ある「ギフテッド」当事者の半生(7) どうしてこうなった

よし、行く国は決まった。
…でも、どうすればいいんだろう?
どこの大学に?なんの試験を受ければ良い?ビザはどうするの?

当時の自分はわからないことだらけだった。
そりゃそうだ。異国の地から異国の地へと留学を続けるのだから。
 結論から話すと、学校で色々と調べてくれた。Aレベル試験、Oレベル試験、IELTSなど…4回ほど試験を突破しないと、イギリスの国立大学には行けないようだった。

まず初めに、IELTS(アイエルツ、英国英語の資格)を取ることにした。地元(ブリスベンのシティーでも試験会場があった)で受けられるし、英国以外でも通用する資格だからだ。しかも学校経由で申し込みが出来るとのことで、直近の試験を受けることにした。
IELTSには3段階の試験がある。ペーパーテスト、インタビューテスト、何人かで集まって自分の紹介のようなことをするテスト…最後の試験では、日本人の人と一緒になった。が、彼女の話す英語と自分が話す英語は全然違う。具体的に何が違うのかと言うと、イントネーションである。
 試験終了後、彼女に「すみません、日本の方ですよね?」と声をかけた。ただ話を聞くと、どうも日本語が辿々しい。「実は両親とも日系人一世で、家では日本語を話すんだけど、今はカナダから来てるんです」
驚いた。そりゃ北アメリカとオーストラリアじゃ全然違うし、何よりそんなネイティブの人とやり合ってたのか…と愕然とする。それと同時に、自分の英語力が劣っているんじゃないかと不安にもなった。

どれくらい待っただろうか、結果が郵送されてきた。
内心怯えながら早速封を切る。結果は、想像を遥かに越えたものだった。
 Score 8.5…満点に近い出来。せいぜい7.5程度を予想していたので想定を遥かに越えていた。実は何かの間違いかと思って、周りの先生(当然ネイティブ)の人に聞いたのだが「あなたのレベルなら、8.5でも適切だわ」とのこと。
よかったと安堵…はできない。他にも合格しなければいけない試験がたくさん残されている。

そんな折、ある出会いがあった。
「オールドマム」が『今イギリスから講師が来てるんだけど、会ってみない?』とのこと。もちろん、その場で「もちろん会いたいです」と即答した。

そして翌日。モーニングティータイム(1時間目と2時間目の間にある休憩時間)に背の高い、50代くらいの男性がやってきた。
「Mr.Keith!」
『はい、私です』
「ジョン・ロバーツ。貴方のことはミセスジョンストン(オールドマムのこと)から聞いているよ。よろしく」
『こちらこそお会いできたことを光栄に思います、ドクターロバーツ』
「今は時間がないから、授業が終わったらあっちの棟に来てくれないか」
『わかりました』

初めて会う本国人(ブリテン人)に半分驚いたが、それと同時に英国人らしからぬフランクさに驚いた。
そして授業が終わり、私は指定された棟へ向かう。友人にチップスを食いに行かないか、と誘われたが断った。

『ドクターロバーツはいませんか?』
受付の人は何やら電話をしている。どうやら携帯電話で呼び出しているようだ。
(ちなみに、学校の敷地内移動には車が必要なくらい広い学校である)

どれくらい待っただろうか。5分程度であっても、自分にとってはそれが30分にも1時間にも感じた。
 そして、先ほどの紳士がやってきた。
実を言うと、その時の詳しいことは記憶していない。かなり緊張していたから、彼の専門分野を聞くのを忘れてしまっていたほどだ。
ただ、なぜ医学科を目指すのかと聞かれ、それについて熱心に答えた記憶がある。

ドクターロバーツが言うには、GCSE試験(O-Level試験)の成績やIELTSのスコアからして、自分にとって医学科に進むのはそこまで難しくはないと言うこと、Advanced-Level試験で生物学で好成績を収めること、ロンドンに来たら私の所へ最初へ来るように、と住所と最寄りの駅を教えてくれた。
あとライセンス(運転免許)を取るように、とも言われた。

家に帰ると、すでに夜のニュースが始まる時間だった。
ボブさんが「今日は遅かったじゃないか」と聞くので、『イングランドから来たドクターに会って話をしていた』と答えた。それから、運転免許証を取得するのにどうすれば良いか、費用はどれくらいかかるか。日本は18歳以上じゃないとライセンスが取れないが、オーストラリアはどうなのか。色々尋ねた。

話によると、オーストラリアのドライバーライセンスは16歳から取得可能で、費用も大変安価(当時のレートで3万円弱)なことや、教習所というよりは試験官を乗せて試験を受けて合格することが必要だと教えてくれた。さらにありがたいことに、自分の車(日産・マーチとトヨタ・ハイラックス)を練習用に貸してもいいとまで言ってくれた。「壊れたら修理代払ってもらうからな」と彼は笑う。
話によると、ルークもそれでライセンスを取得したそうだ。

次は運転免許か…学校の試験とは違うから一筋縄で行くかな、と考えながら、その日は寝ることにした。
 ルークは、アルバイトで今夜は遅いみたいだ。

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