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百物語 【ショートショートホラー】


 「皆さんは『百物語』をご存知でしょうか?数人が一つの部屋に集まって、持ち寄った怪談話を一つ語る度に部屋に用意した蝋燭ろうそくを一本吹き消していく。それを繰り返して、100本目の蝋燭が消されたとき、不可思議な現象が起こると言われている、要は一種の肝試しなんですが、、、

これからお話しするのは友人達と百物語をした時に起きた出来事です。

とある場所に古びたお寺がありました。

普段から手入れがされていないのか草木が生い茂っていて、昼間でもなぜか薄暗く、地面は常にぬかるんでいて、お寺の敷地内のそこら中に大量の御札おふだが雑に貼られているような、そんな不気味な場所なのですが、自分たちは夏の思い出にとふざけ半分で、そのお寺を勝手に使って『百物語』をすることにしました。

決行当日の深夜12時にレンタカーをお寺の前に付けて、扉を閉ざしている南京錠をクリップでこじ開けて、お寺の中に忍びこみました。
この時の私たちは、これから百物語を行うという恐怖心と勝手に忍び込んでいる罪悪感や高揚感がゴチャっと混ざった感情になっていました。

真っ暗の寺の中をスマホのライトで照らすと、そこにはおびただしい数の御札や薄汚れた仏像、蜘蛛の巣だらけの壁や天井、こもった埃のにおいなどの想像とは反対に、綺麗に磨かれた仏像、蜘蛛の巣やシミが一つもない壁や天井、綺麗に磨かれた床など、外観の気味悪さとは真逆の空間に拍子抜けしたと同時に少し気味の悪さを感じました。

お寺の近くには住職が住んでいるため、息を潜めながら蝋燭を準備して、火をつけ、それを囲むように座り、みんなの心の準備が出来上がったのをアイコンタクトで確認した後、一話目の話が始まりました。

サワサワと草木が擦れる音やピキッと木材が軋む音が聞こえるたびに私たちはビクビクと震えながら、最初の話を聞き終えて、一本目の蝋燭が吹き消されました。

ツゥーっと1本、立ちのぼったその煙を残りの99本が照らす。

また、次の人間が話し終え、一本、また一本、と吹き消されていく度に少しずつ部屋を照らす明かりが暗くなっていきます。途中、中だるみもありながらもぶっ続けで話し、、、

ようやく最後の一本に。

弱々しい蝋燭の光でみんなの表情がぼんやりと浮かび上がる。
最後の話は100本目に相応しく恐怖がじんわりと体に染み込むようなおぞましいものでした。


『ふっ』


100本目の蝋燭が吹き消されると同時にぼんやりと見えていたみんなが見えなくなる。

信じているわけでもないのに、なにかが起こる気がしてならない。
何も起こらないで欲しいのに、何かが起こっても欲しい。

人間というのは一つの感覚が失われると別の感覚が鋭くなっていくもので、
視覚が失われた私たちの聴覚がどんどん鋭くなっていくのがわかりました。

周りの環境音が段々と大きく聞こえてくる。それは静まり返った寺の中では爆音に感じるほどでした。


そして、聴覚が尖りに尖って環境音の音量が最大になったその時、、、



ガサガサガサッ



突然の異音に全員が声を上げて驚き、恐怖で頭が真っ白になりました。


その音が猫やハクビシンなどの小動物が茂みを通り過ぎたものだとみんなが徐々に気がつき始めた時、自分たちの滑稽さにクスクスとした小さな笑い起こり始め、それが次第に大きくなり、気がつくと全員が大爆笑していました。

その笑い声も落ち着き始め、帰る支度を始めようとしたその時、







ピシャーン。

突然差し込んできた眩しい光と同時に扉が勢いよく開く音の方を向くと、そこには懐中電灯を持った住職が立っていました。私たちの奇声や笑い声で存在に気がついたのでしょう。

ヤバい。

逃げる私たちを鬼の形相ぎょうそうで追いかけてくるかと思いきや、火の消えた100本の蝋燭を唖然としながら懐中電灯で照らしていました。


『・・・・待ちなさい。』


逃げる私の耳にうっすらとそう聞こえてきました。


『君たち、、、行ってはダメだ』


追いかけてくる住職がそう呟いた頃には全員がレンタカーに乗り込んでいました。

『早く出せ!』

エンジンがかかったと同時に車を走らせ、バックミラー越しに見える住職が少しづつ小さくなって行きます。

徐々に恐怖心が和らぎ、みんなの息切れが安堵のため息へと変わっていく。

少し罪悪感を抱きながらも、私たちの百物語は幕を閉じました。



・・・ただ、一つ。



少し気掛かりなことが。




まあ、気のせいだとは思いますが。



逃げる時のバックミラーに写る住職の表情は、勝手に寺を肝試しに使われた『怒り』や『悲しみ』というより、『哀れみ』や『心配』のように見えました。」





・・

・・・

・・・・

・・・・・

・・・・・・

・・・・・・・

・・・・・・・・ふっ





長い沈黙の後、
そう話し終えた私は、


百本目の蝋燭を吹き消した。





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