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僕は「大義」が怖いなと思う

いま話題となっているニュース。指名手配されていた、桐島聡容疑者が逮捕されたらしい。なんでも、偽名で50年間逃亡生活を続けていたが、末期癌の治療中に、自身が本人だと名乗り出たようだ。

多くの日本人にとって、この人の指名手配写真は交番などで目にするため、馴染み深いものとなっている。個人的には何をした人なのかよく知らないが、学生運動とか、全共闘とか、そういったものに関連した人なんだろう、ぐらいの認識だった。

僕は1987年生まれなので、そういったものが盛んだった時代にはまだ生まれていない。なので、よく知らないというのが正直なところだ。

以前、学生運動について調べようとしたことがあるのだが、あんまりよくわからなかったので、そのままになっていた。有名なのは日本赤軍だが、とりあえずWikipediaなどを見てみても「1971年にパレスチナでパレスチナ解放人民戦線に国際義勇兵として志願したことがきっかけで結成」というような説明があり、まずこの最初の段階でぶっ飛んでいて意味がわからない。

国際的なテロリストという位置付けらしいのだが、よくわからんな、と。そういった団体の背景情報がわからないまま、まずは今回の桐島聡の概要をざっくりと掴もうと、YouTube動画を見てみた。

この動画は最近アップロードされたもので、偶然にも桐島聡が逮捕される数日前に投稿されたものだ(動画内では現在も行方不明ということになっている)。見てみたところ、なんとなく概要はわかった。要は、乱暴に言ってしまうと、爆弾テロ事件を複数起こした容疑がかかっている、と。

本人たちが掲げている大義はいろいろあったとしても、日本は法治国家なので、爆弾を用いたテロを実行した集団を野放しにはできない。なので指名手配中である。乱暴に言ってしまうとそういうことのようだ。

いい機会なので、この時代について書かれた本を読んでみようと思った。そこでどういう文献がいいかを調べてみたのだが、どうもうさんくさい感じのものが多い。

別に僕は左翼的な人たちを批判するつもりはないが、どうも主張がきなくさい人が多いので、あんまりいい文献はなさそうだ、とぱっと見て思った。ここでひとつ思い出したのが、そうだ、小熊英二先生がいるじゃないか、と。

小熊英二は僕の好きな社会学者である。さすが学者、といえるような骨太の本をたくさん上梓しており、たくさん読ませていただいた。以前から「1968」という著作があることは認知していたのだが、鈍器かレンガか、とみまがうような分厚さの本なので、さすがに読むのを躊躇していた。

なんと、ハードカバー上下巻合わせて2000ページの大著である。2000ページって。しかし、ついにこれを読むときがきてしまったようだ、と思った。

amazonでの価格は驚愕の7,480円である。上下合わせて14,960円。ボリュームを思うと高くはないのかもしれないが、しかし個人の出費としてはさすがに高い。なので、吉祥寺の図書館でとりあえず上巻を借りてきた。

遠くから見ても明らかにわかるほどの圧倒的な存在感で、重量が半端じゃない。帰宅して重さを測ってみると、なんと重さが1.38kgもあった。牛乳パックより重い。本ではなく、筋トレ用品といったほうがしっくりくるだろう。

社会学というのはなかなか難しいジャンルで、自然科学ではないため、「何が正解」とはなかなか言いづらい。どんな研究であっても批判がつきまとう。小熊先生のこの研究に対してもいろいろと批判はあるようだが、まずは読んでみないことにははじまらないだろう。なので、とりあえずはじめてみることにする。

とりあえずざっくりとした概要を掴むために序章だけ読んでみた。それによれば、「当時の学生運動は、政治活動としてはおおよそ未熟」で、かつ「一過性の風俗とみなされてきたため、研究対象として避けられてきた」傾向にあるらしい。なんとも痛烈である。まあ、読み終える頃には、また何かがわかっているかもしれない。

とりあえずこの大著を読む前の自分の仮説を考えておく。あくまで現在の自分の考えである。1960〜70年代、時代は高度経済成長期だった。若者は、少なくともそれまでの戦後間もない頃と比較すると、それなりに恵まれていた。しかし、経済が成長しているがゆえの息苦しさ、先行きの不透明さがあり、ありあまったエネルギーが暴力へと向かっていった。

色々と活動を正当化するための「大義」があったので、それを使った。しかし、実態は個人的な鬱憤や不安を晴らすことが目的だった。当人たちは、大義をそのまま掲げる人もいたし、個人的な事情で活動していた人たちもいただろう。なので主張がバラバラで、いまになっても要領を得ない事態となっている。

いまのところは、こんなふうに考えている。

僕は、「大義」が怖いな、と思う。大義は、暴力を正当化する。大義をもってすれば、人は簡単に犯罪に手を染める。場合によっては、自らの命を投げ打つことさえする。そういった人々の熱狂が渦巻いていたのがこの時代だったのではないか、という気がするのだ。

ちょっと前にSEALDsという団体がいたけれど、実態としては似たようなものなのかも、ということも思う。まあ、調べていくうちにその共通項も明らかになってくるだろう。


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