【武器になる哲学】11 認知的不協和ー人は、自分の行動を合理化するために、意識を変化させる生き物

朝鮮戦争当時、米軍当局は、捕虜となった米兵の多くが短期間のうちに共産主義に洗脳されるという事態に困惑していました。

この不可解なエピソードは認知的不協和理論によって説明できます。まず、自分はアメリカで生まれ育ち、共産主義は敵だと思っています。ところが捕虜になってしまい、共産主義を擁護するメモを書いている。ストレスの元は「共産主義は敵である」という信条と「共産主義を擁護するメモを書いた」という行為のあいだに発生している「不協和」ですから、この不協和を解消するためには、どちらかを変更しなければなりません。変更できるとすれば「共産主義は敵である」という信条の方ですから、こちらの信条を「共産主義は敵であるが、いくつか良い点もある」と変更することで「行為」と「信条」のあいだで発生している不協和のレベルは下げることができる。

私たちは「意思が行動を決める」と感じますが、実際の因果関係は逆である、ということを認知的不協和理論は示唆します。外部環境の影響によって行動が引き起こされ、その後に、発現した行動に合致するように意思は、いわば遡及して形成されます。

周囲から影響を受け、考えが変わり、その結果として行動に変化が生じると私たちは信じています。しかし、フェスティンガーはこの人間観を覆しました。社会の圧力が行動を引き起こし、行動を正当化・合理化するために意識や感情を適応させるのが人間だということです。

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