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年末年始は「愛の不時着」

年末年始休暇を利用して、韓国ドラマ「愛の不時着」全話を鑑賞。外出自粛でさしたる用事もなく、視聴に費やす時間がたっぷりあった。この作品は韓国のテレビで2019〜2020年にかけて放送された番組を、NETFLIXが限定配信した作品(全16回)で、世界中の女性を虜にしたラブロマンス。
 韓国の財閥令嬢で実業家でもあるユン・セリは、パラグライダー飛行中に、突然の竜巻に巻き込まれてしまう。辿り着いた先は、軍事境界線を越えた北朝鮮の非武装地帯の森林だった。そこで北朝鮮軍の中隊長であるリ・ジョンヒョクと出会う。ジョンヒョクはセリを自宅に匿い、帰国させる計画を企てるも次々と失敗。その間に互いに恋愛感情を抱くようになる。しかしジョンヒョクには、婚約者ソン・ダンがいた。セリに戻られると困る兄弟たち。実は北朝鮮有力政治家の息子であったジョンヒョク。セリとジョンヒョクの関係を利用しようとする、様々な政治的陰謀が二人に迫る。
 これは韓国から北朝鮮に送った壮大なラブレターだ。物語の舞台は、前半が北朝鮮。後半が韓国。北朝鮮ではセリが、停電の頻発や物資の貧しさに呆れるシーンの連続。しかし周囲に馴染むに連れ、現地での素朴な生活や人情に魅せられてゆく。実際の撮影地はモンゴルだそうだが、その田舎の風景や人々が何とも味わい深い。ジョンヒョクの製麺する手作り冷麺、庭でバーベキューする貝プルコギなどは見ているだけで美味しそう。一方で北朝鮮軍部での勢力抗争や暗殺の横行など、独裁政治のもたらす社会の歪みも遠慮会釈なく描き上げている。後半のソウルでは帰国したセリが富に囲まれていても、金と権力にしか関心がない家族や人間関係に絶望する姿は、物欲にまみれた韓国社会を痛烈に批判する。そこは北朝鮮で暮らした人の絆とは対照的だ。そしてセリを北朝鮮の暗殺者から守るために潜入した、中隊メンバーがソウルで繰り広げる珍道中。洗面所でお湯が出たり、サウナでのオンライン決済に戸惑う姿などは抱腹絶倒。朝鮮半島の青い大きな空の下での人は皆、韓国も北朝鮮も軍事境界線もないじゃないかというメッセージ。
 俳優陣も素晴らしかった。主演の二人は韓国大物俳優。ジョンヒョクを演じるヒョンビンは寡黙が素敵。愛を知ってからのセリ役ソン・イェジンは、開き始めた花のよう。報われないダンは美しく凛々しく、それでいて弱さが痛々しい。詐欺師ク・スンジュンのキム・ジュンヘンと、「耳野郎」と蔑まれる職種の諜報機関に勤めるチョン・マンボク役のキム・ヨンミン。二人とも、最後で人としての誠を通す。全ての悪事悪役を一手に引き受けた、憎々しい残虐なチョ・チョルガン少佐を演じたオ・マンソク。チームワーク抜群の剽軽で愛らしい4人の中隊員を演じたメンバー。アクが強いが情の深い舎宅村の4人のマダムたち。それぞれのメンバーを繋ぐ、小さな、それでいてかけがえのない小ネタがあちこちに宝石箱のように仕込まれている。日本にはあり得ないない、エネルギーと時間を費やせる韓国エンタメ界。日本のように飽きっぽい国民性でない、熱狂的に支持する韓国視聴者。そのいずれにも脱帽リスペクト。

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