酒粕で思い出す
小学生の頃、ばあちゃんがよくストーブで焼いてた「酒の粕」が気になってた。綺麗に揃えられた四角の平たい白。表面をよく見るとなんか細かい模様がついてて、木綿豆腐みたいで触ってみたくなった。
これなに?って何回も聞いたような気もする。難しくて完全には分からんかったけど、お酒の味で子供は食べれないものってことは分かった。学校から帰るといつもあの匂いがばあちゃんの部屋からしてた。あんまり好きな匂いじゃなかったけど、当たり前みたいに匂わせてたからそれで自然だった。
ストーブで焼くとか、真っ白で薄っぺらいとか、美味しそうな条件が揃ってる。そして何より、ばあちゃんが美味しそうに食べる。ばあちゃんは「酒の粕」が大好き。それだけで美味しそう。
友だちにも親にも上手く話せる自信がなかったからその感覚は誰にも話さなかった。だから自分だけの、自分とばあちゃんとあの時間だけが持っていた、優しくて強くて飾り気のない事実。
酒の粕
そのワードそのものが思い出となった。長い長い時間をかけて、薄く淡く積み重なった。
初めてちゃんと口にする機会がやってきたのはつい先日のこと。みんながいい香りと呼ぶあのばあちゃんとの匂いが眠りから覚めて蘇った。
相変わらず変な匂いだった。好きじゃないけど愛おしい。変な感覚。
すっかり大人になった私が自分で買ったトースターで自分の意思で焼く「酒の粕」。
美味しいのか美味しくないのか分からないくらい「ばあちゃんとの匂い」が上回った。
特別な存在にしてくれてありがとう。記憶に残してくれてありがとう。
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