見出し画像

人間になった宇宙人(4)



雅子は洋子が佐竹と話しをしているのはチラ見で解っていたが、
話しの内容までは、聞こえてはこなかった。
洋子が驚いた表情で呼んでいる。
……ここはチャンスだ!佐竹君と話しが出来る!……
と、雅子は絶好球がきたみたいな気持ちだった。
……ここは、見逃す事は出来ない。バットを振らなければ当たらない……

「何だって?佐竹君!好きって言う意味が解らないの」
と、佐竹に近づくと直ぐに、雅子は話し掛けた。

佐竹は照れているのか、それとも驚いているのか?
解らない表情で言った。

「以前は気になっていた人が居たのですが、その人の事が気掛かりでは無くなったんです」
と、雅子の前で雅子の事を言った。
本当の気持ちを言わないと、地球人には伝わらない。

「何で気にならなくなったの?」
と、洋子が聞いてくる。
雅子も興味がある表情を示している。

「何故って〜ウ〜ン。」
と、佐竹は真剣な表情で唸った。
次の言葉を待つ二人。
五秒ぐらいの沈黙の後、佐竹は言った。
正直に、雅子の事を。でも猫になっていた事は告げれ無い。
「以前、気になっていた人は、イジメられて、いつも死にたいと想っていて、学校にも行かず一人でいつも泣いていた人でした。」

雅子の表情が明らかに雲ってきた。

「僕はいつもその人の事が気掛かりで、側にいたんだ」

「側に居たって、一緒に暮らしていたの?」
と、不思議そうに洋子が聞いた。
……まずい、ここは誤魔化そう。
猫になって一緒にいたとは言えない……
「一緒に居ません。時々です。」
「そうでしょうね。高校生の時から同棲なんてしないからね」
と、洋子は納得してみたいだ。

「その人どうなったの?学校に行けたの?自殺しなかった?」
と、雅子は優しく聞いてくる。

「その人は、元気です。以前と違って明るいし見違える様になっています」と、雅子の事を言う佐竹。

「そう、良かったわ。」と安堵の表情を浮かべる雅子。

「で、何故その人が元気になったら佐竹君、気にならなくなったの?」
訝しがる洋子。


「何でって、言われても解らないのですが、安心したのかな?」
と、佐竹は自分の感情が解らないのか、曖昧な答えである。

「安心しても、その人の事が好きならば、気になるでしょう。
もっと他の事で。きっとその人の事を好きじゃ無いのよ。
きっと」
と、洋子は確信あるかの様に言っている、その言葉に
雅子も頷き、首を縦に軽く動かす様がとても可愛い。

「好きって言うのは、相手の事が気になる事ですか?」
と、佐竹は不思議そうに洋子を見つめて言うが、その眼差しに真剣な想いを見る雅子であった。
……佐竹君って、本当に人を好きになった事ないのかな?
以前、気になっていた子って、以前の私に似ている。
不思議だな………
と、思っていた。

「好きになるとね。その人の事ばかり考えるのよ。
いつでも、その子の事を考えているの。
今、何しているのかな?とか、他に好き人いるのかな?
とか、想うのよ。」
と、洋子はロマンチックに瞳を輝やせている。

「そうですか?いつも考えているのですか?
だったら、私はその人の事を好きでは無いのですね。
いつも、考えてはいなかった。他の事にも夢中でした。」

「いつもと言ったけど、全ての時間では無いわよ。
ふっと想うのよ、その人の事を。」

洋子はイラッとしたのか、少し言い方がキツイ。

「ふっと想うのですか?さっきは、いつも想うって言いましたが?」
と、不思議そうな表情を浮かべる、佐竹。

「その人、今どちらにいらっしゃるのですか?」
と、雅子が聞いた

……どちらに居るか?と聞かれても、目の前に居ます……
とは言えない。
「遠くにいます。」
と、誤魔化した。

「佐竹君、遠くから来たって言っているけど、何処から来たの?
日本じゃ無い所から来たの?外国から来たの!」
と、洋子は聞いてきた。

「それは、・・・」と口ごもる、佐竹に洋子は浴びせる様に

「まさか宇宙から来た何て事はないわね!」
と、本気とも冗談とも言える言葉が飛び出した。

……この、洋子は、私の心の中が読めるのか?……
と、佐竹は一瞬想ったが、気を取り直し言った。

「何処から来たかについては、言えません。秘密です。」

……何かを隠さないといけない事があるんだ!……
と、雅子は想っていた。

「まあ、誰でも秘密にしたい事ってあるからね。
聞かないでおくわ。で、お父さんはどんな仕事してるの?
それに、家は何処?今度遊びに行っても良いかな?」

と、雅子の聞きたい事を洋子は矢継ぎ早に聞いた。

佐竹は困った表情に変わった。だが、洋子の質問に
「両親とは、離れて住んでいます。でも、お父さんの職業は言えません。借りている家は学校の近くです。遊びに来ても良いですよ。
何も無い部屋だけど、犬が一匹います。」
と、真面目に答えた。

「嬉しい。今度遊びに行くね。雅子もいくでしょ?」
と、聞いて来る。雅子にとって嬉しいお誘いだ。
「うん」と小首を振った。

「佐竹君、雅子の家ね、食堂なの。お母さんがやっているの。
美味しいよ、今度、雅子の食堂に行かない?」

……そう言えば以前、食べた焼きサバの味が忘れられない……
と、佐竹は思い出していた。

「そうですね。僕も、久し振りにお母さんの料理、食べたいです」
と、言って雅子の顔を見た。

「えっ、佐竹君、家にきた事あるの?」
と、ビックリした顔をしている。

「冗談よ。雅子!からかっているのよ!」
と、笑いながら洋子は言う。

だが、佐竹の本心は、……以前、貴女に飼われていた猫です。……
と伝えたい気持ちでいっぱいだった。

だが、雅子に判るはずが無い。

「今度、私と一緒に行きましょう!」
と、嬉しそうに洋子が誘う。

その提案を簡単に受け入れる佐竹。

その光景を複雑な想いで見ている雅子。



佐竹は、家に着き、制服を着替えながら
「今日、雅子さんの食堂に行こうと誘われたよ」
と、佐竹(ゴア)は犬のゴンに話しかけた。

「その食堂って、雅子の母親がやっているあの食堂か?
いつも、『焼き鯖が美味しい』と言っていた例の食堂か?」

「そう、例の食堂!今度は猫では無くて人間で行く事になったよ。」

「一人で行くのか?」

「一人じゃ無いよ。雅子さんの友達の石田洋子さんに誘われたんだ」

「石田洋子ってどんな人だ?」

「どんなって人と言われても、・・・。まだ、分からないよ。
会ったばかりだから。でも、可愛い人って言えるかな。
地球に来る時、地球人の顔を勉強していたんだが、美人の部類かな。」

「ふ〜ん、ゴアは勉強家だからな〜。それより、食堂に行ったらお土産頼むよ。噂の焼き鯖頼む。いつもドックフードじゃ飽きるよ。」

「解った、買って来るよ。でも美味しいものを食べると、ドックフードが食べれなくなるよ。僕もそうだった。
キャットフードは飽きるよ。」

「何だよ!ゴア、僕に飽きる物食べさせていたのか!」
と、怒るゴンを見つめながら、ゴアは静かに微笑んでいた。

そして、雅子の食堂に行く日が来た。
洋子と待ち合わせし、佐竹と洋子は雅子に知らせる事無く、
食堂に突然訪れた。

「あら、洋子ちゃん。お久しぶり」
雅子の母親の律子が、明るく挨拶を交わす。

「ご一緒の人はお友達?それとも洋子ちゃんの良い人?」
と、茶化す様に律子が微笑む。

……良い人とは?何だ!……と佐竹は思った。

「違うよ、叔母さん。クラスメートの佐竹君よ。
佐竹君が叔母さんの料理が食べたいと言っているから、
連れて来たのよ。ところで雅子いるかな?」

時刻は午後五時を過ぎた頃である、週末はお客さんも多くなるかも知れない。律子の居酒屋は、それほど広くはなく、
6人ぐらい座れるカウンターと、4人掛けのテーブルが二つ。
それに、4人ぐらい入れる狭い座敷がある。
時間が早いせいか、お客さんは私達二人だけだ。

「雅子、いるよ。この人が転校生の佐竹君。いつも雅子、
貴方の事言っているよ。凄いイケメンが来たって嬉しそうにしてる。雅子 呼んでくるね。」

……以前の律子と違う!以前の律子はいつもイライラしていた。
何かに怒りをぶつける様に!だが今日の律子は違う。
離婚する事で、抑圧から解放されたみたいだ!
不思議な事である。一時は愛し合い結婚したのに、別れることで、
解放される。一体 愛って何?………

https://note.com/yagami12345/n/n9f650ec2545a












この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?