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(新)三つ子の魂百までも(6)


6

その日、事務所に訪れた二人の男女の依頼は、息子の捜索依頼であった。

二人に対応したのは、代表である飯島直美で、
依頼の要件は、「ニ週間前から、息子が行方不明になり連絡も取れず、捜査願いを警察に出してはいるのであるが、全く手がかりも無く、ある人にこの探偵事務所の事を聞き、捜索の依頼をしたい」
との事であった

直美は、その人の話しを聴き終えた後、
「探偵の仕事の中でも、行方不明者の捜索ほど時間と手間が掛かる物は無いのです。また必ず探し出せると云う保証もありません。
仮に探した結果、不幸が判明する場合もあります。
そのあたりを、どの様にお考えでしょうか?」と訊ねた

「そうですか・・・」と、意気消沈気味にため息をつき頭を抱える父親。
「でも、この事務所に霊能者が居ると聞いてきたのですが。
それと、猟奇的殺人事件を解決した名探偵がいるとも
聞きました。」
と、母親が願いを込める様に云う

「霊能者ですか?(≧∀≦)・・・・・。
私からは、明確には言えませんが、私の妹が『霊能者だ』とは言ってはいます。
猟奇的殺人事件を解決した事は間違いは有りません。」

「その、妹さんに会わせて頂けませんか?お願いします」
と、父親は藁をもすがる気持ちで言ってくる。

「そうですね。チョットお待ち頂けますか?」
と、直美は、裕美に連絡を取りに席を外した。
そして、
「今、裕美と連絡が取れました。10分ぐらいお待ち頂けますか?
もう直ぐ帰って来ますので、・・」

少し安堵する二人であるが、表情は暗く息子の安否を心配しているのが手に取る様に解る。重い雰囲気の中、直美も辛い気持ちでいた。

「ただいま、帰りました!」と、元気な声が事務所に響き渡る。
自分に期待され、嬉しさを隠せない裕美の声である。

直美は場の空気を読めない妹に、恥ずかしさを感じたが、
「裕美、こちらに来て」
と、冷静に言い、依頼者二人に裕美を紹介した後、依頼の内容を伝えた。

依頼者二人と対面する形でソファーに座っている裕美と、直美。
「息子さんとの消息が取れないと解ったのはいつですか?
正確な日にちが判りますか?」
と、裕美はこの案件に興味が有るのか積極的に質問している。

「確か、7月末に会社から電話があって、『息子が無断欠席している。何かあったのですか?』と言われたのです。
詳しく聞いてみたら、7月20日から休んでいるとの事でした。
今日は8月5日ですから、もう2週間は経ちます。
その間全く音信不通です。」
と、父親が具体的に話してくれた。

「そうですか?これまで息子さんが連絡もせずに旅行に行ったりした事はありませんでしたか?
それと息子さんの年齢はお幾つでしょうか?」

「今まで、息子が音信不通になった事は一度もありません。
息子の年齢は25歳で、名前を、松田正太と言います。
言い遅れましたが、私は父親の松田正一、こちらは母親の友子です。」
と、直美とは違い、積極的に話しをする裕美に好感を持ったのか
自己紹介をしてくれた。

「以前、私どもが人探しの依頼を受けて、解決に導いた事があるのですが、非常に悲しい結末でした。
あの案件で、あの猟奇的殺人事件が解決したのですが、
人を探す事は、非常に困難な作業であり、日にちも、人手も掛かります。また探しあてる保証も有りません。
そして不幸な結果が解るかも知れません。
そのあたりはどの様にお考えですか?
料金の方もかなりな金額が想定されますが、如何いたしますか?」

と、裕美は直美と同じ事を言い、費用についても言った

「費用はどの様になるのでしょうか?」
と、父親が不安な想いで聞いてきた。
「それは、捜索に対しての必要経費と、見つけ出した時の成功報酬
で、変わるのですが・・・」
と、裕美は少し曖昧に答えた。
「1000万位掛かるのでしょうか?」
と、父親が平然と云う

「1000万も掛からないとは思いますが・・」
と、びっくりしたのか、直美の声が大きい

「場合によっては、掛かるかも知れません。」
と、裕美は冷静にきっぱりと言い切った。

「それくらいで済むのなら、お願いしたいのですが、ダメでしょうか?」
と、母親も云う。
「でも、見つけ出した結果、不幸な事であっても受け入れる事が出来ますか?」
と、裕美は毅然とした態度である。彼女はお金が絡むと気持ちも変わる。特に大金が掛かると真剣さが増すのである。
必ず見つけ出すと云う、絶対の自信を持っている。

「それは、仕方の無い事です。」
と、父親が云い、そして
「先ずは、息子の安否を知りたいのです。たとえ不幸な結果であったとしても」
と、先ほどの意気消沈の姿では無く、元気を得た姿であった。
そして細かな打ち合わせをし、息子さんの情報を詳しく教えてもらい、この難解な案件を引き受けたのであった。
「霊能者の名にかけて」絶対に解決すると云う想いに駆られる
裕美であった。
大金の報酬を得るためにも!

https://note.com/yagami12345/n/n2058425d354a

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