や撮影自体は2011年ごろに行われた。全編海外ロケ、外国人キャスト、外国語のセリフという、かなり野心的な構成での撮影だったようだ。
 
ドキュメンタリーを見ているとわかるのだが、撮影は難航に次ぐ難航。言葉の壁、文化の壁、仕事の風習の壁、ありとあらゆる困難が襲い掛かる。挙句、製作陣に不安を感じたキャスト達がストライキを起こして、撮影が中断されたりする一幕も。

そのときも、追加で資金を投入したりして、億単位の金が湯水のように金が出ていく。一時間ぐらいのドキュメンタリーだったのだけれど、かなり見応えがあって、見終えたときにはこっちまでちょっとぐったりしていた。

でも、一番衝撃的だったのは、このドキュメンタリーを見ても、その作品を「見たい」と思えなかった、ということだ。自分にとっては、正直に言って面白そうな作品ではなかったのである。

たぶんあまり評判も良くないのだろうと思って検索してみると、酷評の嵐。実は僕は押井守の他の実写映画を見たこともあるのだけれど、面白いとは思わなかった。

アニメだと名作を作るこの監督が、なぜ実写になるとダメになるのだろうか。
 
「なぜ実写になるとダメになるのか」ということは、他の人も論じていることだと思うので、深くは触れないことにする。

ひとつだけ思うのは、押井守はアニメ映画で評価されている監督だけれど、「アニメを映画の代替物」としか考えていないのでは、ということだ。

もともと映画が撮りたかったけれど、それがかなわないのでアニメをやっていた。でも、本当は実写の映画がやりたい。だから、アニメで実績を積んでから、実写映画を制作する権利を手にした。

押井守は、「絵が描けないアニメ監督」である点も影響しているかもしれない。もともと、アニメーターではなく演出からスタートした人だから、絵コンテを書いたりはするけれど、決してうまくはない。

宮崎駿なんかは、アニメーターの出身ということもあって、アニメーターが描いた原画をどんどん直してしまうから、実写映画を撮りたいとはたぶん思ったこともないだろう。押井守からしたら、アニメーターに指示するより、自分で注文がつけられる俳優と一緒にやるほうが楽しいかもしれない。
 
いずれにしても、世間で評価されることと自分ができるということのギャップ、というものを考えさせられた。「自分がやりたいこと」というのは、世間で求められることと違うことはあるかもしれない。

サポート費用は、小説 エッセイの資料代に充てます。