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夜明けのはざま 町田そのこ ポプラ社

オーディブルにて。

自立することを選ぶ女たちへのエール。
私にはそう読めた。

今となっては古臭い、ステレオタイプな結婚への考え方。女は家にいるべきだという固定観念。そういうものを声高に批判して立ち向かう、これはそういう話ではない。逆に、長い歴史のあるしきたりに巻き取られていきそうになる、その中で感じる違和感や苦しさのようなものを一つ一つ、見て見ぬふりをせずに拾い上げて向き合っていく話ばかりだった。

各章ごとに、それぞれの登場人物にスポットが当てられ、各々の事情や、その選択肢を選び取ることの必然性が自然に納得できるよう、巧い伏線がたくさん張り巡らせてある。それでもなお、私にしてみれば「そんな時代錯誤なヤツは切り捨ててしまえ!」と叫びたくなるようなシーンがいくつもあったのだけれど・・・

幸運にも現実の世界で、私は非常に恵まれていて、ゼロとは言わないがこの本の登場人物たちが苦悩するような酷い女性蔑視に直面したことがない。結婚という古くからある制度の良いところ、悪いところ、親の世代の持つ価値観と自身の感覚とのはざまで苦しむ彼らの悩みには共感できるところが多々あった。
家族も大事。恋人だって大事。そしてやりがいのある仕事ももちろん大切にしたい。できればそれぞれの価値観を理解し合い、両立させたい。

モヤモヤしても、納得いかなくても、怒りや悲しみを覚えても、現実には黙ってやり過ごす術を得る方が早道で、それを選ぶ人も多いのだろうと思う。
この小説の中で小気味よいのは、登場人物の一人一人が、自身の腑に落ちないこととキチンと向き合って、その中身を解明していってくれることだ。

自身の「思い当たるフシ」、ただなんとなく嫌、気に入らない、納得いかない、という思いだったのが、何故、どこがそうなのか、ということを説明できるくらいに解き明かされたような気がして、なんだかスッとする。

小説のように、現実に「ちゃんと話し合う」ことができるとは限らない。できても結果が出るとは限らない。でも少なくとも、自分の中で何に対して拒否反応が起きているのかを自身で理解できるだけでも、対処の可能性がずいぶんと、広がる。ただ泣き寝入りするのではなく、選択肢を並べて、選ぶことだってできるようになる。

そういう意味で、いろんな苦さや希望が詰まった一冊だった。

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