【高校生くらいにもわかる】(不)純粋MMT批判【といいなぁ】

1.  はじめに

 いつものとおり、高校生くらい向けに書いていく内容なので、あんまり厳密なツッコミをされると困ってしまいます。困らせたいドSの方は、適宜どうぞ。そもそも、私は小学校を卒業して以降、まともに勉強をした記憶がありません。私がざっと本を読んで生じた感想を、人差し指二刀流でポチポチ書いていきます。

 ちなみに、この手の「初手言い訳」のことを、社会人用語で「ディスクレーマー(disclaimer)」といいます。社会人になると非常によく使うのですが、私には誰も教えてくれなかったので、ここに記載しておきます。私のような友達のいない新社会人、又は将来社会人になる皆様の、事故回避の一助となれば、大変幸いです。

2.  MMTとは

 この「MMTとは」というところが鬼門なのですが、L.ランダル・レイ著・鈴木正徳訳『MMT 現代貨幣理論入門』(東洋経済新報社、2019年)を読み、私が理解した内容は概要以下のとおりです。
 多分、注で引かれている書籍とかも読んだほうが良いのでしょうが、予算とか時間とか、主にやる気とかの問題で諦めました。許してヒヤシンス。
 あと、記事を作りながら気づいたのですが、電子書籍で買ったため、ページ数がわからんです。引用がやりにくい…。
 読むのが面倒な方は「4.  まとめ」までスキップしていただいて差し支えありません。

・政府の赤字は、民間部門の黒字である
 (国内民間収支)+(国内政府収支)+(海外収支)=0
 上記の式を前提とした場合、海外収支が一定であれば、国内政府収支が増加する(黒字になる)と、国内民間収支は減少する(赤字になる)という話です。
 重要なポイントは、「国内民間収支」は、長期間赤字であり続けることはできないということです。これは当たり前の話で、(政府とは異なり)我々国民は、長期間赤字を垂れ流すと、破産してしまうという話になります。言い換えると、民間収支が赤字≒政府収支が黒字の場合、民間の誰かが破産の危機に直面していることを意味します。海外収支を捨象した若干乱暴な議論ですが、とりあえずこんな理解で十分じゃないかと思います。

・自国通貨建の国債にはデフォルトの危険はない
 「デフォルト」とは、難しい日本語でいうと「債務不履行」のことだと思ってだいたい間違いないです。
 いいかえると、日本は、いくら借金をしたとしても、(ドルとか、ユーロ、元ではなく)「円」で返すことが許されている限り、期限までに必ず返すことができる、ということです。なぜなら、(比喩的な表現になりますが)日本政府は、造幣局(お札を作っているところです)に命令して、いくらでも一万円札を印刷することができるからです。
 この自国通貨建の国債にはデフォルトの危険はないという議論にはかなりの論理的飛躍があり、同時に本書の中でもそのことは自覚的に議論されているので、「日本は国債を円建てで発行しているからデフォルトしない」という事を金科玉条のように掲げている人は、中二病か、詐欺師のどっちかなので気をつけましょう。

・したがって、理論上、政府はdebtによる資金調達を無限に行うことかでき(これは民間の黒字になる)、いくらでも支出可能である
 おしゃぶってdebtとか書きましたが、要するに借金のことです。日本政府はいくらでも借金できるし、借金しまくって、民間にお金を出せば、それだけ民間が潤うということですね。本書には、インフレ率にうまく連動させることで、財政赤字が続いたとしても、(民間とは異なり)政府は継続的に支出することができる旨が記載されています。

・租税は政府の資金調達のためではなく、国民へのインセンティブであるべき
 意識高い系用語が出てきちゃいましたが、要するに、政府は借金でいくらでも資金を調達できるのだから、税金で資金調達すべきではないということ、そして、税金により、国民の経済活動を望ましい形に誘導すべきということです。
 日本人が「円」を有難がるのは、円で税金を支払わなければならないからである、との理屈から、税金がなければ「円」が社会を回り回ることはないらしいです。よくわかりませんが、言い換えると、税金には「円」の価値を根拠付け、経済を回す効果があるらしいので、経済を回してくれるような税金の課し方をしなければならないらしいです。
 非常に興味深いのは、悪の税金として、「社会保障税、消費税、法人税」を挙げているところです。この見解に対していいたいことはいっぱいありますが、MMT支持者で法人税をなくせと主張している方は、どの程度いるのかちょっと気になります。

・もっとも、様々な制約があるため、理論上支出可能であるからといって闇雲な支出をするべきではない
 ある意味、当たり前といえば当たり前の話で、政府は無限に支出が「できる」からといって、「すべき」ではないということです。具体的に、どのような場合にすべきではないかという点について、著者はインフレや為替レート、民間へのリソース供給、インセンティブの中立性、予算の変更コストが制約になると説明しています。
 多分、この点が最も誤解されているというか、誤解させている部分でもあるかなと思います。MMT論者も政府の支出に上限があることは認めています。

・政府は、失業者を雇い上げ、完全雇用を実現するために支出すべきである
 私が記載されている内容を理解したところによれば、国は、「就業保証プログラム」として、最低賃金で、失業者を雇い上げるべきであるとのことです。なるべく本文を引用する形で説明すると、政府は「固定の・・・基準報酬パッケージを設定」し、これは「民間部門の賃金がそれよりも下落し得ない下限を設定」することになる。政府は、当該「賃金を上回るのであれば、どんな価格であれ企業・・・に労働力を売却する」(企業の方が時給が高いなら、企業に雇ってもらうということ)。 そして、就業保証プログラムは「MMTの説明からこの政策提案を切り離すことができない」とのことです。
 政府は、適当に金をばら撒くのではなくて、雇用してしまうことにより、直接お金を必要としている人間に配ってしまうべきだという趣旨ですね。福祉やら生活保護やらまどろっこしい事をせずに、全員公務員にしてしまえ、というのは豪快ながら、まあ、わからんでもないと思います。

3.  感想

 細かいところでは色々いいたいこともありますが、巷で訳のわからない事を主張している自称MMT論者の言い分とは、だいぶ温度差があることがわかったので、それだけでもよかったかなと思います。そう思わないと3000円超の出費に胸が張り裂けてしまうだけかもしれません。
 少なくとも、「就業保証プログラム」に触れることなく財政出動しろという主張をされる方は、本書を読んでいないMMT論者なのでしょう。
 留意点として、本書は、これをすれば景気が良くなるというトーンではありません。ちょっと盛ってお話しすると、「日本は永遠に景気が良くならないけど、貧乏人は貧乏人なりに生きていけるような政策を考えたよ」という趣旨の本です。景気をよくしたい勢は今すぐ読むのをやめましょう。

 大きなところで3つ気になったところがあるので、仄暗い気持ちとともに吐き出しておきます。

 1つ目は、主流派経済学者が一体誰を指しているのかよくわからないところです。例えば、本書の中の主流派経済学者は、金本位制を支持していたり、商品貨幣論を支持していたり、あるいは中央銀行の仕組みを知らなかったりするのですが、一体これは何時代の話をしているのでしょうか。
 ちょこちょこ出てくる「30年前」とか、そういうキーワードを拾っていくと、(翻訳へのタイムラグもあるのだと思いますが)1960〜70年頃の経済学の議論に対して「新しい」と言い張っているような気がします。どこにもいない仮想敵を作ってこき下ろすのは、どんな悪口を言っても反論されないので、狡いですよね。
 同時に、いったい誰と戦っているのかよくわからない軸で話が進むので、主張のピントがボケているようにも思われます。

 2点目は、租税(又は国債)に関する考え方が、おそらく歴史的な事実とも現実とも乖離していることです。貨幣に対する考え方について、散々「『現実』対『虚構』」とか煽っている割に、租税についてはだいぶ虚構に寄せた見解をお持ちのようであり、このことはBitcoinに対する意味不明な説明(Bitcoinの説明ができない)につながっています。
 この点は話すと多分長くなるので、あんまり触れない事にしますが、機能の分析として100%間違っているというつもりはありません。しかし、「こまけぇことは良いんだよ」の精神で、大事なところまで捨象しちゃった印象を受けます。

 3点目は、「就業保証プログラム」があまり現実的ではないこと、日本では特にそうであろうことが挙げられます。著者は日本のことなんてこれっぽっちも念頭においていないので、これはもはや揚げ足取りに近い気もしますが。本書にも記載されているとおり、就業保証プログラムは、リソース不足が制約となって、日本では難しい印象を受けます。例えば、本書では、広大かつ安価な土地がいくらでもあることが前提となっておりますが、日本にそんなものはありません。失業者を集めて何すんだって話もありますし。
 上では煽るようなことも書きましたが、日本のMMT論者もそれをわかっているからこそこのような主張は行わないのでしょうが、MMTのロジックからすると、ちょっとなぁ、という気がします。

4.  まとめ

 MMTのロジックは、ざっくり、「就業保証プログラムを実行すべきである。なぜならば、貧富の差の拡大を防止するためには、完全雇用を実現するのが最善だからである。そして、就業保証プログラムはインフレ圧の小さい政策であり、これによって政府収支が赤字になるとしても、インフレ率との関係で継続可能な政策である」というものです。

 むしろ、問題なのは、MMTの名前を騙ったよくわからん奴らが、よくわからん事を言っていることにあるように思われます。MMTは打ち出の小槌でもなんでもなくて、単純に就業保証プログラムを導入するよう主張しているだけの理論なのに、就業保証プログラムを抜きに、理論の恣意的な切り抜き・濫用がなされている気がします。
 就業保証プログラムがなければ、多分無駄にインフレ圧が高まるんじゃないかと思います。

 念のため補足しておきますが、安倍政権の掲げていた2%というインフレ率も、結構キツイ(一般的な給与テーブルだと、多分生活水準は一生上がらない)レベルなので、インフレに伴い多少の賃金上昇があるにしても、出世レールから一度でもこぼれ落ちると、およそ生きていくには厳しい世界になるんじゃないかと想像できます(クビとかそういうレベルではなく、出世できないだけで生活がどんどん困窮していく計算になります)。

とりあえずこんなもんでしょうか。似たような話は無限にあると思うので、無限の中の1つと思っていただけると幸いです。

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