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相手に負けない動き出し。 アーロン・ワン・ビサカ。

前回はエムバぺを通してドリブルで仕掛ける際の一瞬の加速を生み出すステップや伸張反射の使い方についてを記事にしていきました。


今回視点は違いますが守備での走り、加速について書いていきます。

サイドバックの動きを分析する中で相手に負けない一瞬の加速を生み出すにはどんなことをしていくべきなのかについて記事にしていこうかと思います。

取り上げるのはマンチェスター・ユナイテッド所属アーロン・ワンビサカを取り上げていこうかと思います。

右サイドバックにおいて絶対的な守備能力を誇る彼。
サイドバックはフォワードと違い、相手のスタートに応じて動き出さねばなりません。

そして相手にゴールを取られないためには対人において競り勝ち、ボールを奪取しなければいけません。

相手のフェイクに惑わされず、かつ相手が先にスタートを切る不利な状況下で勝つ動き出しとは?

まずはワンビサカの対人守備を見ていきます。



▼コンパクトな姿勢

一つ目の特徴は大きい体を丸めてかなりコンパクトに畳んでいることがわかります。

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ただぺしゃんこに丸めているわけではなく、みぞおち、胸骨を上に持ち上げたような姿勢になっています。
イメージとしてはみぞおちが天井に向かって伸びているイメージです。

常に背中が通った姿勢いわゆる常に背中の筋肉が縮んだ姿勢ではより大きな力、バネの力を得ることは難しくなります

キレのある動きをするにはFCpSolsの記事で多くとりあがられてきた伸張反射を用いた動きが重要。つまり体がもっているバネの力でキレ良く進むには一度バネを伸ばす必要が出てきます。

この伸びて縮むサイクルの伸張反射を使うには一度伸ばす、つまり丸まる動きが必要となってきます。
加えて、みぞおち、胸骨を上に持ち上がることで落とす力もスタートで加えることができてきます。


陸上100mの多田修平はこのような力を利用して爆発的なスタートを可能にしています。



加えて身体には筋肉と筋肉が連結した筋膜連結というものがあります。
筋膜連結の中でもBFLというラインがあります。

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このラインを常に張らせていることで即座に筋・筋膜経路を通して縮み、スタートが切りやすくなると考えます。

BFLは大腿外側を覆い、膝蓋腱、脛骨粗面に付着します。
つまり大腿と下腿を内旋、胸を丸める、みぞおちを上に向けると最大に伸びた状態になります。


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この伸びた状態から一気に縮むことで爆発的な力を出すことができると考えます。



▼上半身の動き


ワンビサカのもう1つの特徴は相手がフェイクで抜こうとした際に上半身はその動きに付いていっているのに対して、骨盤帯から下はあまり動いていないことにあります。


前回五大コーチが書いたフェイクの実態という記事では、良いフェイクは胸郭が動くが骨盤帯は進行方向に残ると述べています。

対人における良い守備でも同じことが言えるのではないかと思います。
フェイクにて相手を抜き去るには下半身は進行方向に残しておいて、上半身の移動量で相手の重心を大きく外させる。
つまり相手の骨盤帯が移動するほど重心を大きく外すことができれば、容易にドリブル突破ができるというわけです。


上記のツイートでは坂元選手の切り返しにDFは骨盤帯ごと大きく重心を外されているのがわかります。

逆に言えば対人守備において骨盤帯を進行方向と逆方向に大きく外されなければいいわけです。
そのためには常に骨盤帯は動かされず、上半身で相手の動きに付いていくのが理想と言えます。

加えてワンビサカは身体をとてもしなやかに使っているイメージが動画から感じられるかと思います。


ワンビサカ自体ドリブルで仕掛ける際には上半身を自在に操っていることがわかります。
そしてドリブルや素走りの際には上半身を丸めて伸ばしていて非常にしなやかに上半身を使っていることがわかります。

このように自在に上半身を動かせるからこそ相手に大きく重心を外されることなくスタートが切れるわけです。

また、ワンビサカの特徴であるボールを奪う際に足がかなり長く伸びていることがわかります。


この奪う際に最後足が伸びきるのは身体の丸まり、伸びるのサイクルができている証拠です。


▼肩の使い方

もう一つの特徴はスタートを切る際に素早く肩が下がることにあります。

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素早く肩を落とすことによって位置エネルギーが生じます。この物体が落ちる際に得られるエネルギーを素早く肩甲帯をおとすことにより得ているのではないかと考えました。素早く落とすことができると地面を素早く叩くことができ、短い接地で地面のプッシュ力を強めてくれます。


ターンして動く際も肩甲帯を素早く下に落とすことで上半身の捻りつまり伸張反射の発動を生み出しています。

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動画では右肩甲帯を素早く落としています。

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そうすることで左側腹部の伸張が起きる。その後左側腹部が縮むことで上半身を反転しています。

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つまり肩甲帯をおとすことから側腹部の伸張反射を引き起こしていると考えられます。
これは先程も述べた筋膜ラインの中のLL(ラテラルライン)を用いた反射と言えます。

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また、この肩甲帯を素早く下に落とすことは多くの利点を生じさせてくれます。


FCpSolsが提唱しているHOPのトレーニングでも空中にいる際に肩甲帯を素早く落とすように意識すると予備緊張が生じて鋭く地面を叩くことが出来ます。
ワンビサカ自体の身体イメージはどのようなものかはわかりませんが、この感覚と近いことが動き出しの際に起きているのではと考えます。



また、肩甲帯を下に落とす使い方が出来ると走りの際の地面のプッシュや伸張反射の誘導に加えて体を入れて相手を抑える際に役に立ってきます。


肩甲帯を下制させると鎖骨も共に下制します。さらに脇を閉めた状態で前腕を回内、上腕を外旋すると関節がしまりの肢位に位置します。こうすると背中側の筋肉が賦活されより大きな力を発揮することができます。

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この使い方が出来ると動き出しを速めることができ、なおかつこの腕の使い方は背中の筋肉を賦活させることができます。

そのため相手に体を入れた後に押し負けないことも可能になってきます。


ワンビサカの素早い動き出しは

・丸まって筋組織を張った姿勢から一気に縮めて伸びあがる伸張反射を用いた動き
・上半身のしなやかな動き
・肩甲骨をおとす動き


がキーになっていると結論付けました。

この身体の使い方を改善するにはHOPやcheaterwalk、backwalk、bear walkを左右差なく、骨で支える視点で行えると良いかと思います。

bear walkやbackwalkで腕が疲れてしまう方はこの肩の使い方を意識してみると楽に支えられてトレーニングが行えるかもしれません。

ワンビサカの守備での動き出しには上半身のしなやかさ、バネを引き出す伸張反射が相手に抜かれない動き出しを速めてくれます。

特に動き出しの際には直線的な動きだけではなく、ターンの要素も入ってくるため回旋・横の伸張反射が特に大事になってきます。

この反射を発動させるためには肩甲帯の使い方、素早く落とすことは一瞬の動き出しの際に伸張反射を引き出すうえでの一つキーになってくると考えます。


▼推奨トレーニング


back walk

bear walk


Sway

back sway

Side walk


なかなか他の記事では守備での動きやサイドバックの選手の分析はしていないので今回の記事は珍しかったかと思います。

少しでもフットボーラーの役立つ情報になれば嬉しいです。



理学療法士/スポーツシューフィッター 安田智彦


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