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丘珠空港の滑走路延長(その3)物件の制限

(その2)からの続きです。

札幌飛行場(丘珠空港)の制限表面は、

  • 進入表面

  • 水平表面

  • 転移表面

の3つが設定されていることを(その2)でお話ししました。これらの面より上に出る高さの物件があってはいけないのです。航空法の「物件の制限等」では、こんな表現になっています。

何人なんぴとも、(中略)告示があつた後においては、その告示で示された進入表面、転移表面又は水平表面(中略)の上に出る高さの建造物(中略)、植物その他の物件を設置し、植栽し、又は留置してはならない。(以下略)

航空法第49条第1項

この規定は、自衛隊の設置する飛行場として告示されている「札幌飛行場」にも当てはまります。

航空法第49条から第51条までの規定は、自衛隊が設置する飛行場について準用する。(以下略)

自衛隊法第107条第2項


▲ 札幌飛行場の障害物(国土交通省航空局 eAIP Japan に加筆)

航空情報(AIP)の「RJCO 札幌/丘珠」を見てみると、この空港に障害物はないことになっています。


それって 制限表面、超えてない?

そのAIPには Landing Chart が掲載されており、滑走路32への進入経路を横切る送電線と鉄塔が図示されていました。場所は進入区域(進入表面の投影面)の中に該当します。鉄塔の高さは海抜「214」フィート。214 feet = 65.2 m。

周辺には、もっと高い 265 ft(80.8 m)や 295 ft(89.9 m)の鉄塔も記載されていますが、これらは現在の制限表面のエリアから外れています。

札幌飛行場の Landing Chart(部分、国土交通省航空局 eAIP Japan の図に加筆)

滑走路32端の標高は 27FT(AIP)なので、「214」鉄塔の高さは着陸帯の標高より 187フィート(57メートル)高いことになります。この高さは、1/50勾配の進入表面より低い?それとも高いのでしょうか? 単純計算すると、着陸帯から 2,850メートル(=57×50)以上の距離があればクリアできるはずです。

ところが国土地理院の地図上で測ってみると、南東側の進入区域内でいちばん遠くにある鉄塔でも 2.2kmしか離れていません。ということは、これらの鉄塔、進入表面を超えているかもしれないね。

▲ 滑走路の南東方向

実際に見てみると、鉄塔の高さが際立って感じられました。南東側の進入区域内には送電鉄塔が6本建っていますが、高さは異なるかもしれません。Landing Chartに記載されている「214」フィートは、その中でいちばん高い鉄塔のはずです。

新札幌の高層ビルはかなり遠方なので考慮しなくて良いのですが、高さが低くても近くにあるものは要注意です。例えば、写真の「気になる木」は大丈夫なのかな? 気になります。

上の写真内の建物については、階数から高さを推測し、着陸帯からの距離で概算したところ、進入表面を超えることはなさそうでした。でも、ここに写っていない右の方に、気になる高さの建物が2棟ありました。1990年築の7階建マンションと、2001年3月に竣工した6階建の建物が、進入表面または転移表面より高そうなのです。


▲ 滑走路の北西方向

北東側の進入区域内にも3本の送電鉄塔がありますが、遠方で高さが低いので進入表面はクリアしているでしょう。気になるのは百合が原の建物です。距離と階数で概算し、標高も考慮しましたが、進入表面または転移表面より高いように思えます。

滑走路14末端の標高は 20FT(AIP)です。滑走路32末端に比べて 2メートル以上低くなっていますので、進入表面の高さを計算する際はお気をつけください。

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1400メートルだった丘珠空港の滑走路が、わずか100メートルですが南東側に延長され、現在の1500メートル滑走路として供用開始されたのが 2004年3月です。それ以前から建っていた、または当時建築中だった建物で、進入表面や転移表面の上に出る建造物が、1500滑走路の供用開始から18年経った今でも何棟か残っている、ということかもしれません。

航空法第49条第1項の「告示があつた後においては」が効いて、告示前からあった物件などは進入表面の上に出ていても構わないようです。そんな場合でも、AIPの「AERODROME OBSTACLES」項には障害物として記載されないものなんだねぇ。

告示の後は、航空法第49条により制限を受けます。

空港の設置者は、前項の規定に違反して、設置し、植栽し、又は留置した物件(成長して進入表面、転移表面又は水平表面の上に出るに至つた植物を含む。)の所有者その他の権原を有する者に対し、当該物件を除去すべきことを求めることができる。

航空法第49条第2項

「除去すべきことを求めることができる」という規定は、必ず求めるわけではなく、求めない場合もある、ということです。どんな場合なら進入表面や転移表面の上に出ている建造物の除去を求めないのか、それを明らかにした文書などが存在するはずですが、現時点では把握できていません。

「物件の除去」によって生じる損失の補償や、物件または土地の買収、価格等の条件の協議などについては、航空法第49条の第3項以降に規定されています。関係しそうな方は、一度目を通しておくとよいかもしれません。


▲ 制限表面と気になる物件(航空局の図に加筆)

現在の1500メートル滑走路における制限表面の図に、鉄塔と送電線を青色で、気になる建物をピンクで書き加えました。ただし、進入表面と転移表面にかかりそうな気付いた物件だけです。水平表面内はチェックしていません。

進入表面や転移表面の上に出る建造物などが現に存在しているのかどうか、私には分かりません。札幌丘珠空港 利活用検討委員会 の資料には、高さ制限の対象になる(なりそうな)物件についての具体的な記述は見当たらないようです。周辺住民の財産に関わる重要事項ですから、札幌市はおそらく対象物件を調査し把握していることでしょう。その詳細は、滑走路延長の検討段階から公にされる必要があるのではないでしょうか?

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次回は、滑走路を1800メートルに延長した場合に制限表面がどのように拡がるのか、について考えてみます。

※ 写真はすべて、2022年7月、やぶ悟空撮影

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