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三つ子の魂百までも(20)


20

遂に運命の日がきた。僕は自動車の免許は持ってはいるが、
あまり自動車の運転は、得意ではない。マイカーも持ってはいない。
遠くへ行く時は電車を使うのでマイカーは必要がない。
だが、実家は交通の便が悪く、電車で行くよりも、自動車の方が便利である。

僕は加藤修君と待ち合わせ、加藤修君の運転で実家を目指した。
加藤修君は仕事がら、自動車に乗る機会は多いと言っている。

加藤修君は研究室に篭って新薬の開発をしてはいるのだが、
外に出る機会も多く、その時は自動車を使うとの事だ。

「僕の両親、加藤君を観たらビックリするだろうな。
どの様な反応するだろうか?」

「僕は養子だけど、戸籍には実際の両親の名前は書いて無かったんだ。
何故 両親は、僕に養子と伝えたのだろうか?
その事が僕には理解出来ないのです。」

「隠している事が辛かったのかも知れないですね。
もしかすると、今日、私達の秘密も判るかも知れないですね。
チョット恐怖を感じているだけど。ドキドキするな。
親がどんな話をするか、どうか解らないけど。ドキドキだよね。」

と、僕は素直な気持ちを、加藤修君に告げた。

加藤修君は運転しているので、僕の方を見なかったが、
首を縦に動かし、同意の気持ちを表してくれた。

都会の街並みから離れ、田園風景に変わって行った。

僕の実家はビルが立ち並ぶ街の中では無く、静かな田園の広がる
のどかな場所にある。

僕達の乗った自動車が、実家に近づいて行った。
近づいてくるたびに、僕の胸の鼓動が、早く大きくなる様に感じる。
大学時代、柔道の試合では、たびたびあったが、最近では珍しい。

父親の職業は、自動車のセールスマンである。
現在は、営業所の店長で、責任の重い役職に就いてはいるが、
見た目は、偉そうには見えない。
だが、真面目人間で、冗談も言う事も無く、誠実な人柄が、
自動車のセールスマンに向いているみたいで、多くのお客さまに
信頼されている。

母親は、主婦ではあるが、近くのスーパーでパートで働いている。
母親は、父とは違い雄弁で冗談も上手く、ボケ、ツッコミも素人とは思えないぐらい上手く、一緒にいて、飽きさせる事も無い
楽しい女性である。

そろそろ、実家に近づいて来た。
あの、薬屋の角を左に曲がれば、見えてくる。
実家に帰るのは久し振りで、少し懐かしい気がするが、これほど
緊張を感じての帰省は、初めての経験である。

昼食を用意すると母は言っていたので、朝飯は食べず
に来た。
おかげで、お腹だけは緊張感が無い。

時刻は、11:48 いざ、決戦。
自動車を自宅の隣の路上に停めた。都会と違って交通量が少なく、
どこに停めても駐車違反にはならないのが、田舎の良いところだ。

玄関の前で深呼吸を3回して、元気良く扉を開けた。
加藤修君は僕の後ろに隠れる様にひっそりとしている。
彼も緊張しているのであろうか?

「帰りました。お母さんいるの?」
と大きな声で呼んだ。
しばらくすると、母がエプロン姿で出てきた。

「お帰りなさい。」
と言いながら、僕の顔をチョット見ただけで、連れて来た人を探している。母は訝しげに
「お連れさんは、どこにいらっしゃるの?」

両親は、僕が会わせたい人がいると言っていたので、恋人を連れて来ると思っていたみたいだ。

加藤修君は僕の背後から、音も立てずにス〜と、僕の横に並んだ。

驚いたのは、お母さんだった。完全に焦り浮ついた声で

「ドッペル……………。え〜と何だっけ?」
とうる覚えの言葉を口にしたが、正確に言えない。
「そう、ドッペル将軍!」と言って僕達の方にゆびを指してきた。

(ドッペル将軍って何?)と、ツッコミを入れたかったが、
急に言われてもこちらも言葉が出ない。

「お父さん、お父さん、早く来て!」
と今度は、お父さんの連呼。

父は何事が起こったのか分からず、慌ててやって来て
僕達を見て、
「ドッペルゲンガーか?」
と正確な発音で言ったが、顔は少しひきつっている。



少し間があき、二人は落ち着きを取り戻したかの様に見えた。

「紹介します。僕の友達の加藤修君です。今日は、お父さんとお母さんに聞きたい事があって、加藤君を連れて来たんだけど。」

と両親に告げたが、二人はまだ動揺している。

「こんなところでは、話も出来ないので、上がって下さい」
と父が言った。
だが、言葉は動揺を隠せない。

案内されたのは、客間であった。
















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