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その8 スケール Jazz Sax:アドリブ練習の目的別構造化 

 今回は、構造化の図の中の⑦、いわゆる基礎練習の中から「スケール」について、以前書いたテキストを焼き直して書いてみます。サックスの練習メニューの中では、基礎中の基礎ではありますが、やりすぎるとちょっと弊害があるような気がしています。


8.1 スケール練習はアドリブの役に立つのか

 やはり、管楽器吹きたるもの、スケール練習をやってナンボというものかもしれない。クラシック、ジャズを問わず一番練習っぽいもんなあ。ドレミファができないといろいろ困ることもあろう。しかし、あえて天邪鬼な態度をとってみると、スケール練習ってジャズのアドリブの為にはあまりよろしくないのかもしれないと思ったりする。

 アマチュアのミュージシャン(特に管楽器)のアドリブを聞いていると、スケールを上下に行ったりきたり、ってのが結構多い。いわゆるドレミファ(イオニアってやつですか)のどこかでふらふらと音を探しているような感じ。ドレミファー、ファミレミファソファミー、とか。コードが変わるとスケールを変えたりするのだがやっぱりドレミファはドレミファ。アドリブの方法論としてはいわゆる「アベイラブルノート」ってやつなんだと思うが、これが悲しいぐらいジャズっぽく聞こえないのだ。いや、わかるんですけどね。私もよくやるし。

 改めて、ジャズの語法というのは結構独特で特徴がある。まあ、煎じ詰めていうとジャズっぽい=チャーリーパーカーっぽいといってもいいかとも思う。すなわち、どちらかというとアルペジオっぽい音の跳躍の入ったフレーズ+クロマチックにコードトーンめがけてうろうろするようなフレーズの組み合わせ、ってなもんだろうか。チャーリーパーカー的といったのは、音の選び方にもいわゆる「裏」だとかいろいろあるわけなのだが、そこら辺私はわからないので適当にごまかす。スケールよりも「パターン(リック)」が重要だなと思うのは、スケールだけだとここら辺の語法を身に着けることができないからだ。
 じゃあモード奏法、はとかいう人もいるかと思うが、あれはマイルスがやるから格好良いのだ、っていうか、アベイラブルノートスケールの上下だけではアドリブやってないよ。多分。それなりの跳躍とか半音アプローチとか必ず入ってるはず。

 そんなわけで、ドレミファやってそれを応用しようとすればするほどアドリブが冴えなくなるといったら言い過ぎだろうか。当然皆さんただのドレミファだけじゃなくて、いわゆる12Keyで練習するわけで、これもまあ当然必要なわけだが、アドリブをやるための「ジャズ耳」からは遠くなってしまうような気がしてます。じゃあ、スケールやらなくていいのかというと、やっぱりそうでもないなあと思ったり。う~、なんか煮え切らないなあ。

8.2 では、どんな練習をやればいいのか

 そこで、本稿の主旨に立ち戻ってみよう。スケール練習がアドリブ力強化のために役に立つとすればどんなことであるか、無理矢理挙げてみると下記ぐらいなことかな。

・ジャズ耳を作る(ドレミファだとジャズ耳にならないのに注意)
・八分音符を格好良く吹けるようになる(別にスケールじゃなくてもいいんだけど)

 というわけで、私の提案であるが、スケール練習はたとえばこんなポイントを考慮しつつやればよいのではないかと思ってしまいました。

(1)スケール練習すべきネタは何か

完全な私見でリストアップしてみる。

・クロマチック(ベタな半音階)
・リディアンセブンス
・オルタードとかいうやつ
・ホールトーン
・ディミニッシュ、コンディミ(コンビネーションディミニッシュ)
・ペンタトニック

 いわゆるイオニア系がないのに注意。要は、ドレミファの呪縛からいかに離れるかをテーマにするべきではないかと思うわけです。これやればジャズが上手くなるとは実は思っていないのだが、なんかおもしろい効果があるんじゃないかとも感じます。

 話はちょっと飛ぶが、学校の音楽教育でいわゆるドレミファを教えないで、リディアンセブンスあたりを「普通のスケール」として教えたらどうなるんだろうね。なんか世界の音楽が妙な方向に向いていったりしないかな。

(2)メトロノームを使う

 これは八分音符の練習のところで散々触れたが、だらだらと指が動くようになってもジャズは上手くならないのだ。指とアーティキュレーションの組み合わせで練習すべきだし、できればスケール練習だけでスイングできるように常にメトロノームを使うべきだろう。

 個人的な話だが、大学時代はロングトーンに練習時間の半分ぐらい費やしていたが、その他になにかあるとすれば、クロマチックスケールを上下に行ったりきたりというのをさんざんやった。当然メトロノームの2拍4拍に合わせて(あるいは八分裏でならしたり、4泊目だけでならしたり)。まあこれって指の練習というよりも、八分音符の練習だけどね。上手くできると、メトロノームがスイングして妙に楽しくなるんだよねえ。

(3) 上下をどう考えるか

 管楽器の場合同じスケール練習でもどこから始まってどこで帰ってくるかというのは結構考えるところだ。私の場合クロマチックスケールの練習の時はとにかく一番上(フラジオ除く)から下までいったりきたりということをやってましたねえ。どんな音域でもしっかり吹けるようになるという意味ではそれがいいんでしょう。

 ただし、リディアンセブンスあたりだとどうなんだろうか。たとえばAから始まったら2オクターブ上まで上るとフラジオになっちゃう。ジャズ耳を作るという考え方からすれば、1オクターブをきっちり練習してスケールの感覚を身につけるのがいいのかもしれない。

(4) インターバルを意識する

 パターン同様、スケールもインターバルの組み合わせであるので、スケール練習の際にはそれを意識したい。
 例えば下記。イオニアとリディアンセブンスの違いを、インターバルで理解する手と、緑色の丸で表した「変化する音」で理解する手がある。どちらでもいいのだが、構造的な特徴をとらえるようにしたい。

 これはよくあるが、ホールトーンはインターバルがすべて全音のスケール。ディミニッシュは全音半音が順番に出てくるスケールですね。これも、指と頭と両方で理解しておきたい。

(5) パターンにしちゃう

 ただ上下するというより、たとえばスケールに沿った4つぐらいの音のパターンを考えてそれを吹く。

 例えばこんなやつ。

C リディアンセブンススケールの練習

 こうなるともう少し工夫したくなってくる。例えばこんなの。例の1-2-3-5の音列にしてみる。スケールの「響き」が分かって面白いかも。

C リディアンセブンススケールの練習(応用)

 前半二小節はスケールの上下行だが、後半二小節に例のアルペジオをくっつけてみる。これも「響き」を理解するのに悪くないかもしれない。 

C リディアンセブンススケールの練習(応用2)

 こうなるともう「パターン」だが、ディミニッシュスケールの練習としては、こんなのが有名ですな。コルトレーンがバラードの終わりのカデンツァとかで良く吹いてるやつ。パターン教則本にはこの手のスケール(パターン)練習がたんまり出てくるので順番に片づけておくと、アドリブの途中で結構な頻度で使える。

ディミニッシュスケールの練習(パターン) 

8.3 まとめ:スケール練習の心構え

 ああだこうだ書いたが、やはり、スケール練習と言うのは、管楽器を演奏するうえでの基本だろうし、演奏技法的にもまずはできないと困る。まあ、だから練習するわけだが。ただ、同じスケール練習でも、そのスケールから感じられる響き(コード感)や、インターバルの組み合わせという意味での構造を理解・意識して練習することで、アドリブの際に頭(何を吹くか)と指(どう吹くか)の両面で役に立つのではないかと思うわけです。

 続き(番外編)はこちらから。

その9はこちらから。

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