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scene01 海のおくりもの"やだのり"が生まれるとき
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scene01 海のおくりもの"やだのり"が生まれるとき

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 19時30分の箕田(みだ)駅待ち合わせに間に合うよう、名古屋駅から近鉄電車に飛び乗った。四日市駅で各駅停車に乗り換えて約10分、海山道(みやまど)やら塩浜やら一気に海にやってきた感じの駅名にワクワクしながら箕田駅へ。降り立つと、矢田さんが車で迎えにきてくれていた。

半漁・半農の家に生まれ、漁師の父、漁師の弟を持つ岐阜在住のアーティスト矢田勝美さん。2018年の年末に、岐阜でアンノンティーハウスという紅茶屋を営む弟の紹介で出会い、そのご縁で実家の”やだのり”の海苔漁を取材する機会をいただいた。数年前から矢田さんの映像作品の撮影と制作を手掛けるクリエイターの戸高翼さんの映像撮影に便乗させてもらう形で実現できた幸運に感謝だ。取材は私が行うのではなく、コピーライターである旦那さん、いとうともひろさんが取材をする。

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矢田さんの実家で、伊勢若松の穴子寿司の名店「魚長」の穴子太巻寿司と赤味噌のお味噌汁をごちそうになり、腹ごしらえ完了。仏間のとなりの和室でご先祖様に見守られながら。

矢田さんが小学生の時に書いた『うめ』というなんとも伸びやかな書が飾られている。元気で伸び伸びとした小学生の矢田さんが話しかけてくるような文字。美術大学に進学し、アーティストになった矢田さんだが、当時は周りから書の道に進むと思われていたそう。現在アーティストとして、こころを震わせる表現を枠にとらわれない形で行っている矢田さんの原点を垣間見ることができて嬉しかった。

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2020年夏に鳥羽市の海の博物館で開催された矢田さんの個展「船霊といのり」より

真夜中の2時に起きて海苔漁に出るため、実家の向かいにある海苔工場(こうば)の2階で寝袋で仮眠をする。ワクワクするが、ここはしっかり寝ておかねば。

2時に起床。下に降りていくと、漁師の衣装に着替えて準備を整えている矢田さんの弟さんとご友人の漁師さん、漁師の見習いのような翼さんがいた。軽トラックに必要なものを積み込み、乗り込み、いざ鈴鹿漁港へ。真っ暗だけど、意外と寒さは控えめだ。漁師三人は船に乗り込み海苔漁へ向かった。


船を見送り、私たち丘の取材チームは真夜中のファミレスへと繰り出した。矢田さんが、実は実家や三重県とは縁が薄いという話、だから”やだのり”をブランディングして自ら販売することで縁を繋いでいるという話、10年前に出版された『いのちをつなぐ海のものがたり』という本を書いたときの話などなど、たくさんの話を聞くことができた。

漁に出ている間の待ち時間に真夜中のジョイフルに三度も通い、ここで話したことが私がこのストーリーを書くきっかけにもなった。『表現者として生きる』という矢田さんの一言に魂を揺さぶられた。

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『いのちをつなぐ海のものがたり』は、出版から10年のときを経て、2022年の春から高校一年生の国語の教科書に掲載される。"海で働く人たちが永遠ではないかもしれない・・・・。" 何かに突き動かされて書いた、書かされる感覚で書いたと話してくれた矢田さん。衝動により行動したことは、いつか必ずその答え合わせをするときがやってくる、とも話してくれた。ひとりでも多くの人たちにこの本を読んでもらい、海のこと、漁師の話を知ってもらうきっかけになればと切に願う。


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鈴鹿漁港に戻ると、漁から帰ってきた漁師たちが、箱いっぱいの生海苔を船から持ち上げて、順に軽トラックに積み込む。海から採ったばかりの新鮮な生海苔を海苔工場へ運び、プールのような丸い水槽に流し入れていく。プールはくるくるとかき混ぜられていて、絡まった海苔をほどいてゆく。海苔は次の工程へと自動で進み、不純物を取り除いたあとは細かくカットされて、大きな海苔の製造の機械で、真四角の板海苔の形に並べられていく。

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まさか海苔の収穫からできあがりまでの工程をすべて自宅で行うとは、想像すらしていなかった。しかも収穫した半日後には海苔をストーブで焼いて食べられる状態になるとは思ってもみなかった。真四角に並べられた生海苔は、きれいに6列に整列して流れていき、後半の乾燥の工程でカラカラに乾かされて、すっかり薄い板海苔の姿になって流れ出てくるのだ。

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できたての海苔をストーブで炙っていただくのは最高の贅沢。数時間前まで海の中にいた海苔を、数時間後に炙っていただくというのは不思議な感覚でもあり、ありがたさの極みでもある。黒から緑になるまで炙った海苔を豪快にバリバリとかじりながらいただく。

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先代が次から次へと海苔を炙って、できたてのおいしい"やだのり"を食べさせてくれた。

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"炙って緑色に変わるのがいい海苔の証”"海苔は表から炙る"など、先代から教わった"海苔の教え"。海と山の恵みに感謝して、海苔をありがたくいただき続けたい。海苔を食べる度に思い出すであろう今日の日の記憶。鈴鹿漁港の朝日と輝く海の光景とともに。真冬の真夜中の寒い海で漁をして、たくさんの工程を経てできあがる海苔。"やだのり"誕生の瞬間に立ち会えた幸福に感謝して、日々の食卓でいただこう。


絵と字 アーティスト 矢田勝美さん
http://www.yadakatsumi.com/

戸高 翼さん(つばさ商店)
https://lit.link/dhw283

コピーライター いとうともひろさん
https://www.tomohiroito.com/


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奥三河 / 岐阜 / 名古屋  春はお茶を摘み、夏はブルーベリーを摘み、 大自然の中でリトリートする。 外資系クリエイティブ人材エージェンシー所属。 Instagram → https://www.instagram.com/yaeyamabuki_mayumi/