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低炭水化物vs.中炭水化物vs.高炭水化物:肥満アメリカ人を対象にした研究

低炭水化物ダイエット(糖質制限)の現状

 これまで、低炭水化物ダイエット(糖質制限)の功罪について、多くの論文が出ているようです。しかし、炭水化物の制限の程度は、まちまちで一定しておらず、解釈が難しい現状があります。つまり、炭水化物をどの程度に制限すると有効かつ安全なのか、あるいは有効でないのか、安全でないのか、についてわかっていないことが多いのだと思われます。

 低炭水化物食ダイエットの実施において懸念されるのは、炭水化物のかわりに脂質の摂取を増やさざるをえないことです。特に、動物性食品に多く含まれる飽和脂肪酸(植物性食品にもある程度含まれます)の摂取が多いほど、血中LDLコレステロール(悪玉コレステロール)は増加し、結果として心血管疾患のリスクが高まる可能性が指摘されています。

 そのような中、肥満アメリカ人を対象にした低炭水化物かつ高飽和脂肪酸の食事は、中程度および高炭水化物食に比較して、LDLコレステロールが高値となることなく、新しい心血管疾患のリスクマーカー(Lipoprotein insulin resistanceスコア/lipoprotein(a))を低下させるという論文がでていました。

 炭水化物の摂り方について考えるよい機会と考え、まだまだ論争が続きそうなこの分野の研究について勉強してみました。
 低炭水化物ダイエットに関する知見を深めたい方への参考になれば嬉しいです。

関連論文の紹介

 権威ある栄養学ジャーナルであるThe American journal of clinical nutritionの最新号に掲載されていた論文;

Effects of a low-carbohydrate diet on insulin-resistantdyslipoproteinemia — a randomized controlled feeding trial」 written by Ebbeling CB, et al. Am J Clin Nutr. 2022 Jan 11;115(1):154-162. doi: 10.1093/ajcn/nqab287
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34582545/

低炭水化物食がインスリン抵抗性脂質異常に及ぼす影響」を調べた研究です。

 研究に参加した対象者は1685 名の中から参加条件をクリアした164名(80%が白人、70%が女性、平均年齢35歳、平均BMI32 kg/m2、平均血圧および血清脂質の平均値は正常域)でした。

 研究対象者は、まず16週間の減量プログラムに参加し、体重を10~14%ほど減らした後、ランダムに次の3群に割り付けられました。
・低炭水化物群(カロリーあたり炭水化物20%、飽和脂肪酸20%)
・中炭水化物群(カロリーあたり炭水化物40%、飽和脂肪酸14%)
・高炭水化物群(カロリーあたり炭水化物60%、飽和脂肪酸7%)
※ちなみに、日本人の平均的な食事は、高炭水化物食群の栄養素バランスが最も近いです。

 そして、それぞれの食事を20週間続けてもらい、その前後で採血がなされ、心血管疾患のリスクマーカーとして従来から用いられているLDLコレステロールと、最近注目されつつあるLipoprotein insulin resistance スコアおよびlipoprotein(a)の各変化量が分析されました。

 つまり、低炭水化物群、中炭水化物群、高炭水化物群のいずれが、心血管疾患のリスクマーカーの改善に最も寄与するかという研究デザインです。

 その結果、驚いたことに、炭水化物の極端な制限かつ飽和脂肪酸がかなり高いといえる低炭水化物群だけにLipoprotein insulin resistance スコアおよびlipoprotein(a)の明らかな改善が認められました。なお、3群間でLDLコレステロールの変化には差を認めませんでした。

 ただし、研究の対象者は、比較的若い肥満者(白人主体)で、かつ血圧や血清脂質が正常域の方々が中心でしたので、高齢者や病気を持たれている方、あるいは人種の異なる私たちでは、必ずしも同じ効果にならないことに注意が必要です。
 さらに、中長期的にこのような食事を続けた場合、これら心血管マーカーがどのように変化するのか、あるいは本当に心血管疾患が減少するのかは不明です。

※この記事は、論文内容をかなり端折っていますので、興味のある方は本文にアクセスして確認されてくださいね。

感想

 不勉強なワタシは、この論文を通じて、初めてLipoprotein insulin resistance スコアという心血管疾患マーカーの存在を知りました。また、低炭水化物および高飽和脂肪酸に関する新しい情報が得られ、大変実りのある学習の機会となりました。

 改めて本論文を振り返りますと、肥満者においてカロリーあたり20%の低炭水化物の食事を続けることは、心血管疾患マーカーの低減に有用かもしれませんが、伝統的または現在の日本人の食事とかなり異なる内容になりますので、長期的に続けることが難しそうです(実際に、極端な低炭水化物食の維持率は低いという論文があります)。 

 最も重要なことは、肥満になってから炭水化物の量や割合を考えなくてもよいように、日々の食生活を大切にし、日頃から過食の頻度が多くならないよう配慮することで、適正な体格を維持することでしょう。
(一方、若い女性と、後期高齢者の方では、痩せすぎも問題になっていますので注意が必要です。)

さいごまでお読みいただきありがとうございました。
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