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心の声(550字の小説)

人の心の声を聞く能力を持つ事は、ある意味怖い事でもある。
私がどの様に人に思われているか全て解ってしまう。
勿論、嬉しい時もあるのだが。

ある日、電車の中で男の心の声が聞こえた。
向かい側に座る女を狙っている。
それを解っていながら、私には防ぐ術がない。
男の眼光は鋭く、獲物を追う獣の様だ。

次の駅で、女は降りる。
それを追う男。
私は、怯えながら女の無事を願う。
彼女の身に何も無ければ良いが・・・。

次の日、ニュースである男の死体が発見されたと報じられた。
「あの男だ!昨日の男だ!間違いない!」
と、思わず叫んでしまう。
殺した犯人はあの女か?
まさか、あの様な華奢な身体で大男を殺せるのか?
疑問は、不安に変わりそして疑いへと変わっていった。

事件の解明は難航していた。
目撃者もおらず、男の死因が単なる心臓麻痺。
他殺か事故か?の区別もつかないまま時は流れる。
事件を忘れかけた時、私はあの時の女に遭遇する。

私を冷たく見つめる女。その時私の心に聞こえてきた声は、

……ヤバい、あの時の男!私を見つめてる。私が犯人だと知っているのね。
始末しないといけないわ。あの男を殺す注射を用意しないと……


だから、僕は心の声など聞きたくないんだ!

だけどその能力のお陰で、僕は前もって準備ができた。
必ずあの女を逮捕すると。

僕の仕事は、お巡りさんだ。

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