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その2 ロングトーン(良い音を造る) Jazz Sax:アドリブ練習の目的別構造化 

 さて、今回から、個別の練習ごとにその意義、注意点、実例などについて私なりの解説をしていきたい。今回は基礎連中の基礎練習、であるロングトーン(⑧音を造る)について。


2.1 ロングトーンは何のための練習か

 サックスのみならず管楽器の基礎練習といえばロングトーンである。当たり前すぎてあまり疑問に思うこともないが、思考訓練として、そもそも何のためなのかについて、とりあえず書き出してみる。思い付きだが、例によって目的志向で構造化してみよう。一応、自分の出したい音を出せるようになることを最終目的としてみる。

  • ジャズ演奏時に自分の出したい音を出せるようになる

    • 出したい音に必要なアンブシュア、セッティングを見つける

      • シンリップ、ファットリップ、ダブルリップ、、

      • リード、マウスピース、楽器、、

    • 出したい音に必要な呼吸法他のテクニックを身につける

      • いわゆる腹式呼吸他

      • オーバートーン(倍音のコントロール)

    • 出したい音(音程、音色、音量)を常に安定して出せるような肉体的な耐久力を身につける

      • アンブシュア(唇)、喉の耐久力

      • 呼吸法(息のコントロール)の強化と安定

    • 主に音量、音色の変化による表現力を身につける

      • ピアノ、フォルテ

      • クレッシェンド、デクレッシェンド

      • リアルトーン、サブトーン

 思い付きとはいえ、意外とたくさん出てきた。なるほどこういうことだったのかw もう少しちゃんと構造化できるような気もするが、一旦これで置いておこう。

2.2 「自分の出したい音」とは何か:ターゲットを決める

 さて、上記においては実に軽い調子で「自分の出したい音」とか書いてしまったわけだが、実はこれ、人によって大きく違うはずだ。

(1) サックスの「良い音」とはなにか

 いきなりだが、サックス、特にテナーサックスというのは、他の管楽器に比べても、表現 ー音色や音量ー の幅が極めて大きい楽器である。テナーでちょっと思いつくだけでも、コルトレーン、スタン・ゲッツ、ソニーロリンズ、デクスターゴードン、アルバートアイラ―、マイケルブレッカー、グローバーワシントンJr. 、ケニーG、武田真治w、とそれぞれ個性的な音を吹くが、実際、彼らはみんなほぼ似たような楽器を吹いているし、せいぜいマウスピースやリードが違うぐらいだ(エフェクターやアンプも含めて無数にある音色を作っていくエレキギターとか比べると楽器のシンプルさがよくわかると思う)。さらにクラシックのサックスを含めると、音色的に異常なバリエーションがあるのが分かる。アルトの方が偏差は小さいような気もするが、やはり同じようにバリエーションは多い。
 そんななか、できる出来ないは別として、まずは自分がどのような音色を目指しているのかを意識する必要があると思う。それに応じて様々な要素が決定され、その要素を意識したうえでの「ロングトーン」を行うのが理想的と言える。少なくとも「いろんな種類のいい音がある」というのを分かっておくのは重要であろう。

(2) 普遍的な「良い音」は存在するのか

 とはいえ、ジャズをやりたいと思う人がいきなりターゲットを決めろと言われてもなかなか難しいだろう。そこで、ある意味「普遍的な」良い音の概念が語られることがある。
 例えばこんな↓感じだ。ついでに反対の表現も書いてみたが、大まかに、左側の方が「良い音」として扱われることが多いと思う。

  • 暖かい音(⇔冷たい音)

  • 太い音(⇔細い音)

  • 遠鳴りのする音(⇔近鳴りな音)

  • 指向性の強い音(⇔拡散する音)

  • 倍音の多い音(⇔倍音の少ない音)

  • 五月蠅くない音(⇔五月蠅い音)

  • キンキンしない音(⇔キンキンする音)

  • よく抜ける音(⇔抜けない音)

 まあ、どれもこれも主観的、感覚的な言葉で、多少デジタルに考えられるのは「倍音の多い(少ない)音」くらいかな。これだと始めたばかりの人は分からないし、同じ表現でも人によって違うイメージをしちゃうことになる。もしかすると、この手の「普遍的に良い音」の概念がジャズサックスを取っ付きにくくしてるんじゃないかとさえ思えてきたw
 私もこの手の概念を意識してロングトーンの練習を行ってきたという事実があるので否定はしないが、何かもう少しデジタルな表現はないもんですかね。アイディア求む。
 というわけで、やはり、まずは「自分の好きなプレイヤーの音の特徴を(できれば言語化してみて)それを真似る」のが一番の近道なのかもしれない。さらにいえば、死んじゃった人は無理だけど、生きている人、できれば、ライブが頻繁に観られる人で自分の好きな感じの音を吹く人を見つけて(決めて)、できるだけ生音を聴いてターゲットにしていくのが一番良いような気がします。

(3) 普遍的な奏法は存在するのか

 さて、普遍的な「良い音」が定義できない中で、普遍的な「良い奏法」は決められるんだろうか。呼吸法とか、アンブシュアとか、ついでに言えば楽器やリードのセッティングとかですね。
 結論としては「一概には決められない」ということになっちゃうと思う。お疲れ様でした。

(4) クラシックサックスとジャズサックス

 とはいえ、それで終わっては練習論にならないので、一点だけ注意すべき点を挙げてみる。「クラシックサックスとジャズサックスの奏法は、違う楽器吹いてるのか、と思うぐらい異なる」ということである。
 自分自身がブラバン出身で、小学校から高校の途中までクラシックサックス奏法を追求していたのだが、ジャズを志すようになっていろいろな人から話を聞いたり、実際の演奏を観たりして、相当ショックを受けた覚えがある。そこから奏法改造に取り組んだわけですが(実際本格的に取り組んだのは高校卒業してから、要はブラバン引退してから)。
 細かいことはいろいろあると思うが、主な違いはアンブシュアですね。こんな感じだろうか。

  • クラシック:唇は左右に引っ張り、なるべく薄く。マウスピースは浅く咥えて、どちらかというとリードを噛んで(圧力をかけて)リードの鳴りをコントロールする感じ。シンリップというのだろうか。

  • ジャズ:唇を丸めて、すぼめるような形にする。深めに咥えて、雑味も含めて出来るだけリードをフルに振動させる。リードへの圧力は最低限。こちらはファットリップといいますかね。上の歯もマウスピースにあてない(ダブルリップ)奏法も。

 実際やってみると分かるが、ファットリップにするとシンリップの時より半音ぐらい音程が下がる(大袈裟かw)。あと、個別の音程のコントロールが難しくなる。一方、ファットリップの方が倍音が豊富だからなのか、アンサンブルの際の音程の違いは気にならなくなる。ベイシーバンドのサックスセクションとか、緻密なチューニングはしてなくても心地よくサウンドして聴こえるのはそういう理屈があるんじゃないかと思っている。
 別に、シンリップでジャズをやってはいけないという決まりはないんだが、典型的なモダンジャズサックス(特にテナー)の音を出そうとすると、なかなか厳しいと思う。街のサックス教室とかは、音大出身の方がよく先生をやっているが、その場合、クラシック奏法がベースになっているケースが多い。例えばデクスターゴードンみたいな音を出したい、というのがターゲットの場合、その先生が上記のような違いを認識してアドバイスできるか、というのは検証した方が良いと思う。大きなお世話だが。

(5) サブトーンについて

 ついでに、クラシック奏法になくてジャズにあるのは「サブトーン」と言われる音色だ。(多分)上で書いたファットリップを前提とした奏法なんだと思います。具体的な出し方は、、自分では吹けてるつもりなんだけど、実はどうやって出してるかわからないw 誰か教えてください。
 他にも、ビブラートの掛け方とか、タンギングの仕方とか、クラシック奏法とジャズ奏法はそれなりに違いがあると思うのだが、ここでの深入りは止めておく。

(6) オーバートーンについて

 さて、音色の追求という意味で、ロングトーンと同じぐらい、なんならロングトーンよりも重要なのが、オーバートーンの練習だと思われます。倍音のコントロールが目的だから音色に直結しているとも言えます。
 なのですが、私そもそもあまりできないのでwとりあえずスルーさせていただきます。すみません。

2.3 私の場合:ルーチン練習と気を付けていること

 さて、ようやくロングトーンの練習方法について。これも人により千差万別だと思うので、自分のやり方を書いておく。下記練習は、ここ20年ぐらい、たまに(1回/月ぐらいw)練習するときに、ウォームアップで行っているものであり、本来の「音を造る」というより、サックスの吹き方を思い出すための練習に近いが、まあ、ご参考までで。

  • メトロノームをBPM=60で鳴らす

  • 真ん中のド、三小節(12拍)ロングトーンをして、一小節(4拍)休む

  • 半音ずつ下降して、Bbまで同じように続ける。その後半音ずつサイドキーを使ったFまで2オクターブ半のぼり、また下降して真ん中のCまで戻って終了(これで約15分)

  • 音量はメゾピアノ程度。音色は、低音域はサブトーン、高音域はサブトーンぽいリアルトーン

 ポイントとしては、決して大きな音を出さず、どちらかというと小さめの音で音程、音量の変化を最低限にすることだろうか。タンギングもアクセントをつけず、自然な感じで発音することを心掛ける。
 音量も、基本的にはメゾピアノくらいで一定にして吹くのが基本だが、例えば6拍クレッシェンド、6拍デクレッシェンドで音量のコントロールをできるようにする、などの応用練習もあるかもしれない。
 音程については、安定性のチェックという意味と、固有の音の高め低めの調節という観点でチューナーを眺めながらという方法もあろうかと思うが、私はやっていない。すべての音で正しい音程を吹こうとすると、アンブシュアがバラバラになる可能性があるので、お薦めしない(クラシックやっている頃はさんざんやりましたが)。多少音程がばらついても、音を伸ばしているときの安定性のチェックという意味でチューナーを使うというのはありかもしれない。 

【補論】サックスの音色の決定要素は何か

 上の方で散々「自分の出したい音」云々と書いたが、サックスの音色は何によって決定されるのだろうか。いろいろな考え方はあろうかと思うが、私が感覚的に感じていることを、無理やり数値で表してみるとこんな感じだ。

サックスの音色の決定要素 ソース:八木主観

 管楽器というのは楽器本体だけでなく自分の身体(口腔内や喉、なんなら体全体)も楽器の一部だと考えられる。特に、テナーぐらいの大きさの楽器になると、その影響が顕著であり、例えばデクスターゴードンがあの音を出せるのはあの体格(身長190cmくらいありそう)が前提ともいえる。よって、身も蓋もない話ではあるのだが、体格はそれなりに音色の決定要素であり、人によってはいくら頑張っても出せない音というのは存在するんだろうなと思う。先日のサックスヲヤジ呑み会では、体格だけじゃなくて頭蓋骨の容積もだという説も出たので、面白いから入れておく。
 体格云々は所与のもので、自分ではコントロールできないが、自分で制御可能なものとしてはやはり奏法(40%)ですかね。上に書いたようなアンブシュア、呼吸法といったところで、まさにロングトーンで追及していくべき要素だと言える。というわけで、体格と奏法で音色の7割ぐらいが決まるイメージですね。
 残りがいわゆるセッティング。ここではマウスピースとリードで20%、楽器とその他(ネジとか指置きとかw)が10%くらいで置いてみたw 本当はもっと影響少ないと思うんだけど、まあ、サービスだw
 私だけなのかもしれないが、セッティングを変えたとき、例えばマウスピースを変えたときには、新しいセッティングに慣れる(コントロールのコツを覚える)という意味でそれなりの期間の基礎練習が必要だと思っている。まあ、やっぱりロングトーンですね。あまり頻繁に変えるとそれだけで時間取られちゃうので、私はできるだけ同じセッティングをキープするようにしています。

 あまり纏まりが無かったですが、今回はここまでで。

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