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(続)三つ子の魂百までも(33)


33

岡刑事が科学的で文明の利器を使う調査をしていた事を露とも知らず、私達は裕美さんの霊感を頼りに事件の調査を開始した。

私は、いつもの様に事務所に行き打ち合わせをした。
伊東さんは、直美さんと石川医師の元に行くことを決めた。
直美さんが一緒に行く事は珍しい事であるが、伊東さんだけだと、
問題が起こりそうなので、直美さんがついていく事になった。

私と裕美さんは、もう一度佐伯に会いに行くことになった。
裕美さんに直接佐伯に会ってもらって霊感を使ってもらう事にしたのだ、だがこれは、直美さんには秘密である。

僕は、裕美さんと二人で佐伯の居る◯◯大学に向かったのだが、
その途中である事に気が付いた。
それは、裕美さんが霊感があるので有れば、新美さんの霊を呼んで
事件の真相を聞けば解決する、と言うことに、私の灰色の脳細胞が
気づいたのである。
そうすれが、捜査などしなくて良い。

「裕美さん、お聞きしたいことがあるのですが?」
と、僕は裕美さんに先ずはお伺いをたてた。

「何よ、改まった言い方して?」
と、怪訝な表情を浮かべながら、僕を見た
電車の車内には、人が大勢いるので、オカルト的な事を聞くと
変な人間と思われるので、裕美さんの耳元で囁く様に

「今度、新美さんの霊を呼び出して下さい。そうすれば、真相が判り事件は解決します。」
と、僕は裕美さんに真剣にお願いをした。

「そんな事、今までした事無いよ!霊を呼び出す何て嫌よ!」
と、裕美さんは周りを気にせず、大きな声で言った為、聞いた人は
私達を変な人とは思ったかも知れない。
でも、私は怯まずに言った。裕美さんの耳元ではなく

「裕美さんに霊感があるのであれば、それ位は簡単な事です。
テレビでやっています。霊に聞くのを見た事が有ります。」

「馬鹿ね!あんなのは、やらせよ。嘘に決まっているわ。
第一に私の霊感は、私が感じるだけで、霊を呼び出すことなんて出来ないわ。簡単に云うと、芸能人を観て感じる事は出来ても、家に連れて来れないでしょ。それと同じよ」

「なるほど⁉️」と、思った。上手い喩え話である。

だが、僕は怯まない。
「芸能人ならお金を出せば来てくれる。それと同じで霊にも何か得する事が有れば来てくれるかも知れません。」
と真顔で僕は言った。

裕美さんは、やるせなさそうな表情を浮かべ僕の顔を観た。
そして僕を避けるかの様に横を向いた。
隣の人は、僕の言葉を聞いていたのか?笑っている。

人に喜んでもらえて僕は嬉しかったのだが、笑われていたのかも知れない
だが、そんな事ぐらいで諦める僕ではない。

霊が得する事とは何かを真剣に考えていた。
哲学者の様に。

裕美さんは、怒っているのか?僕の顔を見ようともしない。
気まずい雰囲気であったが、電車は目的地まで僕達を運んでくれた。
◯◯大学まではタクシーで行った。
タクシーの車内でも裕美さんは、口をきいてくれなかった。
大学に着いた時、裕美さんが急に僕に言った。

「公ちゃんの言った事、一度試してみるわ。でも霊の好きな物って一体なんでしょ?それが解ればやれそうな気がしてきたのよ。
此の事お姉さんに言ったらダメよ。」
裕美さんが、黙っていたのは僕の言った事を真剣に考えていたのだった。

私達が最初に向かったのは、広田さんの所である。
広田さんには、昨日の内にアポをとっておいた。

お互いの挨拶の後、広田さんが、私達に向かって言った。

「今ね。佐伯の所に刑事さんが来てるのよ!
今、大橋教授の部屋にいるの。何かあったのかしら?」


「その刑事はいつ来たのですか?」
(刑事達に先を越されたか!)と、いう思いがして、僕が聞いた。

今の時刻は10:25である。

「2〜3分程前だったかな。
佐伯はね、大橋教授が居なくなってからは、あの部屋を勝手に使っているのよ。いやな感じでしょう。」

と、言われたが、どの部屋を使っていても僕には関係が無い。
でも、ここは大人の対応
「そうですね、嫌な感じです。自分の部屋でも無いのに。
僕もそう思います。」
と、広田さんの気持ちを考えて、応えておいた。
「刑事は何人来てますか?」と、裕美さんが訊ねた。
「二人です。若い男と中年の男です。」

「そうですか。二人ですね。その教授の部屋に案内して頂きたいのですが?」
と、裕美さんは、先約の二人の刑事がいるのにも関わらず、その部屋の案内を広田さんにお願いをした。

広田さんは、快く了解してくれ、案内してくれた。

裕美さんは、部屋に入る事を了解も求める事も無く、部屋のドアを開けた。

急にドアが開いたので、刑事達は少し驚いている感じであった。

刑事達を見ると、一人は髭面刑事の竹中で、
もう一人は、田中だった。
田中とは高校の時の二つ下の後輩で、刑事になってからも付き合いはある。

「今、私達が佐伯君と話しているのだが、何の用事かね」
と、髭面刑事が不機嫌に言った。

「こちらも、佐伯さんに用事があって来ました。」
と、いつも裕美さんとは違う凛々しい声であり、堂々とした態度である。(警察よりも先に事件を解決するぞ!)と、言う思いが私に伝わってくる。

「こちらが、先に要件を聞いているのだ!遠慮したまえ!」
と、キツい言い方であるが、当然の言葉でもある。
だが此の様な言い方をされると、僕は反射的に反発してしまう。

「佐伯さんは、事件の被疑者か何かですか?
僕たちに聞かれては不味い事でも話しているのですか?」
と、言ってみたが、無茶な事を言っている様な気もした。

髭面刑事の竹中は、僕達を睨みつけ言った。
「こちらが、先客だ遠慮するのが当然だろう」
と、そのように威張る言い方に、またもや僕は反発した。

「では、遠慮して此処で貴方達の話を、お聞きします」
と、嫌味に言ってやった。

「出て行ってくれと言っているのだ!」
と、更に竹中は怒る様に言ったが、怯む私では無い。
「聞かれては、困る事なのですか?」
と、威張る刑事を困らせた。

「事件の捜査をしているのだ!聞かれて困る。」
と、竹中刑事は少し声のトーンが下がった。

「佐伯さん!事件の捜査と言ってますが、私に聞かれては困る事ですか?」
と、僕は佐伯に訊ねた。

佐伯が「人に聞かれて困る」とは言え無いだろうと云う、
僕の読みだ。

「別に困る事など無いよ」
と、佐伯は無愛想に応えてくれた。僕の読み筋通りである。

「刑事さん、私も佐伯さんに聞きたい事があって来ました。
佐伯さんに刑事さんが聞いた事をもう一度聞くのは、佐伯さんにも手間を取らせてしまいます。一緒に聞きましょうよ。」
と、僕は提案しながら、おもむろにソファーに腰を下ろした。

「そんな事はできん!こちらは佐伯君に同行を求めているんだから!」

「それは、任意ですか?」と、即座に僕は聞いた。
「任意だ!」と、不機嫌な言葉が返ってきた。

「佐伯さんは、任意同行するのですか?」と少し大きな声で呼びかける様に僕が言うと

「同行などしない!」と、強い感情を込めた言葉が返ってきた。

佐伯は、教授の椅子にどっかりと座り、落ち着いた余裕の笑みを浮かべている。
刑事二人は立ったままである。

僕は、ソファーに座っていたのだが、
いつの間にか、裕美さんと広田さんも座っていた。









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