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大好きな居酒屋のオードブルを頼んでみた

今年の年末、人生で初めてチャレンジしたことがある。大好きな居酒屋が年末期間だけ予約販売するオードブルを注文してみたのだ。

札幌市・新琴似にある「らいむ」は、酒呑みの舌への理解が深すぎる、市内でも三本の指に入る(※当社比)“美味い”居酒屋だ。肉、魚、旬の野菜、どれを扱っても素材が活きる。店長が試行錯誤を繰り返して編み出すというオリジナルメニューの数々は、胃袋が許す限り全種類コンプリートしたくなるくらい魅力的だ。

ちなみにInstagramに投稿されているほとんどは、デザートを頼むときにリクエストすると店長が対応してくれるお絵描きプレート。そう、「らいむ」の店長は料理の腕だけでなく絵心もある。サービス精神の塊で、お客さんの顔を覚えてくれているのも嬉しい(久々に顔を出しても、前回話した話題を振ってくれたりする)。

そんな大好きな「らいむ」の年末オードブルの存在は、前々から友人の話を聞いて知っていた。めちゃくちゃおいしくて贅沢な気持ちになれる、年末を彩るのにふさわしいおつまみがぎゅっと二段の箱に詰められているという。友人は毎年このオードブルを頼んで、家族とお酒を楽しむのだそうだ。

「私も食べてみたい!」と思いつつも、当時の私は年末年始をひとりで過ごしていたので、泣く泣く見送った。おいしい料理は新鮮なうちに食べきりたいし、こんなに豪華でおいしいものをひとりで食べても感動を伝えられる人がいないじゃないか……と、珍しくひとりであることを悔やんだのを覚えている。

そして今年、一緒に年末を過ごしてくれる人ができたので、念願の年末オードブルを予約することに。予約の電話ではテンションが高まりすぎて声が上ずってしまった。

そしてオードブルを受け取る当日、いつもは酒を呑むために電車で行く居酒屋に車で行くという時点で、すでに特別な気持ちになってワクワクした。手に取った瞬間、ずしりと両腕に重みを感じる。まだ開けていないのに何かしらのおいしい匂いが漂ってくる。いつもの数倍慎重な運転で帰宅した。

箱を開けたときの私と言ったら、もう、クリスマスプレゼントをもらった小学生みたいな顔をしていたと思う。全体を見たときの感動がすごかった。食べる前から笑顔になれた。

パッと見て「これは特別な日しか食べられないやつ」とすぐ認識できるメニューを挙げると、ローストビーフ、いくら、あわび、牡蠣、大きいえび。そして私が大好きなたちぽん、梅水晶、燻製ポテトサラダの存在も視認した。

もう我慢できない、と日本酒を運んでくる。今日は1杯目から日本酒にしよう。ふだん外で呑むときは、周りも見つつ「とりあえずビール」に倣うのだが、今日は家だからそんなこと考えなくていい。このメニューを前に「とりあえず」なんてない、即日本酒だ。

あわただしく「いただきます」と「乾杯」を済ませたくせに、いざ始めると何から食べようか、と箸を迷わせてしまった。たくさんの好物が一気に目の前に並ぶというだけで、すさまじい幸福感に包まれてしまう。オードブルってすごい。

王道のローストビーフを口に運んで、やっぱり「らいむ」の料理は美味い……と顔面が溶けた。「どこのを食べてもおいしいだろう」というメニューでも、「らいむ」のは違うんだ。全然違う。

例えばローストビーフや合鴨ローストなどの肉系だったら、しっとりしていて肉の旨味がぎゅっと詰まっている。生ハムや葉ワサビの醤油漬けは、酒がもっとも進む味に調整されていて、ちょっとずつ口に入れてはお酒で流しこんで幸福を確認する最高のPDCAを回し続けられる。

そして味の濃いおつまみが続くことを想定して入れられたであろう、さっぱりとした梅水晶や花蓮根が憎い。彼らがいることで、胃袋がもたつくことなくすいすいと呑み続けられる。そしていぶりがっこマスカルポーネとクリームチーズの味噌漬けも、「酒を呑む人間が好きなチーズ」をブルで当ててくる素晴らしく奥行のある味わいだった。

「ちょっとずつ食べて、2食分くらいに分けてのんびりお酒を呑もう」と言いながら宴を始めたのだが、結局その晩のうちに完食した。食べすぎだし呑みすぎだが、なんせ家なんだからそのまま眠れる。明日も休みだ。今日くらい贅沢の限りを許せ……!

年末年始、やはりおいしいものを食べたい。一方で、準備するのは面倒くさい。だからオードブルを頼んじゃおう、という今年のチャレンジは大正解だった。北海道ではよく年末からカニをたらふく食べたりするのだが、それだと一品だけに集中投資することになるので、いろんな味を少しずつ食べたい私にとっては、オードブルのほうが適していた。先ほどもメニューの一部を紹介したが、たちぽん、あわび、えび、ローストビーフ、合鴨といった面々が一同に集まってくるのがすごい贅沢だと思っている。一品ごとの量はそこまで多くなくても、幸福感が割り増しになる。

年末年始の過ごし方には、きっとそれぞれの『幸福の型』のようなものが反映されると思う。家族と過ごすのが幸せならば毎年みんなで集まるだろうし、毎年恒例のカニ鍋をするとか、そのときテレビで流す番組は何にするとか、ある程度食べ終わったらゲームをするとか、なんとなく「そう過ごすのがいい」という最適解を、共に過ごす人同士で見出していくような気がする。

私はここ数年で両親といろいろあったり離婚したりと色々なことが重なったし、これまで家族と過ごしてきた年末年始が自分にとって幸せかというとそうでもなかったので、『幸福の型』はいったん白紙になっていた。

今年初めて「らいむ」のオードブルを頼んで、気を遣わずに楽しく時間を過ごせる人と呑みかわして、その白紙にひとつの答えを見つけられたな、と思う。来年も「らいむ」のオードブルを頼んでこの人と宴を開催したいなあ、と思えたからだ。

これからも年末年始が楽しみになるような、私らしい『幸福の型』を見つけていきたいな、と思う。

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