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冷静になっちゃダメなんです

TBS系で毎年年末に放送されるスポーツアスレチック番組SASUKEは、公式のYouTubeチャンネルがあり、出場する選手たちの裏側が追えるようになっている。

テレビ局のYouTubeチャンネル戦略としては非常に効果的だと思っていて、テレビだと放映枠の兼ね合いで放送が難しい日常的な内容でも、YouTubeなら無制限に流すことができるので、ファンにとってはたまらない。僕も新しい動画が更新されるとすかさず見ている。

現役最強選手である森本祐介の動画を見ていて、面白いなと思ったことがある。森本選手は過去に完全制覇を二度成し遂げているが、三度目の完全制覇に向けて日々トレーニングに取り組んでいる。会社にジムがあり、日常的にそこで研鑽を積んでいるらしい。

最近は、体幹を鍛えるトレーニングをやっているらしく、集中して取り組んでいるらしい。また、実戦のことを考えて、休憩時間を最小限にするという工夫をしているらしく、ガンガンやっている、と。見ていると本当につらそうだ。

そこで言っていたセリフが興味深かった。「冷静になったらダメなんです」と。トレーニング中、つらいと思っても冷静にならずに、ガンガン行く必要がある、と。SASUKEの本番を考えてのトレーニング哲学なのだが、確かに筋トレって冷静にならずにとにかくガンガンやることが大事だよな、と思った。

自分も筋トレをやるが(ここまでハードではないが)いつもモチベーションが高いわけではない。「面倒だなあ」と思いつつも、ガンガンやるのがいい。極限まで何も考えないようにし、とにかく淡々と準備して、淡々と実行し、淡々と終える。これが理想である。

迷いが生まれると、人は100%の力が発揮できないのではないか、と思う。力を出し切るときには迷いはゼロにしなければならない。

僕は小学生の頃から本を読むのが好きで、特に児童文学の灰谷健次郎の著作が好きだった。灰谷作品にはけっこう「学校の勉強だけできるようではダメ」みたいなメッセージ性が強く、それが結構自分の人格形成というか、価値観に影響したような気がしている。勉強は必要だけど、それができるだけじゃダメなんだろうな、と。

そのせいとはもちろん言わないが、一心に勉強だけやるという気持ちにならなかった、というのはあったかもしれない。ガンガン勉強をやるべき時期にガンガン勉強をやらなかった(ただの怠慢かもしれないが)。ふだんの学校の勉強はともかく、受験勉強はある意味で人間性を捨てた人のほうが有利だとは思う。

この勉強は何の役に立つのか? とか、どういうふうにやるのが効率的なのだろうか? みたいに、いちいち立ち止まって考えてしまうタイプだと、なかなかむしゃらになれない。姉はあまり勉強の意義や効率などを考え込まずにガンガンやっていたので、志望の国立大学に合格していた。

受験勉強って、本当に打ち込む人は時期によっては睡眠以外すべての時間を勉強に充てる、ということをやったりするが、なかなか人生でそれぐらい集中を求められることはない。どんなブラック企業だってなかなかないだろう、と思う。

すっきりするというか、余分なことを何も考えなくてもいい状態というのは気持ちがいい。思考するのは疲れるし、解決策がはっきりと見えないわけだからもやもやする。よく何かに気づいた人というか、自己啓発セミナーなどに行って「なるほど、こう考えればいいのか!」と目覚めた人って、要は「もう考える必要ないんだ!」ということですっきりするのだと思う。

それは思考の終わりの合図なのだ。

ある意味では、ダメになってしまうのが一番すっきりする。トーナメント戦で勝ち続けている限りは次があるし、優勝しても来年がある。しかし、早々に敗退してしまうと、もうそれでチャンスも終わるわけだから、ある意味ではスッキリしている状況である。もういいや、と。

負け癖ってそういうことなのだと思う。負けていれば考えなくてもいいから楽だ。なので、全力を出し切って傷つくのではなく、早々に負けてしまおう、と。

もちろん冷静であることは必要なことだし、立ち止まって考えることも必要。でもいったんやると決めたことなら、冷静にならずに、とにかくガンガン突き進まないと突破できないこともある、と。

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