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その14 曲の練習 Jazz Sax:アドリブ練習の目的別構造化

 とりあえず、構造図のなかの重要項目はカバーしたので、今回からランダムにジャズのアドリブに必要なそのほかの練習について書いてみようと思います。まずは、「曲の練習」から(アドリブじゃないけど)。


14.1 前提:ジャズにおける曲(テーマ)の役割

 本稿は(特にサックスにおける)ジャズアドリブ論なので、ここでいう「曲」はジャズの演奏においてよく採り上げられる題材としておこう。端的に言うと「黒本に載ってる」ようなジャズスタンダード、あるいはジャズマンスタンダードという感じだろうか。
 アドリブをメインにするようなジャズにおいては「曲」の役割はおおまかにふたつ。ひとつめはいわゆる「テーマ」であり、曲そのもの。(歌伴をのぞけば)特にサックスはフロントとしてテーマ(メロディ)を吹くことが多く、まずそれをどう吹くかという問題がある。「曲」のもう一つの役割はアドリブの素材としてのコード進行の提供があるが、これはそのままアドリブ論になっちゃうので、今回はとりあえずパス。というわけで、以下は「テーマをどう練習してどう吹くか」について書いていきます。 

14.2 テーマの練習の分類

 さて、テーマの練習と言ってもアプローチはいろいろあって、①クラシック曲の演奏のように、音色、装飾音符等、細部に拘った演奏をできるようになる練習 ②あくまでもアドリブの素材として、おおまかにメロディを理解し、なんならコード進行もろとも覚えるための練習の二種類が思い浮かぶ、①はいわゆる「(有名曲)吹いてみた」とか「めちゃイケサックス」とかのアプローチですねw メロディをいかに唄うか、具体的には、音色とか、ダイナミクスとか、装飾音符とか装飾音符とか(大事なことなので二回言いました)、タイミングとか、吹いてるときの顔(目を瞑るとか)、格好とかも含めて研究して吹けばよろしい。
 といいつつ、本論において特に気になるのは②ですかね。ジャズのスタンダード、例えば「枯葉」の楽譜はこんな感じ。これは多分オリジナルReal Bookだと思うが、他にも黒本やらなにやらあって、何となれば同じ曲なのに違う音符が書いてあったりキーが違ったりする。どうすりゃいいんだという話です。というわけで、以下②を中心に論を進めてみます。

インターネットでパクってきました

14.3 テーマの練習はなんのためにやるのか

 ここで、得意の目的志向に戻ってみよう。まずは簡単にいえば、上記した通り「テーマを吹いてフロントマン(ウーマン)としての役割を果たすため」である。テーマを吹けないと格好悪い、っていうかセッションとか入れないもんね。特に「枯葉」のような(譜面上)簡単な曲でテーマを吹くときには、譜面通りのっぺり吹くのではなく、多少抑揚を入れたり、フェイクを入れたりもしてみたい。
 もうひとつ、その後のアドリブ演奏を前提とすると、メロディとコード進行の関係を理解(体感)しておくというのもあるかもしれない。ある意味、そのコード進行に対して、最も煎じ詰めて考えられた旋律だと言えなくもないし。

14.4 テーマの練習方法(私案)

 以上を考慮したうえで、えいやっとテーマの練習方法を考えてみた。まあ、安易な思い付きなので、他にもいろんなやり方はあると思うが、とりあえず。ちなみに、上の方で譜面によってキーが違う、みたいなことを書いたが、基本的には普通にセッションでやられるようなキー、日本で言えば「黒本のキー(譜面)」を参考にすれば間違いないだろう。

(1) メロディーを覚える:曲の骨格をつかむ

 先ずは基本となるメロディーを覚えないと話にならないので、とりあえず楽譜通りで何度も(例えば30回とか)演奏してみる。枯葉みたいな単純な譜面は、とりあえず抑揚だとか、音量だとか、アーティキュレーションとかあまり考えずに、ベタで(といいつつ全部テヌートで)譜面通り吹けばよいかと。
 さらに言えば、「コピー譜練習」で書いたように、楽器で吹く前に楽譜に音名書き込んで「ラーシードーファー♪」とか大きな声で何回も歌ってみると良いかもしれない。ポイントは、頭で鳴っている音と指を合せること。その前提として、メロディを音名で覚えておく必要があるので、自分の声で歌って覚えるというのは重要なプロセスだと思います。
 さて、演奏(あるいは歌)の際には、できれば伴奏を付けておきたい。今の世の中iRealとか、Backing Track映像とか便利なものが沢山あるので、それに合わせるということですね。目的は曲の骨格ー例えば、構成だとか(枯葉だったら八小節単位で4つのパートからできてるなとか、そのひとつめとみっつめはおんなじだなとか)、コード進行とメロディの関係を理解(体感)すること、と思いますが、あまり難しく考えないで、とにかく回数をこなすのが良いと思います。メトロノームフェチとしてはメトロノーム(だけ)に合わせて吹くというのもお勧めしたいですな。

(2) 参考演奏を聴いてみる

 次に、曲の「骨格」をなんとなくわかったうえで、参考となると思われる音源を聴いてみる。枯葉なら、サックスじゃないけど、ビルエバンスやらマイルスやら、あるいは、ジャズに拘らず大元のシャンソンバージョンだとか、まあなんでもいいです。今の世の中便利なので、You tubeなりSpotifyなりで検索すればいくらでも出てくるので、片っ端から聞いてみるのも良いかと。この手の曲だと、たいていは楽譜とはずいぶん違うことをやっていると思うんだけど、自分で覚えたメロディのどこの部分をどうやっているのかを分かるようになるのが第一課題かと思います。あと、演奏によってはキーが違ったり、テーマらしいものは演奏してなかったりといろいろなパターンがあると思いますが、そういうバリエーションも含めていろんな演奏を聴く、ついでにいうと、好みの演奏を見つけて何回も聴く、というのが良いかと。
 ところで「(人の演奏を)何回も聴く」というのはジャズの演奏を学ぶ上では極めて重要なプロセスだと思うので、これについてはそのうちまた文章を書いてみたいとは思っています。

 せっかくなので「枯葉」をいくつか集めてみました。
 まずは有名どころでマイルス(っていうかキャノンボールアダレイ)。変なイントロがついてますが、曲が始まるのは明確にわかるはず。

 
 これも有名なビルエバンス。ちょっとだけイントロがついている。

 
 サラボーン。いわゆるテーマが初めから最後まで出てこないので注意w

(3) フェイクをしてみる

 さて、曲の骨格がわかって、演奏(唄い方)のバリエーションがなんとなく分かったところで、伴奏音源に合わせて多少フェイクをして吹いてみる、などと言うとなんかアドリブ講座っぽいw。フェイクというのは、楽譜に書いてあるベタなメロディを多少崩したり、余計な音吹いたり(吹かなかったり)してメロディを「ジャズっぽく」してみるということですかね。ある意味、アドリブ実践の第一段階と言えるかもしれない。
 といいつつ、フェイクって実は物凄く難しいと思うんですよ。理由は、たいていの場合物凄く格好悪くなるからww 特に、ジャズを演奏して浅い人は、センスの良いフェイクはなかなかできないと思っている。
 では、センスの良いフェイクというのはどういうものか、というのはなかなか説明が難しい。センスってあくまで個人的なものなので。とはいいつつも、やっぱりジャズをそれなりにやっている人から見てセンスの良い、あるいは悪いフェイクというのはあると思う。それがなんとなくわかるようになるためには、やっぱり(2)で書いた通り、いろんな演奏を「分析的に聴く」しか無いような気がしますね。
 サックスの人限定だけど、フェイクをするときのポイントを一つだけ。

「しゃくらない」

出典:八木私見

 ジャズのフェイクというと、どうしてもしゃくりたくなってしまう人が大半なわけですが、間違いなくダサくなるので避けましょう(まあ、当然これは私の価値観でこれが格好良いという人もいるかとは思いますが)。

(4) 難しい曲のテーマ練習

 さて、いままでは、「枯葉」のような「のぺっ」とした簡単な(それだけに演奏に工夫が必要な)曲を想定していたが、いわゆるジャズマンスタンダードによく見られる「難しい曲」はどうすればよいか。例えば「コンファメーション」とか「インナーアージwww」とかですね。
 これはある意味単純で、とにかく譜面通り吹けるようにひたすら繰り返して練習するしかない。まあ、その前に音名を楽譜に書いて声に出して唄ってみるのはやっぱりやってみたほうがいいかな。
 音源については「枯葉」のようにいろんなパターンを聴いてみるというよりは、ひとつターゲットを決めて、できる限りそれを真似るというのがよいかな。例えばテナーでコンファメーションだったらデクスターゴードンのテイク、だとかね。こうなると、ほぼほぼ「コピー譜練習」に近くなるわけですが、ただテーマを吹くというよりは、アーティキュレーションや、音色、音量、ノリ(タイム)も含めて真似してみると良いと思う。
 
 デクスターの「コンファメーション」。いぇい。

 
 以前「私はソロ(アドリブ)の時に何を考えているか」というテキストの一部で「テーマの吹き方」みたいなことを書いたのを思い出したので、番外編でサルベージしておきます。

 さて、本来であれば、バラードのテーマの吹き方とかも書きたいところだけど、疲れたので今日はここまで。次は何書こうかな。

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