スプリント分析。チーターから学ぶ珠玉の技術。
今回は動物界ナンバー1のスプリンターを紹介していきたいと思います。
スプリント?なのかよくわかりませんが、チーターを皆さんと一緒に分析していきたいと思います。
なんでチーター⁈と思う方もいると思います
この動物めちゃくちゃ参考になる部分いっぱい持っていますし、スポーツにおいて参考にできる部分がたくさんあるんです。
では早速分析していきましょう!
▼チーターの特徴
まずはチーターが獲物を捕らえる動画を見てみましょう。
見ていただければわかるかと思いますが、めちゃくちゃ速いですよね。
また、スピードに乗るまでがすごく速いのと身体のしなりが半端じゃないですよね!
チーターの最高速度は120km/時といわれ、わずか2〜3秒で60-90km/時に達するほどの加速力を持っています。
100mは5.95秒で走る異次元な動物です。
この速さに加えて秒速4mもの勢いで急ブレーキをかけることが可能です。
しかし、そのスピードを維持できるのは170m程度で500mを過ぎても捉えられない獲物は諦めてしまうことがあるそうです。
前述した通り、背骨を柔軟に使い「しなる」、「バネのよう」に走る
そして、わずか1歩で驚異的な加速を生み出す。
しかも方向転換、減速もめちゃくちゃ速い。
この速さの秘訣はどこにあるのかを探っていきたいと思います。
私は、チーターの速さは
・上半身を先行した、驚異的な後ろ脚での蹴り出し
・立甲を使った前脚の蹴り出し
・立甲を使った上半身操作
にあると考えます。
▼チーターの走行周期
1前脚着地 14%
2交差飛行 25%
3後脚着地 15%
4伸張飛行 46%
▼速さの秘訣1
いつも載せていますが、スピードとは
スピード=ストライド(歩幅)×ピッチ(回転数)で定義されます。
チーターはというと最大歩数は毎秒3.7秒で他の動物と比較して”ピッチ(歩数)”に対差はなかったと報告されています。
よってチーターの驚異的速さは”ピッチ(歩数)”ではなく、”ストライド(歩幅)”にあると考えられます。
チーターのストライドは8mと言われており、同じ体系のイヌ、グレイハンドは6.1m、5.0mと比べてもチーターは驚異的にストライドが大きいことがうかがえます。
チーターのストライドの①~⓸に占める割合は①14%、②25%、⓷15%、⓸46%であった。つまり⓸伸長飛行時にストライドを稼いでいることになります。
ここまでではチーターの速さはストライド由来だということがわかりましたね。
では、なぜストライドを大きくできるのでしょうか?
もう一度①~⓸の流れを見てみましょう。
1〜4の一連の動作を確認していただくとわかりますが、一度身体が丸まったところから一気に縮んで後脚でビヨーンと蹴り出しますよね。
この動きは田所フィジカルコーチが解説してくれているのでそちらを引用したいと思います。
ウサインボルトとチーターから学ぶスプリント動作とそのトレーニングについてより
チーターに比べると背中の動きはめちゃくちゃ小さいですが、右足の爪先離地時よりは確実に背中が丸まっています。ここから再び背中を反ることで、チーターと同じように胸の辺りを軸にして上半身先行で走ることができ、これが爆発的なスピードに繋がっています。言い換えると胸を下半身よりも先に前に出して後から下半身を付いて来させるといったイメージです。
また、チーターは他の動物よりも肩甲骨・骨盤の回転運動を多用しているとの報告があります。
つまり、縮まる(骨盤後傾、肩甲帯前傾)からの伸び(骨盤前傾、肩甲帯後傾)を用いると身体をバネのようにして蹴り出すことが可能です。
しなやかに身体を使っているのはそのためかもしれませんね。
この動きはウサインボルト選手に加えて、前回解説した福岡堅樹選手にも同じような動きが見て取れます。
身体を思いきり縮めて、一気に伸びあがることで驚異的な後ろ脚の蹴り出しを可能にする
これが速さの秘訣1です
▼速さの秘訣2
先程はストライドの46%の割合を誇る後ろ脚の蹴り出しを解説しましたが、前脚の蹴り出しも25%と決して馬鹿にはできません。
前脚での蹴り出しの秘密を暴いていきたいと思います。
しつこいですがもう一度①~⓸の動画を見ていきます。
前脚に注目して頂けるとわかりますが、肩甲骨が立っていますよね?
実はこの動きを”立甲”と言います。立甲とは名前の通り、肩甲骨が立つという動きです。
また、立甲した結果、肩甲骨と上腕骨が一直線上に繋がることを甲腕一致と言います。
実はこの立甲はスポーツをする上で大事になってきます。
なぜ大事かというと
立甲ができて、甲腕一致すると
・肩甲骨や肋骨、脊柱の可動性が上がる
・関節や筋に負担なく押せる
・肩甲骨と胸郭が分離して動くため体幹が安定する
・胸郭と分離して使えるので腕のモーメントアームを更に使える
からです。
立甲が行えると甲腕一致が実現する。
そうするとゼロポジションで押せる。
ゼロポジション(肩甲骨と上腕骨が一直線)とは関節・筋に負担がなく最も力発揮がしやすいポジションの事である
立甲、甲腕一致した状態での前脚の蹴り出しはゼロポジションでの蹴り出しを可能にし長く地面を押せます。
また、体幹が安定していて且つ脊柱の柔軟性を保つことができるので次の後脚着地~伸長飛行に安定して繋げることができます。
チーターと人とは体型が違いますががチーターの肩甲骨の動きに近い使い方が出来るスプリンターがいます。
100mを9.97秒で走る日本記録保持者サニブラウン・アブレル・ハキーム選手です
サニブラウンの特徴はストライドにあると思います。
このストライドを可能にしているのが肩甲骨の動きです。
他の選手よりも腕ふりが大きく、前に肩甲骨が動く幅が大きいかと思います。
そして、脊柱・胸郭と分離して肩甲骨が動かせるため、接地の際に肩甲骨の下制で地面を長くとらえてストライドを大きくしているのです。
スプリントの際に首が長く見える、体幹がブレないのは肩甲骨の使い方がうまい証拠です。
こういったようにチーターの動きは人にも応用可能なのです。
前脚でのストライドが長いのは立甲ができており甲腕一致で地面を捉えられている
チーターの速さの秘訣2です。
▼速さの秘訣3
お次は方向転換についてです。
チーターは秒速4mで止まれる
2つ目の動画最後ではチーターはターンできているのに対して、獲物はターンしきれずに転倒します。
チーターが方向転換が速いのは他の動物よりも大腿部内側、上腕筋が発達しており、四肢を後内側に引き付けることができる。この後内側への引き付けがカーブ走行の際に傾斜角度を小さくした状態で走行が可能である。
引用:「走る」ーチーターの高速走行
加えて傾斜角を操作している要因に立甲もあると私は考えます。
この画像を見ると、上半身特に胸郭を動かして舵を取っているのがわかるかと思います。
胸郭と肩甲帯が分離して動かせるので、胸郭が左右に動いても、肩甲帯と上腕は地面に比較的真っ直ぐなのがわかると思います。
この動きも立甲ができているから可能な動きと言えます。
肩甲骨と分離して上半身重心(つまり胸郭)を動かしているので急な方向転換にも対応可能であると考えます。
この動きは人にも応用可能と考えます。
上半身重心を動かしても肩甲骨が残っていれば腕がフリーに使える。鋭角に曲がりたければ胸郭と共に肩甲骨の重りも使えばターンしやすくなると考えます。
*後ろから見た図です
まとめると、立甲が出来ることで肩甲骨と胸郭が分離して動かすことができ、上半身操作が自在に行える
これがチーターの速さの秘訣3です。
・上半身を先行した、驚異的な後ろ脚での蹴り出し
・立甲を使った前脚の蹴り出し
・立甲を使った上半身操作
これが私の考えるチーターの速さの秘訣です。
今回上げたチーターの動きは人の動き、スポーツの動きに十分応用可能と考えます。
立甲ができることでより上半身操作が上手くなりフェイントやターンが上手くなる可能性があります。
また、スプリントではストライド・ピッチの向上にも繋がる可能性を秘めています。
これってすごくないですか?
実際にチーターの身体特性を動作に生かしている選手のスプリント分析も今後はしていきたいと思います。
この記事を読んで自分の身体を見つめなおすきっかけになれば嬉しいです!
理学療法士/スポーツシューフィッター 安田智彦
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