見出し画像

PPP的関心【立地適正化計画。「決める」と「実行する」の差を考える】

人口や世帯構造がもたらす社会構造の変化によって、徐々に、ただし確実に顕在化しはじめる問題があります。
例えば、高齢化した市民への交通サービスや商業立地などの都市的サービスの提供をどうするか、スプロール化した土地利用により点在化した居住地域を支えるインフラ維持の将来コスト(費用、時間、人的資産確保など)負担をどうするか、といった課題解決の検討は地域を問わない例だと思います。

上記例のような課題の解決に向け、都市再生特別措置法に基づいて市町村が作成するマスタープランが立地適正化計画です。
計画の作成・推進にあたっては、「行政と住民や民間事業者が一体となったコンパクトなまちづくりを促進」すると示されています。

立地適正化計画の意義と役割 <抜粋>
2.都市計画と公共交通の一体化
3.都市計画と民間施設誘導の融合
5.市街地空洞化防止のための選択肢
7.まちづくりへの公的不動産の活用

上記のような役割を持つ計画を実現可能なものにするためには、行政による立地適正化計画策定の段階から、具体策においてPPP・官民連携による施策を「想定」しておくことが大事になってくると思われます。

注)立地適正化計画に関わる話とは全く別の観点ですが
内閣府の「PPP / PFI推進アクションプラン(令和3年改定版)」のなかで、「多様な PPP/PFI 手法導入を優先的に検討するための指針(令和3年改定版)」が示され、今後の地方公共団体の施策検討においてPPP/PFIの検討がより重視されてくるものと思います。

都市の使い方を検討する際の、官と民の役割

冒頭でも記したように、立地適正化計画は地域社会の構造的な変化を捉え、これまで拡散してきた都市的土地利用が、今後の地域社会には過剰となってしまうという問題への対処です。加えて財政制約の厳しさが増してゆく状況で、拡散した市域への公共サービス提供を従来と同じように行うのが難しくなってくることへの対処でもあります。

民間企業や市民は自由な経済活動の保障を求める一方で、過剰な負担の分担を求められることは回避します。合理的な「市域の利用の選択」を検討した結果について、意思を以って対話を民との進めることは官の大切な役割だと思います。一方で、民の役割は、現状を正しく理解すること、市域の利用の選択の決定について官に任せきりにしないことだと思います。

立地適正化計画の策定は地域のマスタープラン策定という「官の仕事」ではありますが、検討・策定にあたり「行政と住民や民間事業者が一体となったコンパクトなまちづくりを促進」するものとして、PPP的な取り組みが期待されている点で、「市域の使い方」をどうするかは官だけ、民だけの問題ではないことを示しています。

立地適正化計画の実現にむけた取り組み

立地適正化計画の具体化、推進にあたって「都市計画と公共交通の一体化」と「市街地空洞化防止のための選択肢」について、具体的な取り組み事例を伝える記事を見つけました。
「駅やバス停の徒歩圏への住宅新築を支援する金沢市の奨励金が制度創設から2年で200戸を突破」という記事です。

#日経COMEMO   #NIKKEI

公共交通の一体化として「駅やバス停徒歩圏立地への誘導」、選択肢の提示として「奨励金による住宅取得支援」が行われ、ある意味で行政による環境整備が進められ、生み出された環境を活かした民間企業、市民の活動が顕著となったという金沢市の取り組み事例が伝えられています。

立地適正化計画推進の課題

記事のなかでは、計画実現に向けた難しさも併記されています。

立地適正化計画を策定した自治体であっても、郊外の住民らの批判を警戒し、居住誘導区域に手厚い住宅誘導策に消極的なケースもあるのが現状

例えば、居住誘導区域にされなないことで、長期的にみて私有財産としての価値(居住用不動産としての市場価値等)が毀損されてしまうではないか、といった主張をされた場合の対処は難しい問題でしょう。こうした「批判」は個人の財産に関わる問題として起こりやすいとも思います。

計画推進の課題解決に向けて
「決めた」ことを「実行」として見せる

しかし、そもそも立地適正化計画を検討する時点で、都市的サービスの提供範囲の検討に際して地域の現在、そして将来の人口や人口密度なども考えた上で市域の「取捨選択」をしているわけです。記事の金沢市の立地誘導でも

金沢市の同計画にあたるのが「集約都市形成計画」で、人口密度を維持する居住誘導区域を市街化区域の約4割に絞り込んだ。

という計画はかなり大胆な決断ですが、元々の市街化区域をさらに狭くするということは先の財産権の主張などがさらに起こりやすくなるといった想定を乗り越えて4割に絞り込むという大きな決断をするには、計画の合理性を示す材料を相当集めたのではないかと想像します(あくまで想像です)。

この金沢市の例から思うことは、制度に基づく計画推進の課題、難しさは、個々の財産権などを主張する市民側にだけ由来するものではないのでは?ということです。
居住誘導区域に手厚い住宅誘導策に消極的なケース、という指摘は、当初の「志」を下げ、批判を回避するために意思を以って対話を進めきれていない行政サイドの姿勢にも目をむけた指摘ではないでしょうか。

記事にある支援が「住宅取得を前提にしている」だけで十分か?など考えるところもありますが、「誘導」は官にしかできない仕事です。
合理的なエビデンスを積み重ねた上で計画として「決めた」ことを「実行」策として実施したことは、「意思を以って」取り組む姿勢であり立地適正化計画の推進課題を解決するために必要な姿勢だと考えます。

今後の「ネットワーク化」におけるPPPに注目

今回のnoteでは、市域の使い方のコンパクト化に向けて意思・意図を持って民の経済活動を促進・誘発する「環境整備」に取り組んだ官と、その環境を生かした民の活動に注目しました。
コンパクト化の推進という結論を急ぐ人から見れば、この記事の事例も金沢市の世帯数20.8万世帯に対し2年間で200世帯の移動でしかなく、計画実現に与える影響として決して大きいとは言えません。これを継続してゆくことでコンパクト化はゆっくりではあっても確実に進行してゆくはずです。

PPP的関心の立場としては、コンパクト化の成果だけではなく、立地適正化計画の実施においてコンパクト化と一体で求められる(サービスや情報などの)ネットワーク化推進において、この先の金沢市の活動にPPP的取り組みがどの程度取り入れられるのかに注目をしたいところです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?