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はじまり-グッドオーメンズ

※ テリー・プラチェット ニイル・ゲイマン共著 Good Omens
イギリス英語って、日本語で言えば関西弁…近畿、京都圏じゃないの…というお遊びで行った気ままな和訳ですので、誤訳・キャラクター描写の違和感については一切責任を持ちかねます。


その日は晴れていた。

雨はまだ世界に創造されていない。なので、これまでの7日間はすべて、毎日が美しく晴れていた。
しかしエデンの東の空には雲が集まり始めている。
初めての雷雨の気配。しかも激しくなりそうだ。

雨粒を避けるために、東の門を守護する天使は、両翼を自分の上に掲げた。

「すんませんけど」
礼儀正しく、天使は蛇に尋ねた。
「なんの話してはりました?」
「せやから、ちっともウケんかったなって言ったんや。」
「ああ、はい。ですね。」
天使はアジラフェルと呼ばれている。

「正直ゆうて、ちょい大げさすぎとちゃうか。」と蛇は言う。
「なんぼいうても初犯やろ? それにや、善悪の違いがわかる事の、何がそんなに悪いんや。俺にはよう分からんわ。」

「もちろん悪いことですよ。」

天使の返事は少し不安げだ。正直、彼にも分からない。そしてそれが彼を落ち着かない気分にさせていた。

「ほら、そちらさんがやりはった事ですし。」

「うちの連中は「行ってややこしくしてこい」て言うただけや。」

蛇の名前はクラウリーといったが、彼はこの不気味な響きの名前を変えてしまおうかと考えた。
そして決めた。クラウリーという名は、もう彼のことではない。彼の名前はクロウリーだ。

「でも、そちらさんは悪魔や。ぼくね、悪魔がいい事をするのは無理なんちゃうかと思うんです。 
悪魔の原則、基礎基本…みたいな話やないですか? あんま気ぃ悪くせんで欲しいですけど。」

「あんなもんは茶番やって、自分も思とるくせに。
木の隣にでっかい字で「触るな!」って。どないみてもネタ振りや。
ほんまに触ったらあかんのやったら、どっか高い山の上か、遠いところにやっとけって話や。…神は何がやりたいねん。」

「そんな事を考えるんは良くないです。ほんま、良くありませんよ。」アジラフェルは言う。
「神さんのやりはる事には、ぼくらがごちゃごちゃ考えたらあかんのですよ。
こう…物事いうのは正しい事、間違うとる事とあって、正しい事をやりなはれて言われとるのに、それとちゃう事をしたら、バチがあたる、そういう事です。」

ふたりは気まずく黙って座り、雨粒が真新しい花々を打つのを眺めていた。

しばらくして、クロウリーが尋ねた。
「自分、炎の剣もっとらんかったか?」
「あー…」天使の表情に隠しきれないうしろめたさがよぎる。
「持っとったよな?」クロウリーが言う。「めっちゃ燃えるやつ。」
「ええと…それが…」
「アレ、いかついなぁ思ったんや。」
「そうでしょ。けど、その…」
「自分、失くしてへんよな?」
「まさか!そんなんとちゃいますよ。…失くしたんやなくてですね…」
「どないしたん?」アジラフェルは惨めな顔をした。
「話せていうんやったら言いますけど…」彼は少し不貞腐れながら言う。「あげてまいました。」
クロウリーは天使の顔をまじまじと見上げた。

「いや、しゃあなかったんです」落ち着きなく手を擦り合わせながら、天使は言う。
「あの人ら、可哀想に…。えらい寒そうな恰好してはるし、それに彼女さんはもうオメデタや。
外には凶暴な動物もおる、そのうち嵐になりそうやし、せやから、ええやろと思って言うたんです。
それでぼく「聞くがよい。この地に戻れば神の裁きが下されよう。そなたたちには武器が必要になる。
この剣を受け取るがよい。礼はいらぬ、その代わり施しの心を忘れるな。さあ、陽が落ちる前に立ち去るが良い。」って…。」
困った顔で笑いながら、天使はクラウリーの顔を見た。
「それがベストやと思いません?」

「まぁ天使に悪い事なんかはできんやろ」クラウリーは嫌味をこめて言ったが、アジラフェルはそれに気付きはしない。

「ええ、そうやといいんですけど。…ほんまに、ほんまに、そうやったらええ。昼からずっとそれが気になってて。」

二人はしばらく雨を眺めた。

「おもろいよなぁ」クラウリーが言う「ほんまいうとな、俺もずっと気になっとるんや。もしリンゴのアレが"良い事"やったらまずいなぁ…て。
悪魔が正しい事なんてやらかしたら、かなり面倒なことになるで。」
彼は天使を小突いた。

「あれや、二人とも間違っとったらウケると思わんか。
俺がやったことが良い事で、あんたがやったんが悪い事やったら、笑えるやろ、なぁ?」
「笑えまへんよ。」アジラフェルは言う。

クラウリーは雨を見上げた。「そうやな。」ふざけるのをやめ、真面目に言う「まぁ、笑えんわな。」

黒く淀んだ雲が、エデンの園になだれ込み、丘のあたりでは雷鳴が鳴り響いている。
まだ名付けられたばかりの動物たちは、はじめての嵐に身をすくめた。

遠く、雨に濡れそぼった森の奥で、明るい炎のようなものがチラチラと光っていた。
暗い嵐の夜の始まりだった。

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