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211014【踊る女性を近くで見てきて】

当時の彼女と交際を始めて数ヶ月、すっかり冬が終わった頃、彼女が出演するというイベントがあり、「遊びに来てよ。」と誘われた。「イベントに出演!?」、自分は頭の中でクエスチョンマークだ。彼女は福祉関係の会社で働いており、好成績を上げて何かのビジネスセミナーに登壇するのか、それとも、子どもの危機を救った勇敢な戦士なのか、想像もつかないまま「何のイベント?」と聞いてみた。

「アゲハで踊るの。メインステージだから、アナタに観に来てほしいな。」

アゲハかぁ。説明ベタで申し訳無いが、【ageHa】は新木場のライブハウス【STUDIO COAST】の週末、夜間帯中心に展開されるナイトクラブだ。クラブ、自分、苦手なんだよなぁと思いつつ、当該日の予定はしっかり開けていた。彼女は、趣味でやっているダンスサークルの派生で、イベント出演することになった。彼女のダンスの活躍ぶりを見たことは無いが、話だけを聞くと、結構踊れるとか。ジャンルはロックダンスらしい。

自分が今、ノリで軽いロックダンスの振り付けができるのは、言うまでもない、彼女のおかげだ。彼女と姿見の鏡の前に立ち、振り付けを教えてもらったことを覚えている。それを、今でも酔っ払ったり、マッチしそうな曲がかかった時、カラオケボックス等で披露して、ひと笑い取る。恥ずかしながら、感謝だ。

さて、平日はスーツ姿で営業に励む彼女が、週末、ナイトクラブで踊り明かす、前に、踊り出す、というギャップに富んだ当日、自分はナイトクラブに合いそうな服を新着し、ウコンドリンクを飲み干し、いつもとは逆方向に進む電車に乗り、新木場に出かけた。

会場に着くと、彼女の職場の同僚が複数人居た。その中には、先日、彼女と彼女の職場の方と楽しんだスキー旅行以来に会う人が居て、少しホッとした。自分一人では、彼女と落ち合う以外、暗闇とミラーボールの下を徘徊しながら、チビチビ酒を飲むことしかできない。スゴいよなぁ、クラブでナンパ、踊る、酒を飲むカルチャーって。そこには、色んな問題があるかもしれないけど、良きカルチャーであり、れっきとした経済である。

入場を済ませ、やっぱりぼっちでドリンク片手にフロアをふらふらして時間を潰し、彼女の出番の時間に合わせ、メインステージのアリーナに降りた。そして、耳を塞ぎたくなるほどの爆音、でも何処か心地よいダンスミュージックが流れ出した。観客は思い思いに声を出し、ステップを踏み、音楽に身を委ねている。

この「音楽に身を委ねている」の頂点、ギャップが凄かったのが、2017年に遊びに行ったサマーソニック、ヘッドライナーのカルヴィン・ハリスのパフォーマンスの時だった。その年のサマソニ、自分は今の妻となる彼女と遊びに行った。土曜日の朝から全身で音楽を楽しんで、お酒を飲んで、大トリはマリンスタジアムでのカルヴィン・ハリス。アリーナで見るべく、早めに会場に移動、マリンスタジアムに入りながら聴いたThe Black Eyed Peasの「I Gotta Feeling」も非常に良かった。太陽が落ちだし、夕暮れ掛かる幕張の空とマッチしていて、強い洋酒が飲みたくなった。

さて、カルヴィン・ハリスだ。すっかり夜になり、照らし出される数え切れないLEDライトが会場ごとグルーヴを作る。自分と彼女の他に、彼女の会社の同僚さんが何人かいた。その中で、妻より年上の女性、一見静かそうな細身の女性がいた。

会場は、一旦照明が落ち、暗闇の中、拍手と歓声が起き、いよいよヘッドライナー・カルヴィン・ハリスのパフォーマンスが始まった。当時、ニューアルバムをリリースしており、その楽曲中心、ファンク嗜好なパフォーマンスかと思っていた。ただ、フタを開けてみればゴリゴリのEDMだった。そして、それに合わせて、パフォーマンス前は大人しかった妻の同僚の女性が、腰につけたペットボトルがブランブランに揺れるほど、踊っていた。いや、踊り狂っていた。

それを見て、彼女は「音楽に身を委ねている」、と思った瞬間だった。

あと、「大丈夫?」と思った。その彼女は、今も独身らしい。もうアラフォーが近づく頃、誰か、彼女に救いの手を、いや、あのダンスナンバーを。また育児が落ち着いた頃に、彼女に会いたい。

「初めて会ったサマソニのカルヴィン・ハリス、覚えていますか?あのときの背骨が無いくらいクネクネしたダンス、覚えていますか?もしかして、あの時、失恋してました?」、デリカシーのない質問をぶつけてみたい。まず、妻にブタれるだろうけど。

会場を新木場、ageHaに戻す。メインステージ、爆音の中、ダンスパフォーマンスが始まった。その中に、彼女が居ることは直ぐに分かった。いつも以上に濃いメイクと、キメたスーツ姿。もう、見て分かる、マイケル・ジャクソンをモチーフにしていると。ムーンウォークこそ無かったが、その動き、振り付けはマイケルだった。なんの曲がかかったのか覚えてないけど、最後はマイケル仕込みの「アオッ!」で終わった。

30分くらい、彼女のステージパフォーマンスを観ていたようだが、ほんの一瞬に感じた。1000人規模のオーディエンスの前で踊った彼女、その勢いそのままに、彼女はアリーナの自分を見つけ、駆けつけてきた。

「観に来てくれたの、ありがとう!」

なんのアドレナリンだろうか、彼女は完全にバイブスが上がりきっている、仕上がっていた。そして、彼女は、友人や会社の同僚に、自分を紹介してくれた。いいよ、そんな事しなくて。恥ずかしい。マイケルテイストの彼女に、根暗猫背メガネの自分。どう見てもマッチしないじゃないか。周りの人が「えー、意外ー。」と言う気持ち、わ、分かります。でも、週末だけでしょ、そのマイケルスタイルは。デートでもその格好しないし、そういう一面があっても良いでしょと。いつもよりメイクという名の塗装をしている彼女を隣に、早く初電、走り出せと思った。

ただ、その後、彼女と一緒にageHaに遊びに行ってたことを細々と書いておく。あの時、ageHaに誘ってくれた彼女、ありがとう。相も変わらずナイトクラブは苦手だし、SABISHINBO NIGHTに行ったこともないけど、洋酒を飲んで、米菓を摘みながら踊ってみるのも良いと思う。あの時、自分は若かったと思い出す。

そんな彼女と、彼女の部屋で過ごしている時。自分はその日、仕事終わり、23時頃に彼女の部屋に着いた。彼女はテレビで「テラスハウス」を観ていた。当時、番組最高視聴率を記録した頃で、人気番組だった。ただ、自分は、テレビの中で繰り出される恋愛に、「これはショーでしょ。」と反発していた。それで彼女と口論になったことが何度もあった。いやー、自分、端っこながら業界の片隅に身を置いている、置いてない、くらいの立ち位置にいるけど、「フィクションでしょ、台本でしょ。」と言い放っちゃう、夢のない人間なのよ。また、作品として素晴らしい、と感じることもあったり。人間が歪んでるのよ。それで、覚えているのは、シェアハウスする出演者が、とある音楽レーベル勤務の人で、「ああ、これはバーターじゃん。」なんて言ってた。それでも、彼女が観るテレビには付き合っていて、番組が終わっても、別の日にデートで外を歩いていても、当番組の主題歌だったテイラー・スウィフトの「We Are Never Ever Getting Back Together」を口ずさんでいた。まあ、印象に残るメロディだが、訳すと「私たちは絶対に絶対にヨリを戻したりしない」ってなんでやねん。

あの時のテイラー・スウィフトの歌、今でもメディアで流れるけど、色んな事を思い出す。そして、妻も、テイラー・スウィフトの来日単独公演に行くくらい好き。そんなことは気にしない、shake it offで。

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