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その7 パターン Jazz Sax:アドリブ練習の目的別構造化 

 今回は、構造化の図の中の⑦、いわゆる基礎練習の中から、「パターン」です。アドリブを演奏するときの、部品、あるいはアイディアの源、と捉えることも可能と思われ、もしかすると最も重要な練習なのかもしれません。


7.1 ジャズのアドリブにおける「パターン」とは何か

 軽く調べてみたが、トライアドやアルペジオとは違って「パターン」に正確な定義はないようだ。下で紹介するパターン練習のための教則本をみると、八分音符四つ(二拍)、または八つ(四拍)くらいの音列であるケースが多いようなので、一旦、その程度の定義にしておく。あと、面白い表現としてMelodic Fragment(メロディの断片)というのもあった。下記のリックの話と合わせて考えると面白いかもしれない。
 また、本連載「その5 インターバル」で、インターバルの定義として「メロディー及びハーモニーの構成材料」というのが出てきたが、パターンは、その材料を複数組み合わせて作る「アドリブ(メロディ)の部品」と定義することも可能だろう。いずれにせよ、パターンはアドリブの非常に重要な構成要素であり、それを多面的に解釈して死ぬほど練習することが、ジャズ脳、アドリブ脳、ジャズ耳、アドリブ指wの養成に欠かせないと思うわけです。

【補論】リックとパターンとフレーズ

 「パターン」と似たような単語で「リック」さらに「フレーズ」がある。試しにAIさん(Chat GPT)にリックとパターンとフレーズの違いを聞いてみたらこんなことになった。

「ジャズの即興演奏における「パターン」「リック」「フレーズ」の定義と違いを教えてください」

ジャズの即興演奏における「パターン」、「リック」、および「フレーズ」は、音楽的な要素を指す言葉ですが、それぞれ異なる意味を持ちます。

「パターン」は、短いフレーズやリズムの反復を指すことがあります。これは、演奏者が頻繁に使用する特定の音楽的なアイデアや形式的なパターンを指すことがあります。たとえば、コード進行やリズムの特定のパターンを繰り返すことで、演奏者は音楽の一貫性を保ちながら即興的な演奏を行うことができます。

「リック」は、通常、特定の音楽的なフレーズやアイデアを指します。リックは、特定の楽曲やジャンルにおいて特徴的な音楽的な要素やフレーズを指すことがあります。ジャズでは、有名なジャズミュージシャンの演奏スタイルやアイデアを指して「リック」と呼ぶこともあります。

「フレーズ」は、音楽的なアイデアや句動詞の一連の音符を指します。フレーズは、演奏者が即興的に作り出す音楽的な表現です。ジャズの即興演奏では、ソロ演奏者がメロディやリズムを自由に組み合わせてフレーズを作り出し、他のミュージシャンとの対話を通じて音楽を構築します。

要約すると、ジャズの即興演奏における「パターン」は繰り返されるアイデアや形式、
「リック」は特定のフレーズやアイデア、
「フレーズ」は即興的に作り出される音楽的な表現を指します。

Chat GPT

 あまりはっきりしないですなw。

 まあ、AIさんは置いておいて、私的には「リック」はジャズのプレイヤーが実際の演奏の中でよく使っている(と思われる)フレーズの断片、その意味では実証的に獲得された音列という感覚がある。
 一方、パターンは、どちらかというと、コードやスケール理論から理屈で構築される音列、くらいな感じである。その意味では、前回のアルペジオは(構成音を下から上に機械的に置いてるだけ、という意味で)パターンの一種なんだろう。
 とはいえ、アルペジオをそのままソロに使う人はいくらでもいるわけで、リックと言えなくもない。まあいいや、リックもスケールも、ソロの部品になるという意味では同じようなものだと思えばよいか。というわけで、本稿では、パターンはリックを含むことにする。
 で、「フレーズ」はリックよりももう少し長い音列で、始めと終わりがあるもの、というイメージがある。完成された文章に近いですかね。

7.2 パターン練習の意味と意義

 さて、上記から思いついた例えだが、アドリブ全体を小説と捉えると、フレーズは文章、リックは慣用句、パターンは文章の一部となる単語や助詞、と捉えられるのではないだろうか。とりあえず、パターン(リック)はフレーズを構成する部品であり、アドリブソロ中に思いついて、(多少の応用や変更も含めて)すぐに吹けるようになることが必要だし、それがまさにパターン(あるいはリック)練習の目的と言えると思う。
「リック」についてもう少し考えると、もしかすると「訛り」みたいなものかもしれない。特定の音列が出てくると、そのプレイヤーの音楽的なお里が知れるというか。
 さて、それらの組み合わせである「フレーズ」についてのアドリブへの活用はちょっと微妙な気がしますね。人のフレーズをそのままアドリブで使うのは、自分の小説に人が書いた「文章」をそのまま引用する、みたいなもんで、それの是非、あるいは、それが格好良いのかというのは、改めて考える必要があるかもしれない。とか言いつつ、やれグロスマンフレーズだ、ブレッカーフレーズだとか言って喜んでいるわけで、身も蓋もないわけですがw

7.3 典型的なパターン練習

 さて、曲がりなりにも意義を見出したところで、どんな練習をどんな心構えでやるかを考えてみる。

(1) 典型的なパターン

典型的な「パターン」

 これは、典型的な「パターン」ですね。下にも出て来る往年の名著 "Patterns for Jazz" で一番初めに出てきたんじゃないかな(うろ覚え)。理屈で作ったパターンっぽいけど、例えばコルトレーンはGiant Stepsで死ぬほど使ってますね。アメリカかなんかの学生が、Giant Stepsのセッションでこのパターン使ったら罰金、みたいな遊びをしているらしいw
 さて、これは「ドレミソ」という八分音符4つ(二拍)の「パターン」を、そのまま半音ずつ上げていく練習。譜面通りできるようになるだけでもいいのだが、折角なので、この音列の意味や構造を頭に入れておくとあとで応用が利くような気がする。
 一つ目の解釈は、音符の上側にあるように、初めの二拍にCのコードを想定して、その1度、2度、3度、5度の音を並べた、というもの。まあ、これで充分な気もするが、もう一つの解釈として、下に赤文字で書いてあるように、開始音から全音ー全音ー短三度と上昇するフレーズと解釈することもできる。まあ、どっちでもいいのだが、「ド」以外、例えば「ファ#」から始めるときにどちらで考えれば指が動くか、によって解釈を変えてもいいのかなと思う。 

(2) リックっぽいパターン

 さて、もう一つ適当な例を考えてみた。八分音符8つ(四拍)のパターンですね。チャーリーパーカーがよく使うフレーズの一部を切り取って、次の小節は全音上がる、みたいなやつです(別に半音上がる、でもいいんだけど、面倒だったので全音にしたw)。理屈じゃなくて、実際のソロでよく使われているフレーズという意味では「リック」と言ってよいのかもしれない。こういうのがソロで出てくると「お、コイツ、バップ分かってるな」と思わせる効果がある、かもしれないw

バップっぽい「リック」

 さて、適当にドから始まるパターンにしてみたが、いったいこれが何のコードで使えるのか私は知らないww とはいえ、いろんなキーでできる(いろんな音からスタートして同じ音列が吹ける)ようになっておくと、思いついたときに吹けそうだ。
 で、このフレーズの練習の仕方、というか覚え方は、赤い文字で書いた通り、各音符のインターバルを順番に理解しておくとよさそうな気がする。例えば、5つ目の音から6つ目の音に行くのが短三度下だ、と分かっておくと再現性が高くなるんじゃないかなと思う。まあ、実際には「指で覚える」のが早いのだろうがw

(3) 数学的wパターン

 次は、どこで覚えたか忘れたが、私がたまに練習している例。ドから初めて、完全四度上行二回(音符三つ)で1パターン、それを次は短三度上げてミ♭から、次はまた短三度挙げてファ#から、みたいな。典型的な、頭で考えたパターンですね。いわゆる四度フレーズとでもいうのだろうか。八分音符3つで一単位ということで、リズム的にもトリッキーな感じだ。これをそのまま半音ずつ上げると、三回りで全てのパターンを制覇できます。

四度フレーズの三つどり

 このパターンは、先日ELPのTarkusをカバーした時のソプラノソロ冒頭でほぼそのまま(でもないかw)使っている。四度跳躍がキースエマーソンのオルガンソロっぽくて、何人かに褒められたw。下のリンクははそのソロの冒頭に飛びます。

(4) パクリのパターン

 こんなのも考えてみた。

コルトレーンのパクリ

コルトレーンの「至上の愛」の冒頭のフレーズですね。あれは「レファーレソ」をあちこち転調させて怪しい雰囲気を作るわけですが、ここでは次のパターンを「レファーレソ」の最後の音、すなわち四度上からから初めて「ソシ♭ーソド」、次も4度上で、「ドミ♭ードファ」という具合にしてみました。4度上(あるいは5度下)を続けていくと、自動的に12key回るので便利かと。

※追記
実際に私が上記のコルトレーンパターンをアドリブで使っているのを見つけたw Fee Fi Fo Fumのアドリブのサビのところで、Eb(実音Db)からはじまる上記パターンをいきなり使っている。理論的なことを考えているかというとそんなことはなく、Ebからならいけるかなと思ってはじめて、それなりにどうにかなりそうだから、そのまま強引に続けちゃった感じだ。映像は、そのコーラスの頭から始まるようになっているので、お試しください。

https://youtu.be/IMdQEfOGOoU?t=417


 いくつか、私が適当に考えて例を挙げてみたが、パターンを作ることに関しては、あまり難しく考えることはないような気がする。自分で何かしら思い立ったもの(例えば「ドミレソ」みたいな簡単なやつ)でも、誰かのソロやテーマの中で出てきた気になる音列、でもいいし、なんなら最初の音だけ決めて、サイコロ転がしてインターバルを決めて音列を作ってもよい(下のジェリーバーガンジのパターン集なんてそんな感じだ)。
 ポイントは、基本となる音列の構造(インターバルとリズム)を理解して、それを違うキー、できれば12キーで即座に吹けるようになるような訓練をすることだろう。ジャズっぽいパターン、いわゆるリック的なものを沢山練習しておけば、アドリブの途中でジャズっぽいフレーズを繰り出せるようになるし、機械的なパターンを練習しておけば、あまり意識せずに機械的かつ意表を突くようなフレーズ(例えばアウトフレーズ)が吹けるようになるのではないかと思う。

7.4 教則本でパターンを学ぶ

 前項のように、パターンは色々な観点で、それこそ星の数ほど考えつくわけだが、まだ自分では考えられないという人は、まず教則本を参考にするとよい。っていうか普通はそこから始めるんだろう。以下、私が知っている範囲で並べてみる。

(1) Patterns for Improvisation (旧Patterns for Jazz)

 サックス奏者/アレンジャーのOliver Nelsonが書いたパターン集。ジャズのパターン集といえばまずこれだろう。私が学生のころから存在して、当時はくすんだ緑色の表紙でPatterns for Jazzという名前で出版されていた。解説は基本的になく、とにかく音符の羅列が続く。学生時代は、とにかく何も考えずに、最初から順番に我武者羅に練習したものです。今になって考えると、頭使ってやってたらもう少し身になっていたかもしれない。とはいえ、ここで出て来るパターンは、アドリブの途中でそのまま吹いてもなんかそれなりに格好がつくようなものも多く、私にとってはいまだに大変役に立っていると思う。
https://amzn.asia/d/b757RuI

(2) Patterns for Jazz

 ややこしいのだが、最近ではこっちがPatterns for Jazzを名乗っている。上のOliver Nelson版に比べると、それなりの解説(パターンの解釈)もあり、順番もMajor Triadから始まり、7th、9th、スケール、マイナーコード、ディミニッシュやホールトーンなど、とシステマチックに学べるようになっている。また、初めの二小節だけ音符とコードが書いてあって、次からはコードを見て自分で音符を考えて吹く、等工夫がしてある。最近はこちらの方がスタンダードなのだろうか。欠点としては、やたら量があること。これ最後までやるのはそれなりに時間と根性が必要だと思います。ちなみに、最近私はこれをちょっとずつ練習している(本当にちょっとずつ)。

(3) Thesaurus of Intervallic Melodies

 ブリブリ系テナー奏者ジェリーバーガンジの著書。オタク向け。
とにかく4つだとか5つとかのインターバルを機械的に組み合わせて譜面にしてダラダラ並べて、その数なんと1704ww よく書いたなあ。昔マレーシアで暇だった時、たまに取り出して適当なページを開いてメトロノームに合わせて練習していた。やってると、なんか妙に複雑なフレーズが吹けるような気になってそれなりに楽しい(?)のだが、あまり頭を使ってなかったこともあり、身に付いたような気がしない。勿体なかった。

(4) Inventions and Dimensions: Michael Brecker Jazz Styles

 後半はコピー集だが、前半はブレッカーのいわゆる「リック」がてんこ盛り。2小節単位が多いかな。それぞれ、リックがぽろっと書いてあるだけなので、自分で移調して練習しないといけない。私はKindleで勢いで買ったが、結局いまのところただの課金になってます(なにも練習してない)。

 いわゆるパターン集は、上記の他にもたくさんあると思うが、初めての人はとりあえず、上の二つのどちらかを買ってどんなものかを試してみるのが良いのかなとは思います。

7.5 クリスポッターのパターン練習

 パターン練習については、以前、クリスポッターのマスタークラス隠し録り音源から文章を起こしたことがあるので、別のNote(本論の番外編)としてサルベージしてみた。

 読んでいただけると分かると思うが、これ、結構パターン練習の本質が出ていると思う。とにかく何でもいいから音列を考えて、それを「移調」「変形」していく訓練をする。始めは譜面に書くのかもしれないが、それを頭の中で即座にできるようにしていくのが重要だと思うし、演奏中、その組み合わせを異常なCPUスピードで処理して、指と舌で実現することにより、あのクリスポッターの気が狂ったソロが成り立っているんだろう。

7.6 まとめとして:改めてパターン練習の意義

 長々と書いてきたが、パターン練習の目的や意義、方法論について、箇条書きでまとめておく。ちょっと理屈っぽ過ぎるような気もするし、言い過ぎかもしれないが、まあ、このぐらい断定的に書いておくと、言いたいことが分かっていただけるんではないかと思う。

  • 「パターン」はアドリブソロの「部品」であり「吹きたいことを思いつく」ことに役に立つ。その意味で各プレイヤーの頭の中のパターンの在庫がアドリブのバリエーションを決める

  • 「パターン」は、教則本で学ぶほか、自らの理屈を工夫したり、人の演奏から盗んだり、といった方法で作ることができる。

  • 「パターン」を決めたら、それを瞬間的に「移調」「変形」して演奏をする訓練をすることにより「思いついたことを実際に吹く」技術の習得につながる。

  • その為には、それぞれのパターンの構造(それぞれの音のインターバルの組み合わせ)を理解することが必要であり、譜面に書いて練習するよりは、出来る限り頭の中で変換をしながら練習することが望ましい。

  • パターンの練習に関しても、できるだけメトロノームを使って、タイムを意識しながら練習するとよい。

 今回は、妙に長くなってしまったが、改めて「パターン練習」の重要性を認識できたと思う。

ジャズサックスでアドリブを吹くためには、

①ひたすらいい演奏を聴いて、
②ひたすらロングトーンをやって、
③ひたすらパターン練習を(メトロノームに合わせて)やる


それだけでいいんじゃないかとさえ思えてきたww

 というわけで、今回はここまで。ちょっと気合入れ過ぎで纏まりがない感もあるので、あとで修正するかもしれませんが。

 その8はこちらから。

本連載の一覧(マガジン)はこちらから。



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