読売新聞の嘘のつき方(その3)

読売新聞の嘘のつき方(その3)
   自民党憲法改正草案を読む/番外385(情報の読み方)

 2020年09月01日の読売新聞(西部版14版)。1面「総括 安倍政権」の署名記事。きょうは編集委員・伊藤利行。見出しは、
<blockquote>
頻繁な選挙 政策足踏み
</blockquote>
 安倍が頻繁に国会を解散し、そのために政策の実行が遅れた、と批判しているように見える。しかし、具体的な指摘ではない。
 こう書いている。
<blockquote>
惜しまれるのは、自民党が2012年衆院選、13年参院選と連勝し、安倍氏は次の参院選まで国政選挙のない「黄金の3年」を過ごせたのに、14年の抜き打ち解散で自ら機会を潰したことだ。戦後2度だけの希少な時間を使えたなら、もっと成果を残せたのではないか。
</blockquote>
 これだけでは、この間の「政策の実行」が何だったのかがわからない。すぐに12年の衆院選、14年の衆院選に何がテーマであったかわかる読者がどれだけいるかわからない。安倍の「選挙乱発」をどう批判しているのかわからない。
 選挙には、いつも「争点」があるはずだ。「社会的背景」があるはずだ。
 私のおぼろげな記憶では、12年の衆院選は、野田が「消費税増税と社会保障改革」の実現のために、安倍に持ちかけたものだ。国会の党首討論で、突然、決まった。「14年に消費税を8%に、15年に10%に再増税する」という合意のもとでおこなわれた選挙だ。
 このときは、「消費税増税」問題よりも、東日本大震災のあとの進まない復興の方に国民の目が集中し、民主党への批判が高まり、自民党が圧勝した。
 伊藤は、このときの圧勝のまま政策実現に向けて活動すべきだった、と言っているのだろうが……。
 安倍はなぜ14年に「抜き打ち解散」をしたのか。12年の衆院選には圧勝したが、16年の参院選の予測はつかない。15年に10%増税すると、16年の参院選は敗北するかもしれない。それを回避するため、10%増税を先のばしにすると主張、その判断の適否を国民に問うという名目で14年年末に、抜き打ち解散をしたのだ。野党との合意(それは、国民との合意でもあるだろう)を無視して、選挙を実施した。「増税回避」に反対する国民は少ないから、もちろん自民党が圧勝した。
 野党との合意を無視し、政策を実行しなかった。「政策足踏み」ではなく、政策を反故にしたのだ。「参院選に負けた」と批判されたくないという理由だけで、「負け」の原因になりそうな消費税増税を延期するという方針を掲げて、衆院選をおこなったのだ。(参院選では、当然、それを引き継ぎ「消費税増税先送り」を「争点」として掲げ、圧勝した。ついでに言えば、その圧勝を受けて「自民党改憲案」が支持された、と言い放った。そして天皇を沈黙させる作戦がはじまるのだが、これは「天皇の悲鳴」で書いたことなので、ここでは触れない。)

 「頻繁な選挙」について触れるなら、もうひとつ、絶対に触れないといけない「解散」がある。17年の衆院選だ。
 何があったか。国会では加計学園問題が取り上げられていた。安倍が加計に便宜を図ったという疑惑だ。国会が閉会したあと、臨時国会を求めたが安倍は拒否した。(背景は違うが、今年の状況と非常によく似ている。)そして、定例の秋の臨時国会の冒頭、「北朝鮮の驚異が高まっている、国難だ」と叫んで、国会を解散した。「北朝鮮の驚異にどう立ち向かうか」、それを国民に問うというわけである。しかし、「加計問題隠し」が狙いだろう。
 安倍は、責任追及をさけるために選挙を利用しているのである。繰り返すが、14年の選挙も「16年の参院選で敗北したら、責任を追及される」と恐れてのものである。
 いまは、森友(財務省職員自殺)、加計、桜を見る会、河井議員1億5000万円問題など、安倍を追及する「材料」が山積している。臨時国会は、とうぜん開かない。秋の国会での追及をさけるために、安倍が辞任し、自民党総裁選びの方に国民の関心をそらせようとしている。
 安倍は病気を抱えているのは事実なのだろうが、病気のために辞任するというのなら、議員も辞めて治療に専念すべきだろう。治療のために辞任したのではなく、国会で安倍の責任を追及されることをさけるために辞任したのだ。
 安倍は、「評価されたい」というよりも、「批判されたくない」という気持ちの方が強いのだ。だからこそ、必死になって「民主党時代は悪夢だった」と批判する。他人を批判することで、安倍への批判を回避しようとする。「あんな人たちに負けるわけにはいかない」と安倍批判をする国民まで批判する。
 傑作なのは、2面に「『官邸主導』教訓継承を」という見出しで、次のように書いていることだ。
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 政治主導をめざし、内閣人事局を設け、中央省庁の幹部人事を官邸が差配すると、薬が効き過ぎ、官僚が官邸の意向を「忖度(そんたく)」し、行政の公正性や透明性を損なう事案も相次いだ。「桜を見る会」や森友学園問題での公文書の不適切な扱いは、行政全体への不信感を高めた痛恨事だ。
</blockquote>
 まるで官僚が忖度し公文書を廃棄した。悪いのは官僚であって、安倍は何も悪いことをしていない、という感じだ。「薬が効きすぎ」とは、いったいだれを批判するためのことばなのか。
 もし「官僚が悪いのであって、ぼくちゃん(安倍)は何もしていない」というのなら、ホテルニューオータニに残っているだろう「桜を見る会」に関する「契約書」「領収書」や「決算書」を提出するよう、ホテルに頼んで、安倍の潔癖を証明すればいいだろう。「森友学園」を巡る財務省職員自殺の問題も再調査すればいいだろう。

 安倍は「批判に耐えられない」「批判されるのが大嫌い」というだけの人間であることは、別の記事からもうかがえる。
 2面に「ドキュメント ポスト安倍」という記事がある。「首相 吹っ切れた表情」という見出し。その最後の部分。
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首相に、うれしい誤算があった。一部の報道機関が週末に実施した世論調査で、内閣支持率が約20ポイントも上昇し、5割を回復したことだ。
 「びっくりした。こんなことがあるんだね」
 首相は周辺にこう漏らしたという。31日夕、官邸を後にする首相の足取りは軽かった。
</blockquote>
 なんともはや。いま、安倍は批判されなくなって(病気が同情されて)、「うれしい」のだ。
 それを「よかったね、安倍ちゃん」という感じで伝える読売新聞に違和感を覚える。
 もう権力の監視役を、完全に放棄している。


#安倍を許さない #憲法改正 #読売新聞

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