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矢部明洋のお蔵出し 日記編1999年10月

▼10月某日・東京へ その一

   朝8時ごろ、車で山口宇部空港に向かった。
 夕方、東京ドームであるプロレスを見るためだ。
 金券屋で買っても飛行機代は4万数千円。
「小川(この日のメーンを務める元柔道世界チャンプ)はガチでやってくれんだろうな」
 大枚をはたいての観戦ゆえ、はずれ試合だった時の不安がよぎる。
 東京に着くと、すぐ早稲田松竹へ映画を見にいった。事前にぴあで調べていた『バベットの晩餐会』。開映まで20分あったので、向かいの吉野屋で並牛丼を食う。だって山口市には吉野屋ないんだもん。
 映画はおもしろかった。甘い話でもヨーロッパ映画は常に苦味の味付けを忘れないので堪能できる。
 すぐ半蔵門の宿にチェックインし、ドームに向かう。
 入場すると、第3試合のIWGPジュニアタッグのタイトル戦だった。良かった。この日の興行は好試合が多かった。お目当てのメーン・小川vs橋本も私の観戦歴の中でも屈指のものだった(「B席4000円のつぶやき」参照)。
 ドームを出て銀座へ向かった。次の映画を見るためだ。開映まで小一時間あったので、有楽町の居酒屋で、試合を振り返りながら酒を飲んだ。
 その夜の映画『マイ・ネーム・イズ・ジョー』も良かった(「映画鞭」参照)。
 


▼10月某日・東京へ その二

  半蔵門の喫茶店で朝食をすまし、中野に向かった。
 きょうの予定は前夜、ぴあで検討に検討を重ね磐石のものが出来あがっている。
 中野武蔵野ホールで映画⇒新宿で映画⇒池袋で本屋⇒池袋演芸場で落語⇒羽田から最終便―――という具合だ。
 中野で見たのはドキュメンタリー映画『パーフェクト9』(「映画鞭」参照)。観客10人足らず。この作品を選んだ理由は、ぴあの劇場アンケートの結果が良かったからだが、本当に良かった。やはり、あれだ、奮闘する人間こそが美しいんだ。
 いろんな考えが脳裏に渦巻き、収拾がつかなくなったので、一便早めて山口に帰ることにした。だって、落語を楽しむような気分になれないんだもん。
 家に電話すると、鬼妻が「中野にいるならタコシェに行って、面白そうな同人誌をみつくろって買って来い」というので、タコシェという怪しげな本屋に行った。杉作J太郎の単行本や『現代エロ漫画』、ピンク映画専門誌『P・G』最新号などを買った。ついでに軒を連ねる「まんだらけ」もひやかしてから羽田へ向かった。
 その夜は鬼妻に『パーフェクト9』がいかに良かったか、酒を飲みながらセッキョーして寝た。
 収穫の多い東京行きだった。
 唯一の心残りは荻窪でしょう油ラーメンが食えなかったこと。もう豚骨はいいよ!
 


▼10月某日・みえぞう保育園へ

  みえぞうが保育園に行き出した。鬼妻が働き出したためだ。お陰で朝夕の送り迎えが私の仕事になった。園が職場である県庁のすぐ前で、仕事のスキを突き、日に2回、車で保育園に通っている。
 最初の2日くらいは、私が保育園を去る時、泣いたみえぞうだったが、3日目あたりからは無表情に見送るようになった。可愛げのない奴だ。夕方の迎えは流石に嬉しそうな顔をするが、「バイバーイ」と言ってくれる保母さんは無視。本当に可愛げのない奴だ。
 そのくせ、相変わらずべっぴんのオネエちゃんには無茶苦茶愛想がいい。先がおもいやられる。
 しかし、面倒事ばかりではない。
 みえぞうは土曜日も保育園に行く。それも夕方まで。鬼妻も土曜日は一日仕事。勤務の都合で土曜が休みになった時は、私は一日自由になる。これはいい、となるべく日曜出番で土曜が休みという勤務になるよう手を回している。
 


▼10月某日・サッカーしたい

  職場の関係者でサッカーチームを作ることになった。
 初練習はみえぞうが保育園へ行くはずの土曜日。ところが前日になって、こいつが熱を出すのであった。まるで嫌がらせのように。保育園は預からないと言うし、本屋に復帰したばかりの鬼妻も、私が休みとあっては休まない。当然、みえぞうの世話は私の役目となり、サッカーはお預け。なのに、みえぞうときたら、少々の熱くらいなら全然元気。
 この日を境に、みえぞうは元気に、私は風邪をこじらせることになる。 


▼10月某日・風邪悪化

  今年の風邪はやっかいだ。高熱には至らぬが、37度台の微熱が延々と続く。睡眠を取って安静にしていても中々直らない、市販の風邪薬も効かない。やたら咳が出て、鼻水に悩まされる。
 そしてみえぞうは、金曜日になると熱を出し、大事を取って土曜日、保育園を休む。私の土曜に休みは2週続けて吹き飛んだ。
 鬼妻は風邪で本調子じゃない私にみえぞうを丸投げして仕事に行った。帰って来ると、家の事(掃除、食器洗いなど)を全然やってないと攻める。こいつは本当に赤い血の通った人間かと思う。これからは、もう単にオニと呼ぶことにする。
 布団にくるまりながら、「明日、役所で離婚届をもらって来ようかな」とふと思う。いや、マジで。

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