見出し画像

(続)三つ子の魂百までも 8


8

事務所に着くと、裕美さんだけが居た。
裕美さんは、報告書を書いているみたいだ。
静かに机に向かう姿に、真剣さが伺える。
「触らぬ神に祟りなし」と言う諺がある。
裕美さんには近づくのは避けよう。
僕は、事務所にある古新聞を静かに探した。

きょうは、12日である。
確か、新聞に出たのは4日と言っていた。

古い新聞は普通捨ててしまうが、4日の新聞は運良く残っていた。

その記事が報じていたのを要約すると、
[大学教授・大橋雅男が自分の研究仲間でもある助教授の
新美浩市をゴルフクラブで殴り殺害した。]

と言うものであった。
ただ、真相はまだ判らず詳しくは書いては無かった。

私が、新聞を調べているときに、背後から近づいて来る人影。
裕美さんの顔が、私の耳の横にあった。

「何?調べてるのよ!」
と、耳元で大きな声をあげるから、僕の鼓動が早まった。
「びっくりするでしょ‼️」と少し強めに言葉を発したが、
裕美さんは、素知らぬ顔で、新聞を僕の手から奪っていった。

「此の事件ね。この前この街で起こった事件でしょ。
新聞より、週刊誌に詳しくでてるわよ。見る?
それに、ネットで調べてみれば良いよ。」

と言いながら、裕美さんは週刊誌を僕に渡してくれた。
「何でこんな事件、気になるの?その大橋と言う人、
ただの頭のイカれた人でしょう。」
と、裕美さんは事件の事を知っているみたいだ。

週刊誌を見ると、女性のヌード写真にどうしても目がいく。
先ずはそこを見てから、記事を探した。

その記事の内容を要約すると
[今月2日午前10時過ぎに、大橋が新美さんをゴルフクラブで殴打し殺害。
新美さんは頭蓋骨を骨折し損傷は脳にも及び、ほぼ即死状態。
大橋は某大学の教授であり、先日大橋の研究成果の報告を
某ホテルにて開催したばかりであった。
殺された新美さんは、その大橋の部下で将来を嘱望されている優秀な科学者であり、大橋との間で何があったのかは、未だに不明である。大橋の証言に
『新美の妹は化け物であり、それを目掛けて、
ゴルフクラブで殴ったのだが、その場所に新美がいた』
と、曖昧な供述を繰り返すだけであった。
なお、新美さんの妹は現在行方が判っていない]

もう一冊の週刊誌には、辛辣な言葉が並んでいた。
要約すると
[大橋教授は、以前から評判が悪く、研究員とのトラブルが絶えなかった。
新美助教授も大橋教授に利用され新美さんとのトラブルが
絶えない、とある関係者が話してくれた。
また、女性関係にもだらしなく、新美さんの妹にまで手を出していたのではないかと、
新美さんの妹は誰ものの目を引く美人で、大橋が新美さんに圧力を
掛けていたのではと、噂されている。
大橋は新美さんの妹は化け物と表現しているが、美人と噂の高い妹を、
蔑む発言に人格の低さを、感じざるを得ない。
新美さんが殺害された時に側にいたのは、新美さんの妹だけなので
事件の真相を知っているのは妹さんだけである。何故行方をくらましたのかは
謎である。早く見つかって欲しいものだ。]

と、記事には書いてあった。
「可笑しいな話ですね。大橋教授は、新美を殺したのか?の動機が
書いて無いです。トラブルがあったとありますが、新美が大橋を恨むのは判りますが、大橋が新美を殺すほどの動機が無い。」
と、誰に言うのでも無く、僕は独り言の様に呟いた。

僕の探偵心に更に火がついた。此の事件、私が解明する。
コナンファンの名に掛けて! と僕は心で誓っていた。

「何で、こんな事件に関心があるの?それより、今日何処に行っていたの?お姉ちゃん、探していたわよ。叔父さん怒っていたし。
『公は朝から何処で油売っているんだ』って怖い顔してたよ。」

と、裕美さんは、心配そうに言ってはいるが、顔は笑いを含んでいる。

「気になる事があって、警察署に行ってきたんです。」
と、僕は憤然とした気持ちで言ったが、顔は恐怖に慄いていた。
直美さんは優しい人で、さほど怖くは無いが、伊東さんは怖い。

「何で、そんな所に行ったのよ?もしかすると、刑事さんにあってきたの?
で、どうだった。何か判った事あった?」

と、いつもの様に裕美さんは、興味を示してきた。

「判った事は、あの部屋の借主は、此の殺された新美さんでした。」

「新美って、此の週刊誌に出てる人?」
裕美さんは、驚きながら週刊誌を手に取り記事を見ている。

「矢部さんの失踪に新美さんが絡んでいる事は、間違い無いです。
これは、殺人事件です。謎が謎呼ぶ殺人事件です。」
と、興奮を抑えきれない僕の言葉である。

「で、こーちゃんと、この殺人事件が、どの様に関係あるの?」
と、冷めた言い方だ。

「だって、これ、道子さんの失踪に・・・関係しているのでは
無いかな?」
と、だんだんと言葉が弱弱しくなっていった。

「道子さんの捜索は、こーちゃんの非番の時の仕事でしょ。
ボランティアなのだから、仕事の日はしちゃダメでしょ。
お姉ちゃん聞いたら怒るわよ。お姉ちゃん怒ると怖いよ。
叔父さんより、ずーっと怖いよ。」
と、僕を脅迫する様に裕美は言った。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?