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天沢退二郎先生の忘れ形見「アマタイ句帳」

2月25 テレビ体操、通算4,850日目。天沢退二郎「アマタイ句帳」(思潮社)。

https://www.amazon.co.jp/dp/4783745021/

 天沢退二郎先生のご自宅にご焼香に伺った際に、奥さまから頂いた句集。「買いますから」と固辞したが「もう品切れで買えないから」と言われて、受け取った。1998年から約20年間、親しい同人と編んでいた「蜻蛉句帳」に掲載されていた千首以上の俳句が、時系列で列挙されている。別冊子になった解説には高橋睦郎、関悦史、吉増剛造の三人が寄稿している。そのいずれもが評しているのが、俳句という表現手法を取りながら、幼児にも例えられるほどの自由奔放な創作であること。ある意味で、五七五も、季語も天沢退二郎先生にとっては、もはやどうでもいいことだったのかもしれない。

 私の読んだ感想は、一つは『仕事熱心な方だったのだなあ』という印象。ところどころで『註』ということばが頻出する。おそらくこれは『宮沢賢治校本全集』の編纂における註記の多さに対する苦衷であったのではなかろうか。そして一つのテーマにおける連作。茄子なら茄子、彼岸花なら彼岸花、空豆なら空豆の句がずっと続く。KJ法で言うところの「連想」や「他人の意見への相乗り」を想起させる発想法。またあちこちに示される夫人や飼い猫への愛情。その気持ちが句作へのモチベーションの一つとなっていたことが窺える。そのことは奥さまにも伝わっていて、「後記」に感謝のことばが記されている。

 私が最も気に入った句を三つ挙げておこう。いずれも天沢退二郎先生が物語や世界に遊ぶ童心を表現している気がする。

1️⃣蝉しぐれ 降りしきりたる 青銀河

2️⃣作中の 子らと迷ひて はや春暁

3️⃣冬木立 透かせば鬼どもの行列

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