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その3 タンギング Jazz Sax:アドリブ練習の目的別構造化 

 構造化した図には入っていないんだけど、ロングトーンの応用でタンギングについて考えてみる。⑦と⑧の間ぐらいの話かな。


3.1 八分音符原理主義とジャズのタンギング

 いきなりだが、私は八分音符原理主義者である。タイム感を感じられる八分音符がジャズのアーティキュレーションで吹かれていれば、アウトだろうがインだろうが、適当なフレーズで格好いいジャズになると考えている。いわゆる「スイングしている」ってやつですね。
 八分音符を吹くときに重要なのは「音価」とそこから感じられる「タイム感」だと信じるわけで、まずは「音価」を身につけるため、ロングトーンの延長線上でのタンギングの練習について書いてみる。

(1) 羊羹ロングトーン

 上に書いた通り、ジャズの八分音符で重要なのは「音価」と考えているのだが、その「音価」をイメージするために、まずは基本となるロングトーンがどういうものか考えてみる。
 下図を、例えばこれを一小節の全音符として、縦軸が音量、横軸が時間と考える。ロングトーンの基本は、余計なアタック(発音時のピーク)やリリース(終了時の減衰)がなく、伸びている間の音量は一定とする。下図のごとく、羊羹を置いたようなイメージですな。実際にはいきなり立ち上がるわけではなく、多少時間はかかると思うが、まあ、イメージなので。

基本のロングトーンのイメージ。
アタックはなくリリースもなく、伸びている間の音量は一定。

(2) 包丁タンギング

 さて、この表現を前提に、下記のような譜面を演奏するとしよう(Ex.1)

テンポは適当に入れたので、BPM=60じゃなくてもいいです。

 ジャズ的な八分音符を吹くときの基本は、何回も書いている通り、音価を一定にすること。イメージとしては、ロングトーンの羊羹にタンギングの包丁で薄い切れ目を入れていく感じ。譜面としては、すべての八分音符にテヌートが付いていると思うとよい(EX.2)。

音量は一定で、薄い切れ目を入れていくだけ。

(3) ウダウダタンギング

 もう少しジャズっぽいアーティキュレーションにするという意味で、いわゆる「ウダウダ」タンギングを考えてみると、こんな感じですかね(Ex.3)。八分の裏にアクセントが付いて、音量は多少上げるんだけど、テヌートは変わらず。

「ウダウダ」タンギングのイメージ。

 いずれにせよ、ポイントは「音価」を維持すること。言い換えると、できる限りテヌートで吹く、包丁の切れ目を限りなく薄くする、ということだろうか。物理的には、普通に安定したロングトーンをしながら舌をちょっとだけリードにつけて音の切れ目を入れる感じですかね。
 ちなみに、この練習、いわゆる三連でやる手もあるけど、まずはイーブン(普通の八分音符)でやることをお薦めします。

3.2 私の場合

 まあ、こうは書いたものの、私自身はあまり上記のような同じ音でのタンギング練習というのはやりません(昔はやった)。その代わり、スケールとか、インターバルとか、アルペジオとかの練習で八分音符を吹くので、上記の羊羹タンギングを意識して実践してます。ついでにいうと、タイム感の養成のために必ずメトロノームを使って(八分の裏で鳴らして)いるわけだが、その話はまた別で。

【補論】「タンギングしない派」について

 最近、ジャズサックスのアーティキュレーションに関して「タンギングしないのが基本」という派閥が勢力を拡大しているようなのでw一応それに関する私の見解を書いておく。
 Bob RynoldsのこのYou Tube動画を観ると、初めの方で、フレーズの練習の時の3原則として、Slow(ゆっくり), Straight(跳ねずにイーブンで), Slurred(スラーで:タンギングをしない)と言っている。ここでの問題はSlurredで練習する意味ですね。

 さて、さらに観ていくと、彼がどうしてそういう考えに至ったかという説明も出てくる。曰く、バークリーに入ってGeorge Garzoneに習ったら、いきなり「まずはお前の舌を抜いてやる。話はそれからだ(意訳)」みたいなことを言われたらしい。 Garzone的には、最近の奴らはOveruse of articulation、アーティキュレーション使い過ぎだからまずはタンギング無しで八分音符をきっちり吹けるようになれ、ということのようだ。
 まあ、その前のパートでBob Raynolds自身が言っている通り、フレーズの正確性を担保するために、まずは、タンギングせず、運指だけで(正確には運指とエアーの調整の両方だと思うが)練習してみろ、ということか思う。もう少しいうと、運指の不正確さをタンギング=アーティキュレーションで誤魔化すな、ということかな。
 ここでいう「正確性」だが"Evenness between two notes"と言っている通り、八分音符がテンポに合わせてイーブンに演奏されていることを意味しているようだ。スラーで演奏するということは、音量的には上で書いた「音価≒羊羹」を維持したまま、音程だけを正確にテンポに合わせて変えていくということで、「音価を保ってフレーズを吹く」ための練習であるともいえる。
 その運指の正確性:Evennnessが担保されてから、改めて自分の表現としてアーティキュレーションを加えるのが良いだろう、というのが彼の主張であり、言い換えると、フレーズの正確性と表現力を増すために、運指の練習とアーティキュレーションの練習を分解してやってみよう、ということですかね。というわけで、決して「タンギングしないのが基本」ではないと私は思います。
 まあ、運指だけで(タンギングだけで)フレーズが吹けるようになると、いざという時のタンギングが、フレーズのメリハリという意味で非常に効果のあるものになる、というのはわからないでもないですが。George Garzoneは本家として、Joe Lovanoなんかもその系統のような気がしますね。いずれにせよ、ジャズ演奏における音価の重要性が改めて浮き彫りになるエピソードだとも感じるわけです。
 もしかすると、私がやっているスケールとかアルペジオとかも、まずはタンギング無しで練習してみるべきかもしれませんね。私の場合、あえてタンギングの練習と兼ねてやっているので、そこは工夫のしどころなのかもしれませんが。

 その4はこちらから。

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