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丘珠空港の滑走路延長(その4)1800mの制限表面

(その3)からの続き。

ここまで3回の「丘珠空港の滑走路延長」シリーズを振り返ると、

についてフォーカスしてきました。

今回の(その4)では、滑走路を延長すると制限表面がどう変わるのかについて考えてみます。現状の1500メートル滑走路における制限表面は、(その2)と(その3)に掲載してありますのでご参考に。

新たな制限表面

滑走路を300メートル延長して1800メートルにした場合、「進入表面」はどう変わるでしょう? 進入表面の長さ、幅、勾配は、計器用の場合は滑走路の長さにかかわらず同じなので、次のように移動することになります。滑走路を2000メートルに延長した場合も同じように、さらに移動するだけです。

▲ 進入表面の移動(滑走路長1,500m → 1,800m)

「丘珠空港の将来像(案)」の内容に沿って、滑走路長を北西側に200m、南東側に100m延長した場合の図です。新たな進入表面を赤線で記しました。

現在の進入区域(進入表面の投影)内にある特定の場所を考えると、進入表面の高さが4メートル(北西側)、または2メートル(南東側)低くなるので、高さ制限が厳しくなります。4メートルは約1階分の高さに相当しますから、現在ギリギリでクリアしている建物なら、進入表面を超えてしまうかもしれません。

また、現在は進入区域の外で高さ制限がない場所でも、新たに進入区域に入って高さ制限を受ける場所が生じます。逆に、ごく一部ですが制限が緩和される場所も存在します。進入区域から外れたり、進入表面(1/50勾配)ではなく転移表面(1/7勾配)の制限を受けることになって結果的にやや緩和される、といった場合などです。

1,800m滑走路の制限表面(現在の制限表面の図に加筆)

進入表面が両側(滑走路延長方向)に移動することにより、「転移表面」の面積が拡大します。この図では分かりにくいほどほんの僅かなので、その影響は気にしなくてよいでしょう。

一方、高さ制限の範囲が大幅に拡大されるのが「水平表面」です。滑走路長が1,300m以上1,700m未満なら水平表面の半径は2,000mですが、滑走路長が1,700m以上2,100m未満の場合は水平表面の半径が3,000mと定められています(防衛省訓令第105号「飛行場及び航空保安施設の設置及び管理の基準に関する訓令」の別表第1)。これは航空法の基準とは異なっているのですが、札幌飛行場(丘珠空港)は防衛省管理の飛行場ですからこの訓令が適用されます。

水平表面の高さ制限は45メートルのまま変わりませんが、図のように背の高い鉄塔や送電線がその中に存在しています。高さ制限を大幅に超える標高76.5m、68.8mや 68.7mという高さの鉄塔が新たな水平表面内に含まれていることが、国土交通省航空局が公開している障害物データから分かりました。(OBSTACLE, Area1 11 AUG 2022, AIS Japan)

滑走路長の比較

札幌市が取りまとめた丘珠空港の将来像(案)には、次の記述があります。

2,000m の場合、整備による空港周辺における建物や鉄塔等の高さ制限の対象が広範囲となり、空港敷地もより広く必要となることから、周辺への影響が大きくなります。一方、1,800m の場合、空港敷地拡大が隣接する緑地の範囲内で概ね収まると想定しており、周辺への影響が少なく済みます。

4-4 (2) 【整備による空港周辺の建物等への影響】、13ページ

「周辺への影響」が「大きい/少ない」といっても、具体的にどれぐらいの違いが生じるのでしょうか。他の資料を見てみました。

▲ 支障物の検討(札幌丘珠空港利活用検討委員会の資料を編集・加筆)

1800mと 2,000mを見比べたとき、「滑走路延伸に係る事業費」にいちばん大きな差が出てくるのが「用地補償費」です。約19億円と 約241億円。この他の項目は、延伸する滑走路を長くしても事業費が特段大きくはならないように読めます。

その「用地補償費」には、括弧書きで「工事及び進入表面等に係る支障物件移設・土地の購入等」と書かれています。ここでいう「進入表面等」というのは、進入表面転移表面のことに違いありません。水平表面に係る移設の補償は別項目になっていますから。

下の方に記載された「周辺への影響」を見てみます。2,000m滑走路では「建物・鉄塔等が支障…」となることが記されていますが、1,800m滑走路の場合は「支障物は、滑走路の嵩上げにより回避可能」とされています。これは、次のような意味だろうと勝手に解釈しました。

滑走路を1800メートルに延長する場合であっても、進入表面および転移表面より高い「支障物」は存在する。しかし「滑走路の嵩上げ」により着陸帯(および標点)の標高を高くすれば、進入表面および転移表面の高さが上がるので「支障物」は相対的に低くなる。

やぶ悟空による解釈

「滑走路の嵩上げ」という手で来ましたか。起点の方をズラすってことね。でも、滑走路を何メートルも嵩上げすることは現実的ではないので、対象物件が進入表面や転移表面の上に出る高さは僅かなのだろうと推察します。さすがに2000メートル滑走路にする場合には嵩上げではクリアしきれず、支障物の「移転工事は10年以上要す」となるようです。

関係する「支障物」に関してもっと詳しい情報が提供されていないか、探してみました。2018年2月に「丘珠空港の利活用に関する検討会議」報告書が公表され、その詳細版とされる「表3-1 滑走路延伸した場合の周辺影響」には、次の記述があります。

▲ 滑走路延伸した場合の周辺影響(赤線・赤字は加筆)

さほど詳しくはないものの、少し表現が異なっています。水平表面においては「全てのケースにおいて、建物・鉄塔等が支障となる」としています。進入・転移表面においては、1,800m/2,000mいずれの場合も、北西方向には「建物」が、南西方向には「鉄塔等」が支障となることが明記されています。

北西方向の支障となる「建物」とは、(その3)に掲載した写真のマンションのことでしょうか? また、南西方向の「鉄塔等」とは、(その3)の写真の鉄塔と送電線に違いないと思うのですが…。そうだとすると、滑走路を嵩上げする程度では解消できないほどの高さがあると思うのですが、果たしてどうなんでしょう?

札幌市は、高さの制限が生じること等について十分な知識や情報を持たない一般の市民でも個別に確認しやすいように、より具体的なデータを公開して議論を深め、広く理解を求める努力を より一層重ねてほしいものです。

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▲ ATR42-600

これまで4回にわたり、主に滑走路延長によって周辺に大きな影響が生じる「制限表面」、つまり高さの制限に着目して考えてきました。まだまだ解消されない疑問は多々残っていますが、ひとつずつ調べて理解していくには何かと時間を要します。

(その5)以降の内容は、今のところ未定です。何か気になることが出てくれば、また発信するかもしれません。

※ 写真はすべて、2022年7月、やぶ悟空撮影

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