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外見へのはめ込みに気をつけましょう

私が「外見へのはめ込み現象」と呼んでいることがあります。
 
例えばここに、見掛けがいかにも「おとなしくて真面目で静かな女の子」という雰囲気の女性がいたとしましょう。
この女性があるプロジェクトで成果を挙げたいと思い、人一倍勉強し、準備をして、プロジェクト会議に臨みます。
会議の場で、それまで誰もが考えなかった鋭い視点で、本質的な課題提起をします。
 
会議の場は「シーン」とします。
その場にいる幹部・リーダーやプロジェクトメンバーたちは戸惑った表情を見せます。
心の声が聞こえてきます。
「一体どうしたというんだい?びっくりだよ。君はおとなしい女の子で、真剣なプロジェクト議論の場では癒しの存在なんだから。周りを考えさせる課題提起なんて君には期待していないんだ。いつも通りおとなしく、ニコニコしてくれれば、それでいいんだよ。」

こんなことを、もちろん口に出して言う人はいませんが、そのような雰囲気が「空気」として流れ、結果として課題提起は「まるでそんな発言すらなかったかのように」流されて次の話題へ移っていきます。
 
この「周りから押し付けられる慣性力」のようなものの強さは凄くて、何度も押し返してくるだけでなく、時には「外見・雰囲気」に合った「捏造ストーリー」のようなものが本人不在のどこかで勝手に作られ、流布されていたりします。そして「やっぱりそうか、彼女らしい話だなあ。」と人々は彼女への役割期待をさらに固定しようとします。

ちなみにこの「役割期待」を押し付ける人は、いわゆるマインドレスなタイプの人です。
なので、先のプロジェクト議論の例では、残念な認知バイアスが起こるかどうかは、その場にいるメンバーにどれだけマインドレスな人が含まれているかという比率によって違ってきます。
 
このような構図のことが、日常の中では数多く起こっています。外見と内面の一致ということにはいくらでも例外があるし、ましてや中身の奥底なんてその程度の情報では何も類推できないものです。でもマインドレスな人は外見のステレオタイプに合う特徴をわざと目を皿にして探したりします。そして一つでも見つけると「ホラやっぱり」と安心します。
 
「おとなしい雰囲気の女性」はひとつの例に過ぎません。あらゆる「外見・雰囲気」に対してのステレオタイプが存在します。
 
・童顔だから人生経験が少ないだろう
・ガテン系の雰囲気だから難しい話は分からないだろう
・お人好しな雰囲気の人だから言いくるめれば思い通りになるだろう
等々・・・
 
心当たりのある方は、自分か苦労した局面、「あっ、今認知バイアスに反応されてしまった」という瞬間を思い出すことでしょう。
 
これは人間の習性なので避けられないことですが、うまく対応する方法はありますので、私が思う対処法を幾つかご紹介したいと思います。
 
1.受け取らない
 
まずは「相互コミュニケーション」と「マインドレスな反応」を自分の中で峻別し、反応に関しては受け取らないようにする。言うのは簡単で、なかなか難しいことではあります。反応的な言葉であったとしても、受けた方はどうしてもクヨクヨと悩んでしまうものです。
 
2.外見を工夫してみる
 
反応にギャップを感じるときは、自分の自然と感じる方向にメイクや服装を変えてみるのも良い手だと思います。外見を変えると周りの対応がこんなに変わる、ということは、女性で実感する人が多いのではないでしょうか。人間の割と単純な習性です。
 
3.接する相手を選ぶ
 
マインドレスに陥っている人にはなるべく接しないことが得策です。
「ああ言えばこう言う」タイプの人はマインドレスに陥っている可能性があるので、注意して観察し、距離を置くようにしましょう。そういうタイプの人はどんな建設的な会話を試みても
「でもあなたは~でしょう? だってあなたは~じゃない?」といった反応ばかりが返ってくる傾向があります。
 
逆に、自分の理解者と接する時間を増やすようにする。マインドレスの力は恐ろしく強いもので、放置すると自分自身の人格がはめ込まれた認知バイアスに寄せられていくことまで起きるものです。「スタンフォード監獄実験」という有名な出来事の文献を参照して頂きたいと思います。
意識して理解者、応援者との時間を大切にすることで、自然にありたい自分を維持する環境を整えることが出来ます。
 
関連して、近年多くの企業で採用されている「360°評価」に落とし穴があると思っています。
評価者を選ぶときに、「フェアな意見を頂きたいから『普段苦手に感じる人』へも評価依頼をお願いしよう」という殊勝な考えを持つとこのバイアスが入り込むことがあります。
 
身近にいつも接する人で苦手な人、なら良いのですが(それはそれで嫌ですが)、苦手な相手は互いに「何となくイメージで避けている」場合が多く、その場合は多様な視点というより、あなたのことをただ知らない人に評価をお願いしている可能性があります。その場合に認知バイアスがスコアに入り込み、結果があまり参考にならない、残念なものになることがあります。
 
4.コミュニケーション戦略 反論ではなく確認する
 
これに対処するコミュニケーションで最強のものは「NVC (Nonviolent Communication)」だと思っています。
「対立」や「緊張」から「信頼」や「思いやり」へ関係を変化させていくコミュニケーション技法を体系化したものです。
 
私の場合、振り返ってみると、悪い癖を身に着けていました。
私は感情を表に出さず、気持ちを喋らない傾向があるので、「感情の無い、人間味の無い人。」のような反応をされることが多く、そんな反応を放置するという行動を身に着けていました。「相手がそれを求めているのだから、『その通りだ』と言って喜ばせておけばいい」。しかし、この対処方法は長い目で見て誰も幸せにならないのです。
 
NVCの手法で効果的なのは、反論ではなく、確認することです。
先の「おとなしそうな女性」のケースだと、相手に
「普段静かな私が課題提起をしたから驚いておられるのですね?」
と問います。
 
確認が間違っていた場合、相手は本当の理由を答えます。
「いいえ、そうではなくて、あなたの課題提起に前提の違いがあると思ったんです。私の理解はこうです…」と建設的に会話が続きます。
一方、
「いいや、別にそういうわけではないんだけれども・・・」と言葉を濁す場合は、本音はその通りです。

5.場所を変える
 
余りに自分が自然でいられない環境であれば、場所を変える、すなわち転職も含めた選択が必要な場合があると思います。
アメリカで勤務した私の経験上、アメリカの企業ではこの認知バイアスを日本ほどは感じません。移民国家で多様性が進んでおり、もともとステレオタイプな認知をしようがない、ということと、属性で態度を変えることが即訴訟リスクにつながるという常識が徹底されているのだと思います。
新人であろうが、性別の違いであろうが、属性ではなく発言の質・内容だけが取り上げられる傾向があります。
 
必ずしもアメリカへ渡ろう、ということでは無くて、外資企業に勤める、あるいはそれに似た雰囲気・組織風土を持つ働き場所を探すということは有効な選択だと思います。
 
日本は、インドのカースト制度ほどではないですが、士農工商の役割区分と封建制度の文化がまだ色濃く残っている部分があると思います。アメリカではインドのIT技術者が多く活躍していますが、カースト制度の下で頑張っても将来を見出せなかった立場の人が、カースト制度に定義の無い新しい職業に活路を見出し、海外へ渡って豊かな成功を手に入れた、という側面があると言われています。
 
6.歳を取ったら解決する
 
これは経験的に想うことで取り付く島の無い話ではあるのですが。
 
若いうち人間はまだ、この世に頂いて生を受けた肉体の姿が生まれたままの形を維持しているので、外見で評価されることの比率が大きくなりがちです。
 
ただ、年齢を重ねるうちに「内面がにじみ出てくる」ということがあって、内面と外面が近くなってくる、という現象があると感じます。そうなると、長年自然に付き合いたい人と関係を築いてきた結果の人間関係と相まって、自分がより自然でいられる人生のステージが現れるような気がしています。もちろんこれは本人の選択次第であり、自然な選択を好まない人にはそのようなステージは現れないのですが。


 
あくまで私が思い起こす対処事例なので、共感する部分はぜひ参考にして頂き、ご自分の人生を豊かなものにすることに活用して頂きたいと思います。

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