【番外編3】シェイプ - Jazz Sax:アドリブ練習の目的別構造化
ジャズ研の先輩が「シェイプ」を用いたアドリブの練習方法を提唱していて、体系立ったテキストを書いている。今まで流し読みをしていて、今一つピンとこなかったのだが、今回、このシリーズを書くにあたって、改めて(ちょっと)読みなおして、さらに先輩と多少やり取りしてみた。正直、まだ理解しているとはとても思わないのだが、私の今まで書いてきたアプローチとはずいぶん違う(あるいは私が前提だと思っていることを改めて掘り下げる)ような内容であるので、とりあえず「番外編」として私の理解を整理してみようと思う。
B3.1「シェイプ」とは何か
まずは、先輩が書いたテキストから引用させていただく。
難しいw
といいながら、読み進めていくと、シェイプとは(音程を問わない)リズムパターンのことを指しているようである。例えばこんな例がある。
例えば初めの二小節は「タアタアタタアタターーンンンタ」と書いてあるが、これが「シェイプ」ということのようだ。これは、2小節のシェイプが六つと思えばいいのであろうか。この譜面はたまたま全部Cの音で書いてあるが、本来は、曲やコードに合わせた音程をこのリズムにくっつけてメロディ、いわゆるソロとして完成させる。
というわけでまずはコードを想定。まだこの段階ではリズムパターンだけ。
リズムパターンに対して、下記の例のように、それぞれの音符に、Chord Tone + Natural Tension :Pentatonic Scale の構成音から音を選んでフレーズ(パッセージと呼んでいる)にするとソロの出来上がり。
まず、シェイプ(の組み合わせ)を決めて、音程を気にせずハナウタで歌えるようして、そのあとで一定のルールにのっとって(コードトーンとペンタトニックで使えそうな音に限定するとか)音(音程)を乗せていく練習をするということだろう。
実際には、シェイプの作り方(二拍のシェイプを順列組み合わせ的な考え方で二小節シェイプにする)や、一旦作ったシェイプに音を乗せていくときの考え方(まずはコードトーンだけとか、アプローチノートを入れるとか)、みたいな詳細の方法論が展開されているのだが、とりあえず大まかに説明すると上記のようなことになるのではないかと思う。
B3.2 シェイプアプローチのメリットを考える
一応、パターン練習を推している私としては、なかなか理解するのが難しいし、今でもおそらく半分ぐらいしかわかっていないのだが、無理やりメリットを考えてみる。
(1) リズムからのアプローチである
クリスポッターがマスタークラスで語っている通り、アドリブの際の音を選ぶという意味での理論は、音楽学校等で体系立って教えられているが、リズムからのアプローチというのはあまり体系化されたものはない。
私が推している「パターン」にしても、あれをそのまま突き詰めるとコルトレーンのGiant Stepsみたいな八分音符の羅列になってしまう。だからといって、それを避けるための方法論はパターン練習からはなかなか出てこないだろう。
一方、この「シェイプ」アプローチによる練習は、まずは、リズムパターンを決めちゃうところから始まる。そこにまずはコードトーン、次はアプローチトーン、最後は好きにやってねw と音を乗せていく練習を重ねることで、リズムと音の選択の両面からのアプローチができる。
シェイプの決め方は、どうも機械的に考えているようだが、どんなシェイプが格好良いか、ぶっちゃけていうと、どんなシェイプが「ジャズっぽいか」については、もう少し実証的なアプローチが必要な気もする。とはいえ、改めて、リズムと音程の両側からの訓練というのは、意外とあるようでないと思う。
(2) 制限付きのアプローチである
これもクリスポッターの発言だが、アドリブを練習するときに、こんなことをやっているようだ。
シェイプの練習は、まずシェイプ≒リズムパターンを制限してしまう。実際に練習するところを想像すると(やってないから想像だけw)、まずは音程を問わないハナウタ的なアプローチでリズムパターンを体に叩き込んで、その上で、音を選ぶ段階に入る。リズムが体に叩き込まれているとすれば、あとは、音を選ぶことにCPUを集中的に使えるわけで、両方同時に考えるのと比べると格段に練習しやすいと思う。確かに、セッションとかに出て来るアマチュアの人を見ていると、音探しに夢中になって、リズムだとか唄だとかまで頭が回っていない人(それこそドレミファの人)が多いので、それはこのシェイプアプローチで避けられるのかもしれない。
(3) ジャズっぽい「シェイプ」→「フレーズ」のきっかけになる
例えば、上のシェイプの事例では、二小節目の四拍めのウラに「タ」が入っている。唄ってみればわかるが、この「タ」は三小節目以降のフレーズの一部と考えた方が自然だ。では、音を「乗せる」時にはどう考えればいいのだろうか。
この音符は二小節目にあるので、チョイスとしては以下が考えられる。
①二小節目のA7 Alt関連の音を使う
②三小節目のDm7関連の音を使う
上に書いた通りであるが、鼻歌で歌ってみるとどうもこの四拍めの裏は3小節目以降のフレーズの一部だと思われるので、②がよさそうな気がする。要は、バックのコードが動く前にフレーズのコード感を先食いするわけだ。
ついでにもう一つチョイスを考えてみると、例えば、
③三小節目の一拍目に出そうとしている音の半音下(または上)を使う
というのもあり得る。アプローチノート、みたいなやつですね。
アドリブに慣れない人は、例えば二拍単位でどんどん変わるコードにきっちり合った音を出さないといけない、と思っている場合も多いかとは思うが、実際、こういうシェイプ(前の小節の半拍裏から始まる)みたいなときは、先食いしても問題ないし、なんとなれば格好良い、っていうかジャズっぽい(私もなんなら二拍とか一小節とかの単位で先食いすることがあるw)。このシェイプの練習はそういうことに気が付く「きっかけ」にある可能性があるし、実は、テキストにはそこら辺の考え方もみっちり書いてある。
さて、私は実はジャズっぽいシェイプっていうのはそれなりにあると考えている。例えばこんなやつ。よくあるII-Vフレーズの後の一拍目の八分音符二つ。
これはファレ、じゃなくてもファラ、でもファミ、でもラファでもいいんだけど、アーティキュレーションとしては一つ目の八分音符は思い切りテヌートで、二つ目はビシッと切る。この一拍目の八分音符の二つでフレーズを切る、ってのは我ながらさんざんやってて、アーティキュレーション含みでジャズっぽいフレージングだなと思うわけです。
こんな感じで、実証的に「ジャズっぽい」シェイプってのを研究するともしかすると面白いのかもしれない。例えば、バップチューンのテーマを分析して使用されている頻度の高いシェイプを見つけ出す、とか。AIでできないかな。考えてみれば、すでにAIがJ-POPっぽい曲を作る、みたいなことをやってるし、その場合はやっぱりシェイプ分析的なアプローチをしているんだろう。
B3.3 おまけ
さて、一応、私が理解できる範囲で「シェイプ」について書いてみた。正直どこまで説明できたか、っていうか、そもそも正しい理解をしているのか謎だが、ここら辺にしておこう。有識者の意見お待ちしております。
で、今回見たり聞いたり考えたりした中から、いくつかおまけ情報を。
おまけ1: 宮本裕史流リズム練習
トランぺッターの宮本裕史さんという方は、非常に理論的かつ実践的なアドリブ方法論をお持ちで、たまにTwitterでその考え方を披露してくれるのだが、その方がこんな動画を作っていた。
読譜力強化のためのトレーニング向けに作成したらしいが、ある意味シェイプの事例集みたいになっているのでご参考まで(しかし、これ全部覚えようとか理解しようとかすると大変そうですが)。
おまけ2:某奏者の「シェイプ」のトランスクライブ
折角シェイプなるものを考えるのだからというので、某著名サックスプレイヤーの歴史的名盤に入っているブルースナンバーの最初の2コーラスのリズムだけトランスクライブしてみた。ちょっと簡素化したところもあるが、だいたいこんな感じ。ちなみに、テンポはBPM=157くらい。八分音符は跳ねまくっており、あまりフレーズは吹いてないです。
これ、次回トランスクライブのネタでまた使おうと思ってますが、それまでに元ネタが分かった人には500円あげますw
おまけ3:八木式ブルース練習法ww
シェイプの練習からは若干飛躍するが、最近思いついた練習法を。
たとえばこれはテナーでC(実音Bb)のブルースの例であるが、実は、私、ブルースを吹くときには8小節目にC#(実音B)を使ったフレーズを何かしら吹く、ということしか考えていないwww あとはテキトーである。でも、8小節目にC#を吹くと、なんだか「こいつ分かってるな」みたいな雰囲気になる。これは高校生の時に大友師匠のレッスンを受けているときに何となく気付いて、今まで変わらずやっている。ちなみに、理論的になんでそうなるのかは分かっていないww。
というわけで、上にも出した例を、7小節目から9小節目に当てはめてみた。シェイプが重要という意味ではこの音列じゃなくてもいいんだけど、リズムパターンは変えずに、ついでに必ずC#を使うという決め事をして、伴奏に合わせて100コーラスぐらい繰り返して吹いてみると、なんとなくブルースの感覚がつかめるんじゃないかと思う。誰か試しにやってみてくださいww
その9はこちらから。
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