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ある天才科学者の幽霊(3)




「私は、新美浩市だ。貴女から手紙が届いたから此処にやって来た。貴女とは生前、会った事がないが何の用事があるのか?」

と、私は上から目線で、天才科学者であり大学の助教授と言う風格で女に接した。

きっと、女は私に畏敬の念を抱くはずである。

「やはり、貴方が新美さん。私の思った通りね。
そう、貴方に聞きたいことがあるから、呼んだのよ。

でも、遅いわ。
もう少し早く来て欲しかったわ。

一応事件の解決もしたし。
私たちの記事も売れたし。
一応こちらは、満足してるんだけど。
でも聞きたいことがあるの。
教えて!」

と、女はタメ口で言ってきている。

私は、生前は無口で、人と接する事を極端に嫌っていた。

特にこの様に図々しく、人の事など考え無い、人間は大嫌いである。

だが、この女のおかげで、下界に降りて来れたのだ。
少しは質問に答えてやっても良い。

「何が聞きたい?私の答えられる範囲ならば答えても良いが」

「最初に聞きたいのだけど、矢部道子さんと何処で知り合ったの?
貴方とは、どんな関係?
そして、矢部道子の遺体は何処にあるの?
貴方のパソコンには、遺体は保存する書いてあったけど?」

パソコン?この女、私のパソコンの中を観たのか?
あの複雑なパスワードを解明し、中身を知ったのか?
見ることが出来なければ、矢部と知り合った事も遺体の事も知るはずが無い。

もしかすると、この女は天才か?!
それとも、強力な力を持った霊能者か?!
だから、私をあの様な力で引っ張っていたのか!
出来る女だ、気を引き締めて対応しないといけない。

さっき、事件を解決したとか、記事が売れたとか言っていたな?
この女は探偵か?それとも作家か?

「矢部君と知り合ったきっかけは、彼女が私が事務所で使っている
ビルの屋上にいたからだ。そこで知り合った。」

「そこで、何を話したの?知り合いになった位で、貴方に脳を、
提供するの?」

と、疑いの眼差しを向けてきた。

矢部さんの脳を移植した事まで知っているのか?

「彼女は、飛び降り自殺しようとしていたのだ!
それを、私は救ったのだ。」

「それは、矢部さんの脳が欲しかっただけでしょ!」

と、鋭い言葉が飛んできた。この女どこまで知っているのか?
油断出来ない。
だが、本当の事だけを話すつもりは無い。
どの様に誤魔化すかを考えていた。

「確かに、脳を移植することは、私は考えてはいたが、
それを実行させたのは矢部道子さんが望んでいたからだ。

私が無理にさせた訳では無い!
その事は、パソコンの中には書いてあっただろう!」
と、私は不機嫌に答えた。

「で、その手術をしたのが、石川医師ね?」

石川医師? この女、石川の事まで知っているのか!
彼の名前は伏せあったのに!
パソコンにも石川の情報は書いて無い。
何故この女は、石川の事を知っているのだ!

ここは、演技が必要だ!

「石川?そんな人間は知らん!」

「あら、そうなの?変ね。広田美枝子さんが貴方から
石川医師を紹介されたと言っていたわよ。
私に嘘をついてもお見通しよ!」

と、私の嘘を見透かした様に、薄笑みを浮かべながら言った。

広田美枝子!懐かしい名前だ。
私が生前、心を許せた数少ない女性でもある。
だけど、お喋りなのが珠に傷なのだ。
余計な事を言ってくれた。

「そう言えば、そんな医者いたな?
記憶から抜けていたよ。
だが、詳しくは付き合いも無いし、知らない」

と、その場を繕った。

「あら、変ね?貴方の妹の麗華さん。石川さんの所に行っていたけど。何故かしら?」

と、疑いながら聞いてきた。
そこまで調べたあるのか?
下手な誤魔化しは、この女には通用しない!のか?


この、「ある天才科学者の幽霊 」は
前著の「ある科学者の憂鬱」と「(続)三つ子の魂百までも」
の続編となっております。
この二つの小説を読んでいないと、解りづらいかも知れません。
この前著の二作を読んで頂ければ幸いです。

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