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人間になった宇宙人(8)



待ち合わせの場所に向かう途中、
気に掛かる所を見つけた。それは、歩道の片隅にあるシャッターの無い小さな倉庫である。
……もしかして、地球に最初に降り立った時の場所があそこだったかな?……
と、ゴアは以前の事を思い出していた。
……あの時、倉庫の片隅にある段ボールの中に入って人を見ていたんだった。そして雅子に拾われた。
雅子は、猫だった私を可愛いがってくれた。私も雅子の事が気掛かりで目が離す事は出来なかった。もしかしてこれが愛なのか?……

その様な感情を胸に秘め佐竹は、雅子との待ち合わせの場所に向かって行った。

喫茶店 「オカ」は雅子にとっての隠れ家的な存在である。
お客の入りが少なく、路地裏にあるため目立ち難い。

此処でなら、佐竹君とゆっくりお話が出来ると思いオカに誘った。

佐竹君、来てくれるかな?と云うよりも、この場所、解るかな?

何故、この様な場所を選んでしまったのか?反省したが、
住所を書いておいたので解ると判断したのだった。

待ち合わせの時刻は16:30。雅子は30分も早く来て待っている。
……どんな事を話しをしようか?好きって告白しようか?
でも、振られたら嫌だし、でも誘ってくれたと云う事は、
佐竹君も私に気がある証拠でもあるし?
佐竹君から言い出すのを待つか。……
と、色んな事を想い浮かべ、悩んでいる雅子であった。

雅子が想いを描いている時に、入り口の扉が開いた。
この扉には、小さな鐘が付いていて、開くたびに鈴の音が聞こえる様になっている。

入って来たのは佐竹であった。精悍な瞳で雅子を見つめている。

佐竹は雅子に向かって歩を進めた。

笑顔で迎える雅子。
その雅子の笑顔に不安を覚える佐竹。



「此処の場所、直ぐに解りましたか?」
と、雅子は誘った場所に不安があったのだろうか?
佐竹を出迎えて直ぐに質問をした。

「判ったよ。住所が判っていたから簡単だった。」
と、二人は対面して席に着いた。
この喫茶店は、それほど大きくは無く五人座れるカウンターと、
テーブルとソファの置いてある個室の様な場所が二つある。

完全な個室にはならないが、人目は避ける事が出来る。
雅子がこの場所を知ったのは以前、姉に紹介されたからだ。
その時、此処のマスターと仲良くなり時々此処に訪れる様になった。マスターは気さくな人で、雅子にとってはお爺さんの様に感じていた。
此処の喫茶店は「知る人ぞ知る喫茶店」で、コーヒーとスパゲッティが美味しい。知られては居ないのは、宣伝しないからであり、
マスターの曰く「常連のお客様だけで充分だ」
マスターは六十代の男性で、「一人でこのお店を経営して居るので、お客が多いと対応出来ない。」
との事。

雅子はときめきながら、佐竹を見ている。
その瞳の輝きを佐竹も感じていた。
……やはり雅子さんは、僕が以前猫だった事に気が付いている。この瞳の輝き!
以前僕を見ていた目と同じだ。隠す事なく本当の事を言おう。
そして雅子さんの記憶を・・・・……

マスターが水を持って、注文を取りに来た。

「私、ナポリタン。佐竹君は何を頼むの?」

……ナポリタンって地名では?……
と、疑問に想ったが
「僕も同じものでお願いします」
と、佐竹は答えた。どの様な物が出て来るのか不安があったが、それよりも大切な事がある。

見つめ合うと、何故か照れてしまう。
佐竹は視線を逸らして静かに話しだそうとした。

「・・・。」だが、言葉にならない。
その深刻な想いが雅子に伝わったのか、雅子が言った。

「どうしたの?佐竹君。深刻な顔して。」

……きっと佐竹君、私に告白するのだわ。どうしよう?
ここはじっと待つべきだわ………

一方のゴアは、……雅子さんに僕の正体を知られている。
何故知られてしまったのか?解らないが、きっと僕が口を滑らせて
いたからだろう!ここは正直に言おう。そして雅子の記憶を消そう……    と。

その時である、予想された事が起こった。



マスターが二つのナポリタンを運んで来た。
二人以外にお客は居ない。

美味しそうな香りを振り撒きながらナポリタンがテーブルに現れた。

……これが、ナポリタン?オレンジ色の食べ物?
ご飯では無い!何だろうこの細くて長いものは?……
不思議そうに観ている佐竹に、

「佐竹君、パスタ初めて食べるの?」
と、雅子は訝しんで聞いた。

……パスタ?ナポリタンでは無いのか?……
佐竹の疑問は更に深まった。

「美味しいそうですね。初めて見ました。」
と言って佐竹は、箸を探したが出されたものはフォークである。

「美味しいよ。この店の名物なの。美味しって評判なのよ。」
と言いながら、雅子はフォークを手に取り食べかけた。

……これを使うのか。……と、佐竹は雅子の真似をする様に食べ出した。

「アチい!」と佐竹は口に入れたパスタを吐き出した。

その光景を見た雅子の言葉が、

「佐竹君。猫舌なんだね。この前もそうだったね。」
と、笑みを含んだ表情であったが、ゴアの胸に突き刺さる。

……やはり、私が猫だった事が雅子にバレている。
この前もそうだったと、言っている。もう覚悟を決めるしか無い…

佐竹は急に脱力感を覚えた。
……何故猫だったてバレたのだろう。私の口の軽さからだろうか?……

雅子は急に元気の無くなった、佐竹が気になった。

……佐竹君、何故急に元気無くなったの?猫舌って言ったからかな?
私の言葉で傷ついたんだわ。ごめんさい、馬鹿にした訳じゃないのよ……
と、心で謝る雅子である。

二人は違う想いで会話する事も無く、パスタを食べている。
その光景はまるで若い恋人同士には見えない。

重い雰囲気の中、音楽が聴こえて来た。
マスターが二人のために流したのだろうか?
当然ながら、佐竹には初めての曲だった。

「この曲、何と云う曲ですか?雅子さん知ってますか?」
と、佐竹君に名前で呼ばれた事に、雅子は驚いたが、

「この曲、私の好きな曲なのよ。題名は
『マイ フーリッシュ ハート』って云うの
静かでいい曲でしょう。
でも、直訳すると、『私のアホ心よ』可笑しいですね。
でもね。日本名は『愚かなり 我が心』って云うの
本当に、誰が名付けたのか知らないけれど上手だと思わないですか?」
と、佐竹の気持ちをほぐすかの様に、雅子は言った。

……私のアホ心……この言葉だけが佐竹の耳に残った。

……そう、僕はアホなのさ。どうせバレているのだし本当の事を雅子に告げよう・・・……
と、更に決意を固めるゴアである。

https://note.com/yagami12345/n/nffd7bb5a0add

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