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1.書肆 海と夕焼 実店舗開業のための模索

 2021年4月29日(木)、谷保は小鳥書房さんの店舗の中に「書肆 海と夕焼」を開業する運びとなった。間借り本屋を開業して1年2ヶ月でここまで辿り着けたのは、偏に今まで出会って関わっていただいた皆さんのお陰であると思っている。ありがとうございます。

 今回開業するにあたり、小鳥書房の店主である落合さんと話をしながら、それぞれが考える営業形態を紐解いてゆくと、多少説明が必要な営業形態となった。「小鳥書房の店舗の中に、書肆 海と夕焼を開業する」ということは、ひとつの建物の中に書店がふたつ存在することとなり、店主もそれぞれひとりずついる。そして、この営業形態は従来のシェア本屋の概念とは趣を異にしているという感覚を持っている。

 それでは、“趣を異にしている“と感じさせる所以は何であろうか。その感覚により明瞭な手触りを与えるべく、現在までの過程を辿ることで「根源」を明らかにし、道程を辿り直してゆきたい。辿り直すには、幾度か文字を書き留める必要がある。最後には、現在よりも感覚を言語化に読者の皆さんに言葉として伝えたいと考えている。考えながら、自らの中に眠る記憶を引き摺りながら綴ってゆくので、記憶の寝床を自らの年齢とともに目次として記載する。

【30歳】現在を洗い出す

 現在、平日は紆余曲折しながら漸く辿り着くことができた出版社で働いている。“漸く”と記載したのは、新卒の段階から手を伸ばし続けてきて、最近切符を摑んだからである。その道程はまた後述する。

 そして、休日は間借り本屋の店主として西荻窪はBREWBOOKSさん(@_brewbooks)、谷保は小鳥書房さん(@kotori_shobo)の2拠点に出店させていただいている。間借り棚の並びは閃いた時に入れ替えるように心掛けている。入れ替えると、入れ替えた側から購入いただくことも多い。これは間借り本屋を始めて、1年2ヶ月で知見として得たものであり、実感としても大きい。

 本を入れ換えた際には、TwitterInstagramFacebookでも宣伝し、より多くのお客さんの目に触れて欲しいと考えている。より多くのお客さんの目に触れることで、反応を感じることができる。私が面白いと思って並べた本、読んで欲しいと思って並べた本が“売れること”が分かり易さの最たる例ではあるが、他にも「良い本の並びだと思う」や「実際に棚を見に行ってみたい」という“言葉を掛けていただけること”も反応としては非常に嬉しい。

 反応は“意志の共有”と言い換えて受け取ることもできると私は思う。“面白い”という感情を文字にする、言葉にすることで、直接乃至はSNSを通じた画面上で意志を表明してくれる。その意志を見つけた時の嬉しさは何事にも替え難い。

 定期的な活動として、友人である鳥野みるめさんのアトリエを使用させていただき、書肆 海と夕焼鎌倉支店を開催している。アトリエを本屋に見立て、本と人の繋がりを広める企画である。初回は昨年11月29日(日)に開催済み、次回は3月13日(土)の予定である。厳しい世情ではあるが、衛生面には十分注意し慎重に開催した。今後も年4回を目標に様々な状況を鑑みながら、開催してゆく予定である。

 このように平日は会社員、休日は間借り本屋の店主として活動しているのが、私というひとりの人間である。両方が上手く噛み合いながら生活を前に進められているのは、いずれにしても《本が好き》という単純な感情が原動力となっていると思う。至極単純な理由ではあるが、出版社に入社してから、そして間借り本屋を始めてからは、その理由がより強固かつ不変な概念として、自らの内部に横たわり続けている。この概念は不思議と磨り減ることはなく、磨れば磨るほど光り輝いてゆくようであると感じている。

【22歳】社会に茫然と立ち尽くす

 思考は22歳に飛ぶ。

 とある文系の大学にて4年間の学びを緩やかに満了に向かわせながら、就職活動を行っていた。本は好きであった。ゼミも近代文学専攻である。当時は、当然興味の延長で仕事をしたいと考えていた。漠然と「出版社に入って本に塗れて生活したい」という思いはあった。ただ“漠然としていたのが問題であったと思う。数十社の出版社を受けるも内定は出なかったことを覚えている。仕方なく当初の選択肢に入れていなかった広告関係の会社を受けると、漸く内定が出た。季節は春、夏、秋を過ぎて、冬の只中、卒業する年の1月となっていた。

 こうして働く先は見つかり自らで生活費を稼ぎ生活を送ることができるようになったものの、入った会社では営業部門ということもあり、日々の仕事に忙殺される時間を過ごした。

 生活は変われど、本は矢張り好きであった。特に小説を読みながら身体を会社まで運ぶ間、このままで良いのかと考えていた。しかし、思考は散漫のままどうして良いかが分からず、そのまま会社と自宅の間を身体を往復させる時間が続いた。何に掴まって良いか、どの方向を向けば良いのかを見失い、まさしく社会に茫然と立ち尽くすような日々であった。

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 この時は、まだ本屋を開業するという意志は生まれていない。平日に考えることを振り払うように小説を読んでいた自分がいたことを思い出す。残念ながら、読み耽った内容は全くと言っていいほど覚えていない。

(思考は次回へと続く)

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