【小説】私という存在 #7 高校編 ②恋愛
章大の高校時代には、大きく三つの事件が起こる。章大はその事件を経験し、ゆがんだ成功体験を獲得し、ゆがんだプライドを獲得していくことになる。
他者からの評価のみに注目して、嫌われない人生
①恋愛
②飲み会
③合唱コンクール
今回は章大が経験し人を傷つけた恋愛について語り紡いでいこう。
章大には大好きな女の人がいた。
部活の一つ先輩。いまだに年上好きである。部活に入った瞬間、ひとめぼれだった。名前は月子。面食いだった章大は一目で恋に落ちた。たくさんの時間をともにした。
帰り道は正反対。月子の家までは数キロ離れており、それでも家まで一緒に帰った。
声を聴いていたくてずっと電話をしていた。当時かけ放題なんてなかったから、通話料40,000円になって祖母から激怒の電話が来た。
ずっと一緒に居たかった。
帰りも待っていた。「待ってます!」って言って。
卒業後10年ほど経った後日談だが、月子は当時の章大の
「ひたむきに自分のことを好きでいてくれる姿勢」
に根負けしていたらしい。だから、告白されればすぐに付き合うつもりだったと・・・
でもそうはならなかった。
章大は
怖かった。ただひたすらに怖かった。
この関係を壊したくない。
一緒に過ごしていけるこの関係を壊したくない
それしか考えられなくなっていた。
それはある日起こった。
なにかは思い出せないが、章大は何かの拍子に月子とけんかになった。とても耐えがたかった。出会ってからちょうど一年だった。謝ったが、月子は本当に冷たく
「私にはもう関係のない話だから、謝られても困る」
と。。あんなに怖い月子の顔は初めてだった。当時中学生だった月子の妹に電話をして家での月子の様子を聞くと
「月子普通だよ?章大なにしたん??」
と。本当にわからなかった。やはり後日談で、当時月子は、章大との関係が崩れていくことが少し怖くてそっけない態度をとっていたらしい。
章大はここでとんでもない行動をとる。
「面倒なことは切り捨て、間違いでも言い切ると正義になる」
この根底のゆがんだ考え方があったため、
「ほかの女の子と付き合えばこのつらさはなくなる」
と月子をあきらめることにしたのである。
月子の中の自分の評価を気にすぎるあまり、消えていくこと常に考えた。
そして、章大は
「自分の大好きな人とは、付き合うことはできない」
「自分の手の届きそうな相手を好きになる」
という、人をランク付けするという最低の考え方を、思春期の人間形成において一番大切な時期に植え付けることになった。
初めて付き合うことができたのは、
あゆみ
だった。あゆみは本当に素直で、まっすぐで、元気で、笑顔の絶えない女の子だった。ただし章大は
月子を忘れるための道具
にすぎなかった。あゆみとの楽しい思い出とともに、少しずつつらい傷跡は消えていった。このまま一緒になっていたなら、章大はどんなに幸せな人間だっただろうか。。愛される幸せとともに、あゆみの明るさや前向きさで、「ランク付け」というゆがんだ考え方も是正されていったに違いない。それでも章大はお互いが幸せの絶頂の時に
別れ
を告げる。その理由は、
友達に紹介できないから
だった。当時章大の周りには、かわいい、スタイルのいい、自慢の彼女を連れて歩く生徒たちばかりだった。
また自分の評価
である。あゆみはかわいい子だったが、そんなにスタイルのいい子ではなかった。
周りからの自分の評価が怖かった章大は、ここでもリセットをしたいと考える。
当然あゆみは何が起こっているのかのみこめていなかった。当然あゆみは
「なんで別れたいん?」
と章大に聞いた。自分の評価が下がらないために別れたいなど話せば、あゆみのなかの自分の評価が下がる。なので、
月子先輩を忘れるために君と付き合ったけど、忘れられない。だからもう別れたい。
とすごいことを言ったのである。
あゆみは当然、怒り、またそのような人間を好きになってしまった自分に対する落胆を隠しきれず、僕たちの関係は幕を閉じた。
このとき、「もうちょっと痩せろよー」とかはっきり言えばまだよかったものを、よりによって彼女としての存在自体を否定した。
当時の章大は、この言い方のほうがあゆみの中の自分の評価が最低であると認識できなかった。友人を通して聞いたところ「人生で唯一の黒歴史だ」とあゆみは今でも章大のことを許していない。
そうやって多数の人間を傷つけ自立性を欠き高校二年生の段階で以下のような人間性を章大は身に付けていた。
①人はランク付けし、自分と相手してくれる人の中からえらぶ
②恋愛は自分と付き合ってくれそうな人で、自分が許せる人を選んで、その人が好きだと自分に暗示をかけて付き合う
③社会性がすべてで、自分の評価を落とさないためにすべての行動をとる。
④面倒なことは切り捨てる
⑤間違っていても言い切って正義にしてしまう
章大は、37歳になるまで、この考えをやめることはない。また自覚することもなければ分析もできず、こじれた親父になり、人ひとり守れない、人ひとり信じることができない大人になっていく。
続く
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?