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その4 メトロノームを使った練習 Jazz Sax:アドリブ練習の目的別構造化 

  いきなりですが、私、実はメトロノームフェチです。大学生のときは、なんでもかんでもメトロノーム使って練習してたし、なんなら通学の電車乗ってるときもイヤホンでメトロノーム鳴らして頭の中で八分のウラとりのエアスケール練習してたりしてた。今でもたまーの練習の時にはロングトーンからスケールから、必ずメトロノーム鳴らしてやるし、無いと不安になるレベル。
 なぜそうなったか真面目にしゃべると話は長くなるんですが、思いっきり端折ると、当時「本場モノホンの奴らは環境的に特に練習しなくてもジャズのタイムを感じられるが、ポンニチ(日本人)はその環境が無いので、タイムを感じる、あるいはタイムを自ら出すには特別な練習をするしかない」みたいな説がまことしやかに話されていたからで、私としては、いまでも半分そう思っている。まあ、幼いころから現代ジャズ漬けで育つ若い世代は、自然に身に付く人も多いとは思いますが。
 改めて、メトロノームを使う練習の目的は、ずばり「(ジャズっぽいタイムで)八分音符を吹くため」であります。今回は、以前書いたテキストをサルベージしつつ、メトロノームを使った八分音符の練習の話。構造図でいうと④の部分ですね。


4.1 2拍4拍でメトロノームを鳴らす練習

 八分音符をスウィングさせるための練習といえば、2拍4拍でメトロノームを鳴らすことである(決めつけ)。スケールだろうが、アルペジオだろうが、コピー譜だろうが、一人即興だろうが。必死にやってるとそのうちメトロノームがスイングするようになります。
 というのでは納得いかない方も多いと思われるため、なんで2拍4拍なのかを考察したうえで練習方法のバリエーションを考えてみる。

(1) 何故2拍4拍でメトロノームを鳴らすのか

 2拍4拍を鳴らして練習するのは、若干逆説的ではあるが「1拍3拍を正確な位置で演奏するため」だと思っている。ちょっと言い方を変えると、八分音符を正確な拍の長さに合わせ、完全にイーブンで演奏する(あるいは感じる)ことができるようになるため、2拍4拍にメトロノームを鳴らせて練習する、ということである。

 まあ、それなりに音楽教育を受けた人は頭(1拍3拍)に合わせることはたいていできる。が、実は無理やり「合わせている」わけで、その直前の微妙なハシリ、モタリというのを調整してしまっている可能性がある。例えばこんな感じ↓。上段がサックス、下段がメトロノームを想定。

一拍目(小説頭)は無理やり合わせられるので正確に吹かなくてもどうにかなる

 で、2拍4拍にメトロノームを鳴らすしても、やはり2拍目(あるいは4拍目)の音を「合わせる」わけであるが、1拍目で「合わせる」のとはちょっと感覚が違うはずである。つまり、1拍目の音がBPM(Beat Per Minute:テンポ)的に正確な位置にないと、2拍目を合わせるのは難しい。2拍目、4拍目を合わせようとすると結果的に、1拍目、2拍目、さらには3拍目、4拍目の頭がBPM的に正しい(完全イーブン)な位置に置かれるため、メトロノームと同期しているように聞こえる=メトロノームがスウィングしている、ということになる。メトロノームの「鳴っていない」1拍目を合わせるために2拍4拍のBPMを正確にとらえる練習、というのが正しい表現かもしれない。
 テンポ的には、まず四分音符=BPM120ぐらいがいいだろうか。メトロノームをBPM60にセットすることになりますね。

二拍目を合わせるためには、一拍目を正確な位置で吹くことが必要

 上記を応用して、下譜のような練習も考えられる。メトロノームを4拍目だけ鳴らしてみるってやつですな。2拍4拍よりもハードルは高く、八分音符が正確にBPMに乗っていないと、細かい「ずれ」が発生して4拍目はなかなか合わない。

4拍目だけメトロノームを鳴らす

4.2 いわゆる「八分のウラ」で鳴らす練習

 上記(4拍目を鳴らす)は、メトロノームで鳴らすBPMの単位を大きくしたわけだが逆のパターンもあり。いわゆる「八分のウラ」で鳴らすというやつだ。これはいわゆるタイム感覚を獲得する練習としては結構有名で、学生時代、著名サックス奏者も含めて数人に薦められた覚えがある。個人的には、2拍4拍で適当にノレるようになったら、次にはこれをやることをお薦めしたい。理由は・・・直感的にw。多分、ミクロな方向にいったほうが頑張りでどうにかなる可能性が高いから、じゃないかな。
 ちなみに、私は現在でもロングトーンの後のスケール、インターバル、アルペジオ等の練習は八分の裏で鳴らしながらやってます。テンポはBPM120 or140とかかな。

八分の裏で鳴らしてみる

 さらに応用編で、2拍4拍のウラだけ鳴らす、というのも考えられる。ここら辺まで行くと、相当タイム感が醸成されているものと思う。ちょっと曲芸っぽくもあるが。

これは相当難しいと思うけど、曲芸だと思ってやってみると面白いかも

(1) ジャズの「ハネ」をどう考えるか

 この「八分のウラ」を練習するときに問題になるのは、八分音符がどこにあると考えるか、である。ジャズ教育上、ジャズの八分はいわゆるハネている(といわれている)ため、例えば、メトロノームを鳴らすところ(各拍のウラ)を3連の3つ目だと思って演奏するという考え方もある。人によっては、「5連の3つ目」とか「7連の4つ目」とか拘る人もおありであろう。さてどうするか。
 結論から言うと、私的には八分は常にイーブンで捉えて練習することをお薦めしたい。いわゆる、ジャズのハネは非常に微妙なもので、テンポや演奏している音楽の年代、あるいは真似している人のスタイルによって変わる。一方、この練習の目的は「各拍の(頭の)BPMを正確に合わせる」であるので、各拍の頭があっていればウラはどうでもよいともいえる。お好きなように、である。ただし、まずやり易いのはイーブンで捉える方法だろうから、そこから始めて、各拍の頭を正確にとらえられるようになれば、あとはどうにでもなるハズだと思う。
 余談だが、この「八分音符はハネる」という概念、あるいは常識は日本人のジャズ演奏にとって非常によくない影響を与えていると思っている。だって、日本人って、ハネようとすると本気でハネちゃって、阿波踊りみたいになっちゃうもんねえ。まあ、サックス奏法的に考えると表の音も裏の音もしっかりとした音価で吹けばどこの位置にあってもそれなりに聞こえるんだが、最悪なのは表の音符が短くなっちゃう場合。「チャンカチャンカチャンカチャンカ」と阿波踊り状態になっている人って結構いるよね。
 さて、2拍4拍の応用編として、ただ八分音符を吹くだけではなく、ちょっとシンコペーション的なリズムも2拍4拍のメトロノームに合わせてやってみると面白いと思う。例えばこんなやつ↓。

グロスマンが良くやってるブルースのリフ"Vired Blues"だっけな?

  これってグロスマンがたまにやるブルース(Vired Blues)のテーマの一部です(これ三回繰り返すだけ)。いわゆるテーマの練習も必ず2拍4拍でやってみると相当タイムの練習になるハズ。とくにバップの曲は鍛えられそうですな。

4.3 アーティキュレーションをどうするか

 さて、ここまではどんな楽器でも共通の話題。ここからサックス奏法的な話をちょっと。以上は、主にスケールを例にしているが、前回話題にしたように、アーティキュレーション的には羊羹タンギング(またはウダウダタンギング)でできる限り音価を長くして吹くのが基本。スケールだけじゃなくて、単純にタンギングの練習でこれやってもいいし、アルペジオとかパターン、なんならコピー練習とか、上にもちょっと書いたがバップ系のリフもこれでやってみるとよい。
 遅いテンポの場合は全音タンギングするのが基本だとは思うが、ちょっと早くなると追いつかなくなるので、ウラだけタンギングするという手もある。ちょっとジャズっぽい雰囲気になるが、この際も一音一音の音価をたっぷり取るのは同じことなので注意して練習するのがよいかと。

ウラだけタンギングする

 さらに、前回書いたように「タンギングしない」で吹く、というのもありですかね。「タンギングしない派」からすると、まずはそこからだ、ということになるのかもしれない。音価を保って正確な位置に八分音符を置くという目的からすると、もしかするとそっちが正しいのかもしれない。例の、Bob Raynoldsが言ってた"Slow, Straight, Slurred"の原則ですね。

4.4 まとめ

 というわけで、いかに八分音符を正確に捉え、スウィングするか、という話でした。まあ、必ずメトロノームを使って、この手の練習を1年ぐらい死ぬほどやっていると、だんだん、イン(正確なタイムの在りか)が把握できるようになってくるわけで、ジャズっぽいアーティキュレーションと合わせて、タイムを出して吹く、ってのが分かってくるような気がします。その時は、メトロノームさんがスウィングして聴こえるようになるので(多分)お楽しみに。

その5はこちらから。

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