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アナロジーでものを考える?

ウクライナとロシアのあいだで行われている戦争は、当分収束の兆しが見えない。

情報があまりにも多いので、そこまで積極的に情報収集はしていないものの、この戦争の根っこにある事情は相当複雑で、「プーチン=悪」という単純な図式が言われているものの、それだけに収まるものでもないようだ。

特に、最近はウクライナの大統領を批判する向きも多くなってきた(米議会での演説で、ロシアからの侵攻を「パールハーバー」に例えた、というのが日本では問題になっている。また、ドイツに対してさらなる支援を批判的に訴えていることが、ドイツ側で反発されているらしい)。


 
以前からよく読んでいる佐藤優というノンフィクション作家がいる。著作が多く、しかもジャンルを問わずにいろいろなものを刊行しているので、すべての著作に目を通したわけではないけれど、それなりの数の本を持っている。

彼は元駐在ロシア外交官で、日本の本省に戻ってきてからも分析官を務めるなど、ロシア・インテリジェンスの専門家としての経歴を持っている。鈴木宗男に関連する背任容疑で2002年に逮捕・勾留され、それを機に外務省を退省し、以降はノンフィクション作家としてのキャリアを歩んでいる。

最近は、その広範な知識から「読書人」「知識人」としての地位も確固としたものとなり、本屋に行けば何冊も著作が平積みされている。
 
そんな「ロシア専門家」の佐藤優なので、このウクライナ情勢の分析にあたっては期待ができる……と思っていたのだが、もちろんいくつかの論は見られるものの、些か精彩を欠く。ネットでは、一部は批判もされているようだ。

佐藤優は「内在的論理」という言葉をよく使う。これは、違う国の、違う歴史をもった民族はこういう考え方をする、という「根底のロジック」を指し、外交や交渉の現場では、それを知っておくことが大切だ、というのが著作でも繰り返し出てくる。

そういった話をするとき、すぐに神学であったり、哲学や思想といった話が出てくる。確かにそうなのかもしれないが、哲学や思想はもちろん、神学などを持ち出されると読者は基礎的な知識がないので、そのまま佐藤優の書いていることを信じるしかない、という状態になる。
 
このタイミングでネットで浮上してきたのが、佐藤優を批判しているブログ記事である。投稿されたのが2014年なのでかなり古いのだが、気合いの入った文章なので、それなりに時間をかけて目を通してみた。

これによれば、佐藤優の問題点は、「持ち前の知識や教養を、何の関係もない社会現象や事件と無媒介に結びつけて論じただけのデタラメである」ということのようだ。
 
「アナロジーでものを考える」というのは、佐藤優の著作を読んでいてもたびたび出てくることで、外交官時代もこういう考え方をベースに仕事を進めていたらしい。おそらく、これが彼の思考法の源流なのだろうな、と思う。

アナロジーとは日本語でいうと「類推るいすい」となり、要するに、ある物事をベースに、別の物事との類似性を見極めて、それに当てはめてものを考える、ということだ。たとえば、歴史上にあった事件や政治的な駆け引きなどを引き合いに出し、こことここが類似しているから、アナロジカルに考えると、この事態への対処はこう、という具合に考えていく、ということである。

しかし、上記のブログ記事においては、「わずかな類似があるだけで、ほぼこじつけに近い」というようなことが論じられている。

自分はアナロジーでものを考える、という考え方に少し馴染めないところがある。というのは、「歴史は繰り返す」という言葉の通り、過去の事例をベースにして未来を予測するのは重要ではあるものの、「そのアナロジーがどの程度妥当性があるのか?」の検証が非常に弱い、あるいは全くない場合が多いからである。

例えば、「このような論理は、マルクスの資本論に従えば読み解ける」などと言われても、なぜマルクスの資本論に従わなければならないのか、といった部分の議論がない。

自分はどちらかというと、そういった過去の事例などを当てはめるのではなく、ひとつひとつの事実を積み重ねて検証していくほうが理にかなっている、と思う。どちらかというと、科学的な思考方法である。歴史は繰り返すが、当然ながら繰り返さない歴史もあるからだ。
 
もちろん、科学的な思考には限界があり、「今後、世界がどう動くか」といった問題や、「人間はどうあるべきか」みたいな問いに答えを持たない。しかし、じゃあ哲学や思想、あるいは神学がどの程度、そういった問題解決に使えるのか、というと、ちょっと疑問が残るところではある。
 
少なくとも、「客観的な事実」以外は個人の感想、ということしか言えないのではないだろうか。それを信用するかしないかは個人個人の判断力に委ねられている。

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