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【小説】私という存在 #4 逃げる

小学校を卒業・・・

児童から生徒へと呼び方がかわる時

携帯電話を契約できるようになる時

私服から制服に代わる時


そうやって周りが、子どもから大人へと認められ始める・・・それが中学生・・・

ようやく社会性というものの自覚が芽生え、人の目を気にするようになるとき・・・

なぜなのだろうか・・・今でもまだわからない・・・

あんなにいじめがエスカレートしてしまったのは・・・


章大は、きっと自分にも悪いところがあったのだろうと考えた・・・

殴られても蹴られても、殺されることはめったにないから、歯向かったってよかった。戦ってもよかった。でも僕は、争いごとが嫌いだった。そう章大が思う争いごとが・・・

章大には中学校のエピソードの記憶が

ほとんどない。

それはきっと思い出したくない過去として体が拒絶反応を示しているのだろう。。

ただ覚えていること・・・それは東山と狭間にいじめられ、いやな思いをしていた時、章大がなによりもつらかったのは、

「まわりで章大を見ている目」

だった。関係なさそうに、憐れむかのようなあの目つきに、耐えることができなかった章大は数少ない友達の竹上に一緒に帰る帰り道心の声を漏らしてしまった

「死にたい」

中学校2年生だった。竹上は慰めてくれた。親身になってくれた。優しかった。一生感謝し続ける思いだ。でもだめだった。章大はもう疲れ切っていた。

自分の部屋に入り、ぼーっと眺めた先に、電灯のコードがあった。首に巻いて椅子から飛べばすぐ死ねる。インターネットを覚えたばかりの章大はそんなことだけは詳しかった。

その時

「章大!おりてこい!」

雄成の声だった。また怒られる。何かしたかな・・・章大がそう思いながら居間のふすまを開けるとそこには、担任の海野がすわっている。

キョトンとした章大をみて雄成は

「こっちにこい」

といつも出したことのない声を出す。怒っているのはわかるが、怒鳴らない。なんだ・・・これ初めてだな・・・俺は何をしたんだ?


第一声は雄成の口から思わぬ形で発せられた。

「お前、いじめられとったんか?」

言葉を失う。誰も助けてくれないと・・・なぜか一生続くのだという思い込みでいたときに、人生でだれよりも強いと思う雄成がその質問をした。ということは助かるかもしれない。。。

そう思った章大は声を振り絞り

「うん」

と答えた。

そのあとの会話の記憶はこれ以外残っていない。

「竹上君から連絡があった。田上君が死にたいと言っていると」

海野はそう答えると、とりあえず家まで来てくれた。

そうやって多くの人に助けられながら生きていた。その感謝を忘れてはいけないはずなのに、章大は、またも誤った観念でこの先を過ごすことになる。

「苦しいことからは逃げればいい」

続く

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