PPP的関心【書籍「まちづくりの統計学」とRESAS】
東洋大学PPPスクールで担当している講義「まちづくりビジネス論」のなかでは、「地域に貢献する事業」の立ち上げにはまず「まちを知る」ことからだと伝えています。
知るとは、「物事の状態・内容・価値などを理解する。把握する。」とあります。
価値の判断には過去の経験から得た知識や情報、考えられる背景から地域にとっての必然性や意味などを知ることが重要だと思います。
しかし、過去の知見を以って即ち知ったことにはなりません。今の状態を正しく理解するには、さまざまな調査を通じて示されたデータ等を併せて受け取ることも必要です。決して思いこみで事実を排除すべきではないということです。その上で目前の問題の因果関係の仮説仮説を作り、仮説の検証、分析して問題の解き方を考えるというのが「地域に貢献する事業」の構想を具体化する手順だと思います。
と、ここまで書いたようなことはすでに多くの人が気づき、発信し、しかも実践されていることだと思います(未だに、自分は経験豊富で知っている、全てわかってる!てな感じで思考停止しているような事例を見たり聞いたりすることもなくはないですが・・・)。
先達も多く、「考え方」としてはすでに当たり前になりつつある「まちを知る」というステップについて、より多くの人が「実践」できるようにしたいという投げかけをしているタイトルだなと思える「まちづくりの統計学」という本を見かけたので、早速読んでみました。
例えばこんな「ズレ」
たまたま古い本を読んでいて、「ズレ」に身近で気づいた例として「商店街の衰退」の背景は何?という話題があります。
まず真っ先に思いつきそうな理由は、近隣に大規模小売店が出店したことで商店街に顧客が減少して商況が悪化したというところでしょうか。
しかし中小企業庁による調査では、「事業の後継者不在」や「店舗施設などの老朽化」といった中小商店の「内部問題」が直近の調査回答の上位を占めています。
確かに大規模小売店の出店は衰退の「きっかけ」だったかもしれませんが、そうした環境変化に適応できなかった理由が他にもあるかもしれない、本当の理由を示唆するような情報の発掘、深堀が不足したために本質的な原因を見逃した(見誤った)典型と言えそうです。
「思いこみ」と事実の「ズレ」というのはこういうところから始まるのだと思いますし、だからこそ経験的な情報だけでなく目の前の事実に目を向けるべきだということです。
「まちづくりの統計学」の紹介
問題を発見しそれを解きたいと考えた際に、「思いこみ」と事実の「ズレ」をなくし、「背景を深堀するための情報収集と情報の扱い方、理解の仕方」についてわかりやすく著された本だと思います。政策づくりのためのデータの見方・使い方という副題がついていますが、政策策定に関わる仕事をしていない人にとっても「見方・使い方」は役立つものだと思います。
同書のコラムにあった「RESAS」
本では章立ての間に「コラム」がいくつか挿入されていました。
その中の一つに地域経済分析システム(RESAS リーサス)紹介するコラムがあります。
地域経済分析システム(RESAS)とは、産業構造や人口動態、人の流れなどの官民ビッグデータを集約し、可視化するシステムで、地方創生の様々な取り組みを情報面から支援するために、経済産業省と内閣官房(まち・ひと・しごと創生本部事務局)が提供しているオープンツールです。
参考までに。RESASの活用について
ちなみにRESASの活用については、「まず目的を明確にし、その目的を達成するために必要な分析に限定して行う、という手順の重要性と目的を間違えないための注意点をいくつか述べた」という内容のnoteマガジンを東洋大学PPPスクールでも教えている井上先生がまとめていらっしゃいます。
まちを知る「実践」をする際には、こちらは参考になると思います。
また、日本政策投資銀行と価値綜合研究所からも「地域経済循環分析の手法と実践」という書籍が出されています。この本も、RESASの使い方の解説をはじめ参考になる情報が多いと思います。
PPP的取り組みと「事実」の重要性
これまでもPPP的関心の記事で書いてきたように、公的サービスの提供維持や将来に向けた新たなサービス構築において、民間資金の活用による施策の検討・構築はより一層重視されるはずです。
そのフィールドは空港コンセッションのような大規模なインフラ整備だけではなく、近所にある都市公園の維持管理といった小さな連携にも及ぶことが考えられます。
連携の対象や範囲が大きくても小さくても共通することがあります。それは起こっている問題の背景にある事実は何か、という正しい分析と理解をすることだと思います
多分こんな背景があって…といった「あいまいな」原因分析とそれを踏まえた「間違った方向の」方針に基づいた施策策定プロセスでは、投資に対するリターンをできるだけ確からしく求める、すなわち明確な成果の定義と提示を求める資金は入ってこないと思います。
大きくても小さくてもPPP的施策として民間からの投資的な資金を投下するのであれば、基準やゴールが定量的に明示できない施策は成立しないということです。
施策(政策)を企画・実施する側はもちろん施策の実現に応じる、あるいは自ら地域に必要な取り組みを提案、実践する民間企業にとっても同じように求めされることだと思います。
ビッグデータ活用、行政システムのDXなど「これまで集めにくかった情報、使いこなしにくかった情報」を使って新しいサービスの創造やプロセス改革を進める上でも、価値の判断には過去の経験から得た知識や情報、考えられる背景から地域にとっての必然性や意味などを分かった上で、現状を正しく理解するためのさまざまな調査を通じて示されたデータなどを理解・分析・活用できるスキルを身につけていきたいものです。